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38話 不安な一日

途中から明日香ちゃんの視点になります。


またしばらく明日香ちゃん視点の回が続きます。



 翌日。ほんの少しの睡眠しかとれなかった俺は、予想通り少し調子が悪いと言わざるを得なかった。今のところは頭が少しフラフラする程度で済んでいるのが、不幸中の幸いである。適当な理由をつけてもうひと眠りすれば、体調自体は何とかなるだろう。

 だが気を付けなければいけないことが一つあるとするならば……俺の体調が悪いことを二人に悟られないことだ。昨日一日の行いにおいて俺の体調が悪化する要因があるとするならば、夜の一件以外にない。

 仮に俺の体調のことが知られれば、二人がひどく落ち込むことは目に見えている。そんな風にさせないよう、俺はなんでもないかのように取り繕う必要がある。それがゴールデンウィークにおける、俺の使命でもあるのだ。


 だが現実は、結構非道なものであった。


「はい……はい、わかりました。では十時ですね、よろしくお願いします。失礼します」


 朝、三人で朝食を食べていた時に、突然俺のスマホに着信が届く。不思議がる芽衣と風見さんをよそに、俺は席から離れて電話に出た。

 友達どころか知り合いもそこまでいない俺の場合、電話をかけてくる人はそんなに多くない。しかもそのうち二人は目の前にいるので、必然的に三択まで絞られる。

 壮馬は休日の早朝から電話をかけてくることは珍しい。更に両親という可能性も、芽衣が近くにいるから考えにくい。この状況なら、芽衣の方にかけてきそうなものだし。

 だとすると必然的に一つしかなかった。スマホが鳴った時点で、誰からかかってきたかは察していたし、用件も予想がついた。

 想定通りの会話を繰り返した後、了解した旨を向こうに伝え電話を切った。そしてなんでもないかのように食卓の方に戻った。


「誰からだったの?」

「バイト先。今日出勤するはずだった人が病欠したから、代打を頼まれた」


 風見さんから内容について聞かれたので、俺は淡々と答えた。

 電話の相手はバイト先の店長の島田さんで、一人病欠して足りないから出てほしいとのことだ。普段なら一人欠けたところで最悪回せないこともないが、今はゴールデンウィーク。お客の数も尋常じゃないことだろう。

 そして本来なら大学生とかの先輩とかを指名しそうなところだが、全員に振られたのかな? そこまでは聞かなかったが、どちらにせよ断る理由がなかった。

 結構シフトに自由を効かせてもらっているがゆえに、島田さんにはそれなりの恩義がある。それにここで断って、変に二人に勘付かれるよりはマシだ。体調が少しよくないといっても、働けないことはない。今日出たら明後日は出なくてもいいって言われたしな。


「むぅ~せっかく課題も早く終わりそうだったから、午後から一緒に出掛けようと思ったのに……」

「し、仕方ないだろ……さすがに断りづらいし……」

「でも……」

「その代わり明後日休みになったから……そしたら好きなだけ付き合ってあげるから」

「……なら許す」


 機嫌を損ねかける風見さんだったが、何とかすぐになだめることができた。風見さんの機嫌まで悪くなったら、いよいよ俺の胃に穴が開きそうだった。昨晩やっとのことで芽衣の機嫌をなだめたというのに……


「芽衣も悪いな……せっかく来てくれたのに……」

「ううん、いいの。バイトなんだから仕方ないよ……でも私もデートを所望するよ、もちろん二人きりでね」

「……わかった。考えとくよ」


 芽衣も問題なく了承してくれたことで、この場での平和は保たれた。ゴールデンウィークの残り二日を二人に捧げることになったのだが、これくらいお安いものだ。


 だが唯一の心配事があるとするならば、今日一日この家に二人を残すことくらいだ。犬猿の仲ではないものの、確実に仲がいいとは思えない。明日になれば訪れたことだが、早くなったことで親睦を深めることはできなかった。

 俺的には二人とも仲良くあってほしいものだが……とにかくさらに険悪にならないことを祈るだけだ。




 適当に時間を潰しバイトに行く時間になったので、俺は荷物を持って玄関に向かう。二人も見送るために、俺の後ろについてくる。今日も当然のようにメイド服なので、マンガ等でありそうなお見送りの光景が完成してしまった。

 風見さん一人になら時々されたことあるが、まさか複数のメイドさんに見送られる日が来るとはな……人生何が起こるかホントわかったものじゃないな。


「じゃあ出かけてくるけど……二人とも仲良くな」

「もちろんだよ! お義姉ちゃんとしては当然だよ!」

「うん、ちゃんと仲良くするよ……最終的には」


 笑顔でそう答える二人だが、安心する要素がどこにもなかった。言葉の節々からやたら攻撃的な単語が混じっていて、俺は二人にバレないようにため息をつく。

 馬が合わないというわけではないのに、どうしてこの二人は仲良くなれないのだろうか……どうか俺が帰ってくるときに、気まずい雰囲気にはならないでほしいものだ。


「それじゃあ、行ってくるよ」

「いってらっしゃいませ、ご主人様♪」

「いってらっしゃい、お兄様♪」


 甘ったるい二人の見送りの言葉とともに、俺は家を出たのだった。この後家で起こることは、おそらく俺が知ることはない。いろいろな状況を想像してしまい、頭を悩ます俺であった。



◇ ◇ ◇



 玄関で楓馬君を見送った後、家の中は静寂に包まれた。

 楓馬君を見送るために笑顔を浮かべていた芽衣ちゃんはというと、既にその表情は別の感情が示させていた。悲しみ……とは違うかもだけど、名残惜しそうに何かを見つめるような、そんな表情をしていた。てっきり敬愛する楓馬君がいなくなったことで、表情もむすっとしたものになると思ったが、見当違いだった。


 そんな芽衣ちゃんの様子を見て、私は少しだけ心が揺らいだ気がした。いつもは楓馬君を巡り対立することが多い私たちだが、実際私としては芽衣ちゃんと仲良くなりたいって思っている。これは将来的に義理の姉妹になるからとかではなく、純粋に一人の女の子として仲良くなりたいからだ。

 私とて波乱万丈な人生を歩んだものの、ちゃんと学校には行っていた。高校時代は生活等もあって周りを見る余裕がそこまでなかったものの、中学時代はまだ周りを見る余裕はあった。そもそも働ける身分じゃなかったのもあるけど。

 その過程において、芽衣ちゃんみたいな女の子はクラスに一人はいた。いつも自分の席で一人でポツンと座っていて、本を読んでいるような感じの子。大抵そういう子というのは、人の輪に入りたくても入れないような子なのだ……私の勝手な見解だけど。

 当時の私はお母さんが亡くなったショック等もあって、他人を助けるような精神状態ではなかった。だが今は違う。


(私も楓馬君みたいに……誰かを助ける存在に……!)


 あらゆるしがらみから解き放ち、自由で普通の生活を与えてくれて、何より今も私の心の支えとなっている私のヒーロー、楓馬君。楓馬君の起こす行動の全てを尊敬するのと同じくらい、私も楓馬君のように誰かを助けられるような存在でありたいと思っているのだ。

 芽衣ちゃんからしたら余計なお世話だと思うかもしれないけど、行動せずにはいられない。楓馬君にふさわしいメイドさんを目指すためにも、ご主人様の妹さんのお世話をするのも仕事の一つだ。そう割り切ってもらおう。

 そんな中芽衣ちゃんは回れ右をし、リビングに向かおうとする。きっと楓馬君がいなくなったことでやることがないのだろう。そのチャンスを狙い、私は声をかける。


「芽衣ちゃん!」

「……なんですか?」


 少し不機嫌そうな声ながらも、芽衣ちゃんは私の呼びかけに応じた。ここで無視でもされてたら、ちょっと泣いていたかもしれない。

 だがめげることなく、私は早速行動を起こすための第一声を上げる。





「今から出かけない? 二人で!」







ジャンル別月間4位、ありがとうございます!




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