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36話 料理対決・明日香編




「さて! 次は私の番だね!」


 芽衣の作った生姜焼きを平らげると、風見さんはついに来たとばかりに声を上げる。さっきまで芽衣の生姜焼きをうまそうに食べていたと言うのに……ホント食には貪欲だな。


「芽衣の完璧な生姜焼きに、風見さんは勝てるというの?」

「う~ん、どうだろう? でも負ける気はしないよ!」


 芽衣からの煽りっぽい言葉を気にすることなく、風見さんは張り切ってキッチンの方に向かった。芽衣も芽衣だが、風見さんもこの勝負において絶対的な自信があるみたいだ。

 確かに風見さんの料理の腕は、俺が保障している。ここ一か月くらいは毎日風見さんの料理を食べてきているしな。芽衣に負けず劣らずの腕前を持っているのは間違いない。


「……で、実際どうなの? 風見さんの料理の腕は?」


 風見さんがキッチンに着いたタイミングで、芽衣は俺に耳打ちで聞いてきた。風見さんと同じように、芽衣も風見さんの料理の腕を把握していないのだ。


「そりゃ上手だよ、俺が雇ったくらいなんだから。まだレパートリーがちょっと少ないから、昔の芽衣を見てるような感じだけど」

「そうなんだ……なら芽衣の勝利は揺るがないかな」

「いや……わからないぞ?」


 勝ちを確信している様子の芽衣だが、最終結果がどうなるかはわからない。俺はそう思っている。

 風見さんはあらゆることに対してスペックが高い……というか技術の習得等が異常に速いのだ。初めてのことでも一週間そこらで大抵の人に勝てるくらいには。

 それは料理に関しても例外ではない。元々調理実習等でそれなりの技術は備えている。俺が雇う前はお金がない故に作れる料理の幅が広がらなかったようだが、今は違う。まだ一か月も経っていないが、ものすごい成長を遂げているのは間違いないのだ。

 だから最後まで気を抜くことなどできないのである。まぁ気が抜けないのは俺ではなく、芽衣と風見さんなんだけどな。


 それにしても料理しているメイド姿の風見さん……もうすぐ一か月くらいにはなるが、全然飽きないな~いくらでも見ていられるわ。

 そしてじっくりと見られている風見さんも、全く気にすることなく調理を進めていく。俺がメイド服姿の風見さんを追う光景など、この家においてはもはや日常と化しているのだ。


「……お兄様、見すぎだよ」

「え、あぁ、ごめんごめん。つい癖で……」

「癖って……いつもどれだけ見てるんですか?」

「え? なんかしてるとき以外はずっとだけど……」

「そうですかそうですか……今度からお兄様に会うときは、全部メイド服にしないと……」

「目立つからやめような? お兄ちゃんとの約束だぞ?」


 芽衣のとんでも発言に、さすがに止めに入った俺。この家の中ではともかく、ここ以外だと死ぬほど目立つからそれだけは勘弁してもらいたい。過去に同じことを風見さんがして、注目の的になった経験があるからな。


「……じゃあ今だけでも、好きなだけ見てよ! 芽衣のメイド姿を!」


 ならば! といった感じに芽衣は椅子から立ち上がり、メイド服姿をこれ見よがしに俺に見せつける。割と恥ずかしい恰好をしているはずなのに、本人は全く恥ずかしがっていないようだ。多分見せているのが、俺だからだと思うけど。

 デザイン的には風見さんのとさほど変わらないが、やはり丈が極端に短いミニスカメイド服。その魅力はすさまじいもので、スカートから伸びる脚からは何か魅惑的なものが放たれている気がした。

着ているのが芽衣(妹)じゃなければ、いろいろと危なかっただろう。例えば風見さんが着た場合……考えるのはよそう。理性がオーバーフローしてしまいそうだ。


「……見すぎ」


 そして料理しているはずの風見さんからも、このような言葉が飛んでくる始末だ。どうやら無意識であるが、めちゃくちゃだらしない表情で芽衣のことを見ていたみたいだ。

 てか両方から見すぎって言われて、一体俺はどうすればいいんだよ? 下向くしかできないじゃん……ザ・理不尽だな、ハハっ……





 そんな状態から少し時間が経ち、風見さんの調理が終わったみたいだ。完成品を手に、俺の元まで持ってくる。


「これは……オムライスか?」


 風見さんが作ったのは、至って普通のオムライス。メイドカフェでよくメニューにあるということで、風見さんも結構早い段階で覚えたメニューの一つだ。実際に比較的よく食べている気はする。この家においての実家の味と称しても差し支えない。

 だが一つだけ気がかりなことがあるとするならば、そのオムライスにケチャップやらデミグラスソースやらがかかっていないことだ。


「……何もかかってないな」

「ちっちっち。ここからが本番だよ!」


 しかしこれも戦略と言わんばかりに、風見さんがテーブルの横に立つ。その手にはケチャップの入った容器が握られていた。


「まさか実際に……!」

「そういうことだよ!」


 勢いよく答えた風見さんは、ケチャップのふたを開け手慣れた感じで文字を綴っていく。

俺もまじまじとその光景を眺めていく。たまに行くメイドカフェでの光景と瓜二つだった。

 そして風見さんの手によってキレイに書かれた文字は「ふうまくん」、言うまでもなく俺の名前だ。まぁ前にも「ご主人様」と書いたことあるし、このくらいで大げさに驚くことではない。けど純粋に嬉しいよな……


「さぁ、最後の仕上げもいくよ!」

「し、しあげ……?」


 だが風見さんのおもてなしは、まだ終わりではないみたいだ。まだ何を隠し玉でもあるのか……?

 心の準備のために深く深呼吸した風見さん。すると両手でハートのマークを作ると、自身の胸の前まで持っていく……待って風見さん! そ、その構えは……!






「おいしくな~れ、萌え萌えキューン!」






 俺は死んだ。胸の前でハートマークを可愛らしく振り、最後の最後で手を前に突き出す。しかも定番の魔法の言葉も添えてだ。

 これで萌えないメイドオタクはいない。少なくとも俺は萌え死んだ。その可愛さは尊いという次元まで向かい、最終的に限界を迎え何も考えられなくなったのだ。




ちなみにここから先のことはあまり記憶になく、あとから風見さんに聞いた内容で補足する。




「ちょ……なんですの、これは⁉」


 予想外のことに、芽衣はひどく驚いたようだ。俺が萌えの臨界点を超え、真っ白に燃え尽きたら、あの芽衣ならそう言うであろう。


「ふっふっふ……芽衣ちゃん。何か忘れてない?」

「は……? 芽衣が、忘れてる?」

「うん。今私たちがしているのは、楓馬君のメイドを決める闘い。料理はそれを採点するための手段でしかないの!」

「なッ……!」


 そのことを芽衣も思い出し、完全に度肝を抜かれたような反応をしていたみたいだ。


「確かに料理がおいしいのは絶対必須だけど……よりメイドらしく振舞うことこそ、今回の勝負では大事なの!」

「くっ……否定は……できない……!」


 芽衣も対抗しうる回答を思い付かなかったのか、その場で膝から崩れ落ちたようだ。この時点で勝敗はついていたと、風見さんは言っていた。




 風見さんの言う通り、この勝負は風見さんの圧勝であった。芽衣も渋々ながら、その結果を受け入れたのだった。

 ちなみにちゃんとオムライスは食べました、おいしかったです。






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