35話 料理対決・芽衣編
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課題もある程度片付きキリがついたところで、時刻は十一時くらいになった。結構集中していたのもあり、時間もあっという間に過ぎていった感覚がした。
そのせいもあってか、まだ昼には早いけど少しお腹もすいた気がする。普段からこんな集中して勉強をしないせいだとは思うけど……変なエネルギー使ったわ。
そして芽衣と風見さんも、待ちに待ったと言わんばかりに勢いよく立ち上がる。二人のメイドが視界に収まっただけで、俺の英気は既に養われた気がした。
「……やっと芽衣のターンがやってきた。絶対に負けない」
「それはこっちのセリフだよ! 楓馬君の胃袋を掴んでいるのは、私の方なんだから!」
「ふっ……掴んだと言ってもたかが一か月……三年以上お兄様の胃袋を掴んできた芽衣が負けるはずない」
まだキッチンにも立っていないのに、二人は早速火花を散らすような視線を向け合っていた。二人とも料理が得意なだけに、これは負けられない戦いなのだ。
ちなみに言ってなかったが、芽衣は普通に料理ができる。両親が共働きの影響もあって、昔から芽衣がキッチンに立つ姿は珍しくなかった。料理が全くできない俺とは違って、当時小学生だった芽衣の料理の腕は相当なものだった。
「じゃあまず芽衣から作る。久しぶりに芽衣の手料理をお兄様に食べさせたいし」
「別に構わないよ。先でも後でも、私が勝つから!」
先攻後攻が決まったところで芽衣はキッチンへ、風見さんは俺と一緒にリビングで待つことになった。二人とも自分が負けるはずないとばかりに、自信満々の表情をしていた。
てか今思ったけど俺二人分も食うの? 一応成長期だからそれなりの量は食える自信はあるけど、大丈夫か?
「……芽衣ちゃんって料理できるの?」
「芽衣か? 芽衣の料理の腕は確かだぞ。共働きの両親の代わりを長いこと務めているからな」
芽衣の料理事情を知らない風見さんに、一応の説明をしておく。別に隠すことでもないしな。
それにしても芽衣の料理する姿を久しぶりに見たな。たびたびウチにやってくるときは、弁当箱やタッパーにあらかじめ作った料理を持ってくるとかしかなかったからな。芽衣もできれば出来立てを食べさせたかったところだが、さすがにここに料理道具一式を揃えるだけのお金はなかったようだ。
今回は料理道具が揃っているのと、冷蔵庫にそれなりの材料があるから実際に作ってくれるようだ。
「……どうしたの、お兄様? さっきからずっとこっちばかりを見て?」
「え、あ、いや、なんとなくだ……すまん」
キッチンで何かの下ごしらえをしていた芽衣の姿に、俺は無意識的に視線を吸い寄せられていたようだ。こうして芽衣の料理する姿を見るのも、ここに来る前日以来なんだよな。あの件があったがゆえに、一度だって実家に帰ったことないし。
「ふふっ、もっと見てもいいんだよ。未来の妻が、夫に料理を振舞う光景を♪」
「つ、妻って……」
生々しい単語が芽衣の口から飛び出たせいで、俺の心臓が一瞬跳ね上がった。しかも中学生らしからぬ妖艶に笑みを浮かべる姿から、冗談という感じが一切なかった。
さっきも俺と結ばれるのは自分だと、自信満々に言っていたしな。その言葉の真偽は未だわからないが、今までの態度を見る限り冗談とは考えにくい。
「むぅ~こっち見て!」
「ぐへぇッ!」
いろいろと考え込んでいたところで、風見さんが俺の顔を掴み視線を無理やり移動させた。割と至近距離まで迫っていたのもあった、俺の視界には風見さんの顔しか映らなくなった。
「せっかく私の手が空いてるんだから、私とおしゃべりしようよ~」
「は、はい……」
風見さんの少し甘みの帯びた声が鼓膜に響き、俺はつい「はい」としか返せなくなった。外見も顔も百点をつけられる風見さんにそこまで迫られ、ごちゃごちゃ考える余裕なんてない。
「……私とお兄様の邪魔を……」
「邪魔とかじゃないから! 料理に集中してほしいだけ!」
まだ何一つ料理が完成していないと言うのに、二人でにらみ合うのはマジで止めてくれないだろうか! しかも一切笑ってなくて怖いんだけど⁉ この空気に晒されている俺の身にもなって!
……などと口が裂けても言えるわけもなく、俺はただ待つしかできなかった。
風見さんの言葉に芽衣も刺激されたのか、さっき以上に集中して料理に取り掛かる。そして待つこと二十分弱、料理を終えた芽衣は盛りつけた皿を持って俺のところまで持ってきた。
「お兄様、できたよ」
「おぉ……生姜焼きか」
「うん……お兄様に作るのは久しぶりかな?」
芽衣が俺のために作ってくれたのは、俺の好物の一つである生姜焼きだ。好物というより、芽衣がよく作ってくれるから好きになったと言った方が正しい。いわば実家の味みたいなものだ。
あと芽衣が初めて俺に作ってくれた料理っていうのもあったりする。料理のレパートリーが増えるまでは、よく食べた記憶がある。
「ほ、ホントに上手なんだね」
「当たり前だよ。お兄様と将来を歩むのなら、料理の勉強は当たり前のこと。お兄様の好みは全て把握しているよ」
「マジかよ……」
だから実家にいたとき、嫌いな食べ物とかほとんど出なかったのか。まさかそこまで把握されているとはな……
「んじゃ、いただきます」
箸で肉をつまんだ俺は、そのまま口まで運んだ。その瞬間、懐かしのおいしさが口いっぱいに広がった。
芽衣も言った通り、俺が芽衣の作った生姜焼きを口にするのは久しぶりのことだ。出来立てが一番おいしいが故に、芽衣が弁当箱で持ってくるときにはチョイスしないからな。
「……うん。やっぱり旨いな、芽衣の生姜焼きは」
「やった!」
もはやわかりきっていた答えだろうけど、芽衣は珍しくガッツポーズをしていた。普段ならもっと控えめに喜んでいただろうけど、一応風見さんとの勝負なだけあって喜び方は一味違う。とりあえず優位に立てたのが、相当嬉しいようだ。
「……確かに美味しいね。すごい手慣れている感じだったし」
「ふふっ……もう百回以上は作ってますから、おいしいに決まってるよ!」
風見さんも一口もらい、その味を素直にほめていた。ただ風見さんの場合、よほどのゲテモノじゃなければ美味しいって言いそうだけど。
「お兄様。芽衣と結ばれれば、いつでも美味しい料理が食べれるよ!」
「そ、そうか……」
「はい!」
俺の反応から既に勝ちを確信したのか、芽衣の表情からは自信しか溢れてこなかった。負けることなど一切考えていないようだ。
確かに芽衣の料理は旨かった。長年一緒に暮らしてきただけあって、俺好みの味付けにした完璧な出来栄えだった。
だがそれが絶対的な勝利への確信につながるかといえば違うといえよう。なんたって俺自慢のメイドさんが待ち構えているのだから。
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