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34話 お勉強会




 さて芽衣がメイド服に着替えたところで、早速採点の時間……ということにはならなかった。理由は至って簡単……特にやることがなかったからだ。

 メイドの仕事と言っても、俺が風見さんに頼んでいることといえば家政婦の仕事みたいなものだ。炊事洗濯掃除などといった、生活する上で必要不可欠なことが中心だった。

 だがこの瞬間において、これら全て片付いてしまっているのだ。洗濯や掃除などは既に風見さんが済ませているし、昼ごはんの準備にしてはまだ相当早い。芽衣が早く来てしまったので、まだ九時前という時間なのだ。

 というわけでお昼までは一旦休戦という形になった。芽衣も風見さんもギスギスした空気になっているわけではないが、出来れば仲良くなってほしいのが兄・主人としての心境だ。絶対水面下での戦いは繰り広げていそうだけど。

 だがだからといって全くやることがないわけでもなく、俺たちは勉強もとい課題を片付けることにした。何度でもいうが俺たちは学生だからな、勉強するのがお仕事みたいなものだ……という大義名分の元、いろいろごまかしているとは口が裂けても言えない。俺も勉強は好きではないしな。


 自室から勉強道具を取り出した俺たちはリビングに集まり、早速課題を片付けることにした。芽衣もスーツケースから課題らしき冊子を取り出しており、既にシャーペンを走らせていた。

 科目の得意不得意が激しい俺と違って、芽衣はかなり頭がいい。非常に要領よく勉強できていたので、テスト等でも苦戦してる姿など見たことない。そんな芽衣もついに受験生になったのだが、地元の難関校くらいなら余裕で合格できるだろう。


「勉強道具持ってきてたんだな……課題か?」

「課題ではないけど……お兄様がバイトに行っているときの暇つぶしとしてだよ」

「勉強を暇つぶしって……受験生なのに……」

「いつものことだから」


 いつものことって……まぁ自主的に勉強しているだけで十分偉いけど。受験生なのに現実逃避して遊ぶヤツとかも普通にいるしな。


「それに志望校の合格ラインは超えるから、受験勉強なんていらないし……」

「そうなのか……芽衣、そんなに勉強してたのか……?」

「えぇ、当たり前だよ……お兄様と同じ高校に行くからね」

「え? 芽衣青葉に来るの?」

「もちろんだよ」


 さも当然かのように、芽衣は淡々と志望校を口にする。俺も芽衣の志望校を聞くのは初めてだった。

 一応青葉学園も進学校ではあるが、めちゃくちゃレベルが高いわけではない。文理の点数の差が激しい俺が入れたくらいだ。実際英語は二十点くらいしか取れなかったし。

 だが芽衣なら、青葉以上の進学校だって狙えるはずだ。地元にも相当レベルの高い高校があったはずだ。


「レベルとか学校の雰囲気とか関係ない……お兄様がいるかどうか、それが何よりも大事」

「って言っても一年間だけだけどな……」

「それでもいい。その一年間を謳歌するために、今高一の勉強しているから」

「そうかそう……え、ちょっと待って、今高一の勉強してるって言ったか⁉」

「うん。そんなに難しくないよ」


 そう豪語する芽衣が使用するテキスト、確かに高一の数学らしき文章が書かれていた。俺も去年散々見てきたから、記憶に新しい。


「もちろん全教科まんべんなく出来るよ。英語ならお兄様にも教えられるかも」

「ははっ、さすがに芽衣に教えてもらうことなんてないよ……ないよな?」


 その瞬間、我が家のリビングが微妙な空気に包まれた。まるで通夜……とまでは行かないが、比較的それに近い感じになった。

 確かに俺の英語は割と死んでいる。だけど風見さんに教えてもらったりして、少しずつだが学力は上がってるはずだ。ましてや中学生の芽衣に高校の勉強を教えてもらうことなんてないはずだ!

 その期待を込め、俺は周りの様子を伺ったが……二人とも微妙な感じだった。


「……」


 風見さんは苦笑を浮かべているようだが、顔を下に向け視線を合わせようとしない。実際に俺に英語を教えたことのある風見さんが、まさかのこの反応……なんとなくわかってはいたけど、結構きついな……


「……あぁ! ごめんなさい、お兄様! 芽衣、つい不用意にあんなことを……」


 そして芽衣はというと口を抑え、顔を青くしていた。自分の発言がこんな雰囲気を作り出したと思い、自分を責めようとしていた。


「だ、大丈夫! 芽衣は悪くないから!」

「ほ、ホント……芽衣のこと、嫌いにならない?」

「ならないから……そもそも俺の学力が低いのが悪いから……」


 俺は速攻で芽衣の元に向かい、落ち着かせるために頭を撫でてやる。昔から泣いている芽衣にこうしてあげるだけで、一発で泣き止むからな。落ち着かせるときでも効果的である。

 その想定通り芽衣の顔色がいつも通りになり、十分に落ち着きも取り戻していた。もう手慣れたものだった。


「……ありがとう、お兄様」

「気にすんな。俺は芽衣のお兄ちゃんだからな」

「お礼に英語教えてあげるね」

「え、いや、別にそこまでしなくても……」

「芽衣がしたいだけだから……それにお兄様の課題を早く終わらせて、もっとお兄様とお話したいし……」

「そ、そう言われると……」


 否定の言葉を口にしようとするが、うるうるとした目を向けてくる芽衣の前にその言葉が出ることはなかった。

 だが確かに芽衣の言う通り、誰かに教えてもらった方が課題も早く終わる気がした。英語の担任が、ゴールデンウィークだからと言ってたんまり課題出しやがったしな。一人で終わる気がしない……


「な、なら私が教えてあげるよ! 学年首位を守り続けるこの私が!」


 だがここで黙って見ているだけの風見さんではない。ここぞとばかりに俺と芽衣の間に割り込み、自分の腕を売り込んできた。割り込まれた芽衣の顔がヤバいことになっていたが、とりあえず気にしないでおこう。


「それに一回教えたことあるから私の方が適任だよ! 同じ授業受けてるわけだし!」

「……まぁ、そうだよな」


 割と正論を言われ、否定する気にもならなかった。厳しさはあるものの、確実にものにできる風見さんの勉強方法はためになった。きっと教師とか向いてると思う……完全に俺の偏見ではあるが。


 だがこのパターン……非常にデジャブを感じた。具体的には数分前の出来事であるが。俺のことに関して、二人が俺を賭けて火花を散らす。その光景は容易に想像がついた。


『楓馬君!』

『お兄様!』


 こんな感じで再び二人に呼ばれた後、


『『どっちに勉強教えてもらいたい(の)⁉』』


 こんな風に答えのない質問をぶつけられるだろう。そう考えただけで胃が痛くなりそうだ。

 だが風見さんの言葉を受けた芽衣の反応は、俺の予想を翻した。


「……じゃあ見させてもらおうかな、風見さんの教え方というの」

「え……う、うん! 任せて!」


 ここで張り合ってきそうな芽衣だったが、意外にもあっさりと引き下がった。これには風見さんも一瞬拍子抜けたことだろう。実際俺も驚いているし。


「なんか意外だな、芽衣が引き下がるなんて」

「……教えるって言っても、芽衣は一回も人に勉強を教えたことないから。下手に教えるよりは、やったことある人の手本を見た方が効率的と思って」


 なんでもないかのように淡々と理由を述べる芽衣。理由はどうであれ、確実に降りかかりそうなトラブルが降ってこなかっただけマシと考えよう。

 それにこれで少しでも芽衣と風見さんがいい感じになってくれたら御の字だ。


「それに勉強じゃなくても、料理で勝ればいい。お兄様の胃袋を掴むのは、芽衣の方なんだから」

「あ、はい」


 だが根本的には、まだバチバチの関係のようだ。二人が仲良くなるのは、まだ先の話のようだ。


 こうして勉強会は大きなトラブルが発生することなく、滞りなく進んでいった。風見さんも芽衣の前で勉強を教えられて嬉しいご様子だった。とりあえず同居人の機嫌が損なうことがなかったので、よかったといえるだろう。このまま何事も起こらなきゃいいけど……





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