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33話 妹メイド



 とまぁそんなわけで、このゴールデンウィークの期間だけ芽衣もウチでメイドをするようです。今も俺のクローゼットから、自分が着られるメイド服を物色しているところだ。

 所持しているメイド服の大半は風見さんくらいのサイズだが、一応芽衣も着られるくらい小さいヤツもある。決して芽衣に着させたくて買ったわけじゃない、決して。


「……楓馬君、デレデレしすぎ」

「えっ、そんなにか……?」


 メイド服を眺める芽衣の姿を眺めていたら、正面に座る風見さんに怒られてしまった。すねて頬を軽く膨れさせているのは、さっきから変わらなかった。


「全部顔に出てるよ……初めて私がメイド服着た時のような顔になってたよ」

「マジか……俺そんな顔してたのか……」


 風見さんに指摘され、俺は慌てて表情を取り繕う。今自分の顔は一切見えなかったが、マジで情けない顔になっていたことだろう。なんとなくそんな気がした。


「……そういうのは、私にだけ向けてくれればいいのに……」

「えっ、何か言ったか?」

「ううん、なんでも!」


 小声で何か吐露したような気がした風見さんだったが、一切聞こえなかった。聞き返そうとしても、なぜか怒られて聞くことができなかった。なぜだ……


「……着られるのがこれしかなかった」


 そう愚痴をこぼしながら、芽衣は一着のメイド服を持ってくる。だがそのメイド服は、今風見さんが着用しているのとは種類が異なる。

 風見さんが着用しているのがクラシカルタイプで、足元までスカートがある一番想像しやすいメイド服ともいえる。なんやかんやでオーソドックスなヤツが好きな俺は、割とクラシカルを好む。

 芽衣が持ってきたのもデザイン的にはクラシカルと大して変わらない。全体的にエプロンのフリルが多い気がするが、ほぼほぼ変わらないだろう……圧倒的に短すぎるスカート丈以外は。


「……スカート、短すぎない?」

「……まぁ風見さんよりも小さなタイプだし、そんなもんだろ」


 風見さんが指摘したくなる気持ちは十分にわかる。俺も安易に否定することができず、ほどほどに肯定するほかなかった。

 芽衣が持ってきたのは正真正銘、ミニスカメイド服だ。膝など当たり前に見えていて、ちょっと激しい動きをすれば下着が見えてしまうかもしれない。そんな男のロマンを詰め込んだデザインになっているのだ。

メイドカフェなどの本場でもある、秋葉原でよくありそうな感じではある……金なくて行ったことないけど。


「……ちょっと恥ずかしいけど、これでお兄様を誘惑できるなら……」

「ちょ、芽衣⁉」

「芽衣ちゃん⁉」


 だが芽衣のたくましさは、想像を遥かに絶した。恥ずかしさを我慢してまで、今の状況をチャンスに変えるとは……さすがにそんな目で芽衣のことは見ないぞ! 多分!

 そのまま芽衣はそのメイド服を手に、別室へと消えていった。着替えてくるつもりなんだろうが、そんな生き生きと着替えに行かないで。本来恥ずかしいもののはずなのに……きっと風見さんもそんな感じじゃなかったはずだぞ! 多分!


「……相当張り切ってたね、芽衣ちゃん」

「あぁ……さすがに少し嫌がるかと思ったけど……」


 さすがにこれには俺も風見さんも驚くしかなかった。一応羞恥心はあったものの、俺を本気で惚れさせるために全力であるのをひしひしと感じた。

 芽衣の好意にはそれなりに気付いてきたつもりではあるが、まさかここまでとはな……


「……いくら血のつながっていない妹だからって、惚れちゃだめだからね?」

「わ、わかってるから……」

「楓馬君と結ばれるのは、この私なんだから!」

「えっ、そういうことなの?」


 なんか想像していた指摘とちょっと違ってたわ。別に芽衣を恋愛対象としてみること自体に嫌悪感を抱いているわけではなさそうだ。それはそれで安心したけどな。気まずくなることはなさそうだし。


 しばらく待っていると、再び別室の扉が開かれる。そこから出てくるのはもちろん芽衣なのだが……その姿は非常に神々しいものだった。


「お、お兄様……?」

「……」


 神秘的なものを見た時って、こんな心境に陥るんだな……と俺は察した。それほどまでに、芽衣のミニスカメイド姿は素晴らしいものであった。

 日に焼けていない白く美しい脚は、ミニスカメイド服の魅力を何倍にも引き上げる魔力的なものを感じる。さらに細い腕やまだ少し幼げな顔立ち、更にツインテールと、その持ち前の幼さが更なる魅力向上につながっていた。事前に予想していなかったが故に、その衝撃も大きいものであった。

 芽衣が小柄なことが大きいが、芽衣のメイド服姿は犯罪的な可愛さを感じるのだ。相手は二つ下の妹だが、幼いメイドさんというのもそれはそれでありだ……もう俺はいろいろとダメかもしれん。


「そ、そんなに似合わなかった……」

「それはない!」

「ひゃっ⁉」


 あまりの姿につい反応できないでいると、芽衣はどこか悲しい表情を浮かべていた。無反応すぎて、似合っていないと勘違いしてしまっているようだ。

 すぐに否定に入るため、俺は芽衣の肩をがっしりとつかむ。いきなりのことで、芽衣もかわいい声が漏れる。


「すまねぇ……芽衣のメイド姿が似合いすぎて、つい見入ってしまった。感動しすぎて言葉にできなかったぜ……」

「そ、そうなの……芽衣、似合ってる?」

「あぁもちろんだ。これ以上ないくらい似合っていたぞ、ミニスカメイド」

「そうなんだ……えへへ……」


 ストレートに褒められたことにより、芽衣もご満悦のようだ。さっきまでの心配そうな表情はどこへやら、今ではニヤニヤが抑えきれないようだ。


「むぅ……」


 それとは対照的に、風見さんはさらにむくれてしまっている。よく考えなくとも、好きな人が他人の服装をベタ褒めしてたら、すねるのは当然のことだ。このままでは機嫌が悪くなっていくのは、目に見えている。


「……あ、明日香も似合っているからな!」

「そ、そう? そうだよね~!」


 めちゃくちゃ不自然にほめた自覚はあるが、それでも風見さんは喜んでくれたみたいだ。風見さんもすぐにすねた状態からは治っていた。


「ふっ……でも一番は芽衣のメイド姿。これは揺るがない」

「そ、そんなことないよ! 楓馬君は私のメイド姿の方が好きなんだから!」


 だがここで、風見さんと芽衣による熱いバトルが繰り広げられようとしていた。互いが互いに、自分のメイド服の方が似合っていると信じて疑っていない。

 メイド服を着た女の子に優劣なんてない! と言いたいところだが、そんな綺麗事が通る状況ではなさそうだ。


「楓馬君!」

「お兄様!」

「は、はいっ!」


 不意に二人に呼ばれ、緊張が一段と跳ね上がる。顔を上げると二人の顔がすぐ近くまであって、すごい気迫を感じてしまう。この時点で俺は嫌な予感がした。





「「どっちのメイド服の方が似合ってると思う(の)⁉」」





 ……止めてくれ。そんなどっちを答えたとしても、地獄を見るような質問をしないでくれ。

 だが答えないのが一番地獄を見そうだ。ならば俺の揺るがない気持ちを二人に伝えるだけだ。


「ど、どっちも似合ってる……優劣なんてつけられないよ……」


 若干引きつりながら、俺は自身の気持ちを伝えた。嘘は一切ついていないし、テンパっているせいでこれ以上の回答を思いつかなかった。これでどうにか納得してくれ……


「……つまりこのゴールデンウィークの行いで、お兄様の一番のメイドが決まると言っても過言じゃない。そして選ばれた方のメイド服の方が、似合っているってことね」

「そうみたいだね」


 だが二人は、なぜが変な解釈をしてしまったようだ。どうしてそんな考えに落ち着いたのか、説明してほしいくらいだ。

 しかしこれ以上ないくらい、二人の意見は一致したようだ。撤回させることなど不可能だろう。


「というわけで採点よろしくね、お兄様」

「私、頑張るから!」

「……はい」


 もう全て諦め、俺は頷くしかなかったのだった。女の子が二人揃ったら敵わないと察した瞬間でもあった。





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