25話 ぶつかり合う気持ち
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部屋の電気も消して布団にもぐる俺。だが軽く味わっていたはずの睡魔は、いつの間にか消え去っていた。その原因は言うまでもなく、目の前で寝ている風見さんだ。
しかも向こうもすぐに眠りに就いたわけでもなく、軽く目をつむっているだけできっとまだ起きているだろう。さっきから全く寝息も聞こえてこないしな。
風見さんと同じベッドで寝るのは、これで二回目だ。前回は背中合わせにしたのと風見さんがスッと寝てくれたおかげで、まだ寝ることは出来た。だが今回は寝る前に、風見さんがこんなことを言ってきたのだ。
『今日は、向かい合ってもいいかな……』
どうしてそれが許されると思ったのか、俺は不思議でしょうがなかった。だが余程のことがない限りメイドさんのお願いを断れない俺は、結局それを許してしまうことになった。
故に今、目の前にはメイド服を着用した風見さんがしっかりと視界に収まっている。これで寝ろって言われても無理な話だ。今日はおそらく一睡もできないだろう。
「……もう寝た?」
すると不意に目を開けた風見さんは、俺に話しかけてきた。急にそんなことされるとびっくりするからやめてほしいものだ。そしてそれはわざと言ってるのだろうか?
「……寝れるわけないだろ」
「だよね~私も」
「おい」
思わずツッコんでしまうくらいの清々しい返し。だが悪気が一切感じられない風見さんの笑顔を前に、怒るなんて選択肢はなかった。
だが自分も眠れないほど緊張してしまうと言うのに、何故一緒に寝ようなんて提案したのだろうか。俺にはその理由がわからない。
「あんま無理しなくてもいいんだぞ。確かにメイドさんに添い寝は、これ以上ないくらい嬉しいけど」
「あ、気にしないで! 別に無理してるわけじゃないから」
「……それは今日の行動もか?」
この際だから聞いておこうと思い、次いでに聞いてみた。そのくらい今日の風見さんの行動は、不思議で仕方なかったのだ。
「……そんなに変だった?」
「変ではなかったけど……わざとらしいと言うか……特に夕飯とか」
「う~ん……まぁアレは、ね……」
本人もその時のことを思い出して、恥ずかしさで顔を隠している。
バイト先に来るのは百歩譲ってわかっても、夕飯の件は未だわからない。一体何が目的なのだろうか……?
「……でもね、特に深い意味はないよ。ただ本能が赴くがままに行動しただけ」
「本能……?」
それこそよくわからない一言だった。本能が赴くがまま……つまり風見さんが自分からしたいと思って行動したことになる。
だとしたらますますわからない……それが本当なら、夕飯のことの説明にはならないはずだ。
「……わからないの? こんなにも積極的にアタックしているのに」
「アタック……え?」
そのワードに、俺は一つの可能性を導き出す。だがその可能性はあまりにも現実味がないものであって、俺はその信憑性を疑った。
だがここにきて、風見さんはただでさえ狭いベッドのなかで、更に接近してきた。少し動けば、鼻と鼻の先がくっついてしまうかもしれないくらいの距離まで。
「……もうわかるでしょ?」
囁くかのような優しい声をもって、風見さんは自分に視線を集めさせる。その言葉に惑わされた俺は、つい風見さんから目が離せなくなる。
すると一瞬の隙を突かれ、風見さんは俺の耳元に口を持ってくる。その想いを、しっかりと俺の全身に刻みこませるために。
「増井君のことが、好きなんだよ」
その言葉は、身体中まで響き渡る魔法の言葉だ。聞くだけで顔がバカみたいに熱くなり、心臓が信じられないくらいのビートを刻んでいた。
「……え? それって……え?」
「もう~慌て過ぎだよ、増井君……」
実際に言葉にされた俺は、もう何が何やらわからないといった感じだった。実際その可能性をほんの少しだけでも感じていたからこそ、まだこんな反応が出来た。準備なしだったら、今ここでベッドから転げ落ちていてもおかしくはなかった。
対する風見さんも口調こそ平気そうだが、未だかつて見たことないくらい顔を真っ赤にしていた。いくら風見さんでも、恋愛としての好意を伝えることには慣れていないようだ。
「で、でも、なんで俺なんかのことを……」
「なんでって……増井君。君は私という女の子を落とすのに、十分すぎる功績を上げたんだよ?」
そういうと風見さんは自分の人差し指を、俺の鼻の先にくっつける。まるで何か俺のことを差しているかのように。
「まず増井君は、私を苦しい境遇から救ってくれた。せっかく当てた大金を、惜しみなくほぼ初対面の私に使うって、中々できないことだからね」
「お、おう……」
それ自体は壮馬からそれとなく言われたから、なんとなく自覚はしている。
だがこれに関しては、見返りとして風見さんにメイドさんとしてウチで働いてもらっている。それだけで大金を払うだけの価値はあるし、お互いにメリットのあることだと思っている。
「それに私に、普通の学園生活を送らせてくれた。いつも私の情けないところを隠さないといけなかったけど、それも増井君のおかげで解決出来た」
「そ、そうだな……」
確かにその件は頷かずにはいられなかった。自身の生活を送ることでいっぱいいっぱいだった風見さんは、それが原因で周りと壁が出来てしまった。少なくとも女子高生らしい生活は送れていなかった。
だが今は普通の女子高生らしい振る舞いが出来ている。これからは更にその幅を広げて、交友関係を良好なものにしていくだろう。
「そして最後は……言うまでもないよね?」
「……昨日のことか」
「そ。はっきり言っちゃえば……増井君のことが、颯爽と助けに来てくれる王子様のようにも見えたんだよ……」
「んな大げさな……」
「大げさじゃないよ……増井君がいなかったら私、きっと壊れてただろうし」
重すぎる風見さんの言葉に、俺はつい黙り込んでしまう。
俺が昨日したこと……近づこうとする漆原を突き飛ばしたり、疲弊していた風見さんをお姫様抱っこしたり、精神的に脆かった風見さんを落ち着かせたりと……客観的に見ても風見さんの支えになったと言っても過言ではないな……
「それに聞こえちゃったんだ……まさか増井君の口から、あんな情熱的な言葉が飛び出るなんて……思わなかったよ」
「えっ⁉ 俺なんか言ったけ?」
「うん、大きな声だったから聞こえたんだ……風見さんは俺の大切な人だ、って……」
「……俺、そんなこと言ってた?」
「うん……忘れるなんてひどいよ」
ごめん風見さん……それ覚えてないや。
俺が覚えていないということは、おそらく風見さんを落ち着かせた後のことを言っているのだろう。あの時の俺は極度の緊張で、頭の中が真っ白になっていたからな。ほぼ何言ってたか覚えていないのだ。
そしてそん時の俺は……一体何を言っているんだよ。多分「大切な人」というワードも、別の意味が含まれているだろうし……メイドさんとかな。
「……私のことをそんな風に思ってくれたことが嬉しくて……今日はつい、大胆なことをしちゃったんだ」
「そ、そうか……」
「だから増井君……メイドさんって立場ではあるけど、私と付き合ってください」
そう言葉にする風見さんは、完全に乙女の顔になっていた。それは波打つ俺の心臓の鼓動を、更に早くするには十分なことだった。
風見さんのような美少女、同じベッドの中で更にメイド服つき……メイドフェチに関わらず、こんな物語のような告白に胸躍らない人間はいないだろう。大抵の男なら、即決でOKしているところだ。
そんな風見さんの告白に対し、俺の答えは既に決まっていた。例えそんな夢のようなシチュエーションであっても、俺の気持ちは揺らぐことはなかった。
「……ごめん。風見さんとは、付き合えない」




