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24話 おかしな態度



 それからのことを話そう……と言っても、俺は何もしてないけどな。

 緊張の糸が切れあのままぶっ倒れた俺は、壮馬によって自宅まで運ばれていったそうだ。その後の壮馬は後片付けなどに向かったらしいが、俺の面倒は風見さんがなんとかしてくれたようだ。朝起きた時には、めちゃくちゃ感謝したものだ。

 事件に関しては壮馬経由で全部片付いたと連絡が来ていた。とりあえず漆原は既にこの街から出ていき、更に遠い刑務所に飛ばされたそうだ。それに加え脱走までしたのだから、また当分の間は出てこられないはずだ。刑期が終わりちゃんと出てきたころには、もうあんなに動くことは出来ないだろう。


 これで事件のことも赤羽さんの依頼のことも全部片付き、一件落着……にはならなかった。今回のことに関して一番耳にしておかなければならない風見さんに、事の顛末について説明する必要があった。

解決したとはいえ、何も知らないまま終わるなんて本人としてもあまり気分がよくないだろう。それに風見さん自身も「ちゃんと知っておきたい」って言っていたしな。


 だから今日が日曜日にも関わらず、俺たちは学校に来ていたのだ。場所は物理準備室……壮馬や俺が所属している探偵部の部室になっているところだ。

そこで壮馬と赤羽さんを交えての、事件に関する説明会が開かれたのだった。





「……そんな事情があったんだね」

「えぇ。黙っていたのは、本当に申し訳なかったわ。耳にしたら、風見さんが錯乱すると思いましたので……」

「ううん、赤羽さんは正しいよ。多分言われてたら、ずっと部屋に引きこもってたと思うし……」


 事件の全貌をようやく全て知ることが出来た風見さんは、どこか安心した様子だった。風見さんに関しては、漆原にあったときのことをほとんど覚えておらず、ここに来るまではほとんど何もわからない状態だったのだ。俺としゃべったことは覚えていたらしいが。

 そして今全てを知ることになったのだが、何も誤解がなかったようでよかった。事件のことを風見さんに伏せていた俺たちのことも、特に責めないでくれたしな。


「とりあえず風見さんが大人になってそれなりの幸せを築くまでは……漆原も出てこれないでしょう。遠くにも飛ばしましたし、安心してください」

「うん、ありがとう赤羽さん」

「いいのよ。これも依頼でしたから」


 柔らかい笑顔を浮かべる風見さんに対し、いつも通りの冷たそうな表情の赤羽さん。だが赤羽さんの口元も、よく見れば笑っているようにも伺える。

 学校で俺たち以外の生徒と親しく接する赤羽さんの姿を知らないからこそ、こうして同世代の女子としゃべってる場面は非常に珍しい。これを機に、二人も仲良くしてほしいものだ。赤羽さんも風見さんの事情を知っているからこそ、本当の友情も芽生えるだろう。


「風見さんへの事情説明は以上ね。壮馬にはまだ話はあるけど、二人はもう帰ってもいいわ。せっかくの日曜日を潰させるのも、申し訳ないし」

「そうか、なら遠慮なく……バイトもあるしな」


 この説明が早朝から行われたおかげで、どうにかバイトには間に合いそうだ。時間もそれなりにあるし、一度風見さんを家に送る余裕も十分にあるな。


「それじゃあ帰るか、風見さん」

「うん!」


 俺は荷物を持って立ち上がり、そのまま扉へと向かう。それに遅れることなく、風見さんも追いかけてくる。

 だがここで一つ、予想外のことが起きた。俺のことを追いかけた風見さんが、自然と俺の腕に抱き着いてきたのだ。今までこんなことなかったが故に、俺も少しドキッとしてしまう。


「あ、あの、風見さん……?」

「何かな、増井君?」

「いや、その……腕が……」

「ん~?」


 腕に絡みついてきていることについて指摘しようとしたが、風見さんの無言の笑顔に押され何も言えなかった。マジでこれどんな状況?


「なっ、ななっ……!」


 そしてそれをばっちり見ていた赤羽さん、顔は見えないけど絶対真っ赤にしているだろう。あ、これやべぇ、絶対怒られる。

 そしてこの状況において、壮馬の救いの手が差し伸べられることはないだろう。絶対面白がってるだろうし。

 とにかく今俺がすべきなのは……!


「お、お疲れ様―!」

「あ、こら!」


 赤羽さんの制止を聞くこともなく、俺たちは部屋から出ていった。出来るだけ速やかに学校から出なければならない……赤羽さんに怒られないためにも!

 そんな感じで焦っていた俺は、風見さんが横で笑っているのに気づくことはなかった。






(……おかしい)


 時刻はその日の二十三時、バイトなどを全て終えた俺は既にベッドに寝転がっていた。このまま目をつむれば、そのまま夢の世界へ沈み込むだろう。だが頭の中を占めるのは、今日の風見さんの不思議な行動の数々だ。

 壮馬たちの前で大胆に腕を組んだ風見さんだったが、それだけでは留まらなかった。どうやって聞きつけたかは不明だが、なんと風見さんはバイト中に俺の店まで来たのだ。そしてちゃっかり俺のことを指名し、接客までさせられた。

 まぁ確かに風見さんにはそれなりに遊べるだけのお金は渡しているから、どこで何をしようが勝手なのだが……接客するこっちとしては恥ずかしくて仕方なかった。いつも俺は風見さんにこんなことを強いていると考えると、ほんの少しだけ申し訳ない気持ちになる。


 もちろんこれだけではない。バイトが終わり家に帰り、夕飯を食べようとしたときだった。今日の夕飯はオムライスで、そのクオリティはもはや言うまでもない。だがそのオムライスにケチャップで書かれた文字が……




『ご主人様♡』




 だったのだ。一体どこでその文化を覚えたのか……まぁ間違いなくバイト先だと思うけど。

 そしてそれを書いた本人は、書いたはいいもののその恥ずかしさからか、顔を真っ赤にし出来るだけ目を合わせないようにしてオムライスを食べていた。恥ずかしいのに何故やったのか……俺にはわからなかったが、メイド服で恥じらう姿はそれで粋なものだった。心の中でガッツポーズしたのは言うまでもない。


 それ以外でもやたら距離が近かったり、積極的に話しかけてきたりと、確実に様子がおかしいのは見てわかる。一体何が、風見さんをこんな風にさせるのか?

 無論きっかけはある……言わずもがな昨日のことだ。風見さんからしたら、身体的にも精神的にも助けられたようなものだからな。お礼の意味を込めたサービスだったのかもしれない。てかそれしか考えられん。


「……ま、あんま深く考えてもしょうがないか」


 何があろうが俺のやることに変わりはない。風見さんのために居場所を与えるだけなのだから。残りの高校生活の間だけだが、俺はしっかりと風見さんを守り続けるんだ。


 改めて決心したところで、さすがに寝ることにした。明日からまた学校が始まるしな。再びクラスの男子の痛い視線を浴びることになるが……そろそろなんとかしないとな。

 そのままベッドに潜ろうとしたとき、部屋の扉がノックされた。ノックの主が誰かはわかっているが……こんな時間になんだろうか?


「増井君、ちょっといい?」

「ん? いいぞ」


 俺が返事をすると扉が開き、風見さんが部屋に入ってきた。もう夜も遅いのに風見さんの恰好は、まだメイド服のままであった。


「どうかしたの?」

「うん、そのね……」


 どこか迷いがあるかのような表情を浮かべる風見さん。だがすぐに決意を固め、スタスタと俺の前まで歩いていく。

 そしてやや恥ずかしそうに頬を赤く染めた風見さんは、その言葉を口にした。





「一緒に寝ても、いいかな……?」





 風見さんのおかしな様子は、まだ終わっていなかった。そしてまたまともに寝れないことが、決定してしまった。





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