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23話 闘うご主人様



 風見さんを落ち着かせ自室に待機させたところで、俺は家の玄関に立つ。そしてこれからやることはただ一つ……俺が漆原をなんとかする!

 とは言っても、俺なんかは時間稼ぎくらいしかできない……それすら出来るかどうかも怪しいが。だとしても成し遂げなくちゃならないんだ、風見さん直々のお願いのためにも。

 そして当然だが、ウチに武器の類いのものはない。刃物を持っているかもしれない相手に、素手で挑まなくてはならないかもしれない。そうなった場合、まず俺に勝ちはなくなる。


 だが仮に今漆原が暴れに暴れ、俺たちが今回の件に関係しているとご近所にバレたとしよう……そしたらまた、風見さんは自分のことを責めるだろう。それだけは何が何でも阻止しなくてはならない。風見さんの「普通」の生活を守るために。


 意を決して俺はゆっくりとドアを開ける。もう夜を迎えようとしているようで、外は結構真っ暗である。あと少し遅かったら完全に真っ暗になっていただろう。

 とりあえずドアののぞき穴で目の前に漆原がいないことは確認している。あんなに騒いでいた声もはっきりと聞こえなかったため、まだこの階にはいないのだろう。

 その隙を伺い、俺はそのまま外に出た……だが運命は、非情なものだった。


「やっと見つけだぜぇ……クソガキィ……!」


 まるで見計らっていたかのように、俺が外に出たタイミングで漆原が三階までやってきた。まぁでも更に上に行かれて、よそ様に迷惑かけるよりかはマシか。

 それに俺たちが最後にコイツを視認してから、結構な時間が経っている。だと言うのにここにたどり着くのに時間がかかっているということは、ヤツがまともな精神状態でない可能性が十分に高い。その分何してくるかわからないから恐ろしいものだが。


「舐めた真似しやがって……親子の話し合いの最中に……」

「親子? おかしいな。風見さんは赤の他人と言ってたはずだが……」

「あのバカ娘が……! 自分の親をなんだと思ってやがる!」


 煽るかのようなセリフを口にしたせいで、漆原の逆鱗に触れてしまったようだ。もちろんわざとなんだが。

 漆原が短気であることはおおよそ予測がついていた。ならばこうして少し煽るだけでも、アイツは反応してくれると思っていた。

 これで危険なことを犯さずとも、時間稼ぎの役目は十分こなせる。あとは事前にここに逃げると伝えてある壮馬や、家を出る前に電話した警察になんとかしてもらう。それまでは絶対に耐えてみせる。


「親らしいことなんか何もしてないから、親だと思われないんじゃないか? 聞いてるぞ。酒にギャンブル、暴力。そして借金……親以前に、同じ人間と思う方が無理なんじゃないか?」

「うるせぇ! おめーみたいがガキに、何がわかるんだよっ⁉」


 もはや火に油を注ぐような勢いで煽りを叩き込み、漆原の精神をかき乱す。こんなしょぼい煽りに乗ってくれるようなバカで、本当に良かった。今も緊張で心臓がバクバクいってるし。

 それよりも、漆原が変なこと言ってるな……


「少なくともお前よりはわかる……風見さんが、今までどんな苦しい思いで生きてきたか……真摯になって話してくれた風見さんの気持ちが、わからないはずがない」

「はっ! 結局はアイツの男になって同情しただけだろ! あんな無一文の女に、価値なんてねぇんだよ!」


 もはや開き直る勢いでその言葉を吐き捨てる漆原に、俺は哀れとも感じた。こんなことを語ってるようなヤツが、親とか言ってるんだぜ……全国の親御さん全員に謝れって感じだ。

 時間稼ぎとわかってるとはいえ、コイツと話すこと自体に俺は価値を見出せなかった。そして俺は、いつの間にか沸々と怒りが湧き出てきた。俺の大切なメイドさん(風見さん)を、侮辱したんだからな……!




「風見さんを、バカにするなッ!!!」




 俺も柄にもなく、大声で叫んでしまった。もしかしたら家に居る風見さん本人にも聞こえてるかもしれないが、この際構わない。聞こえてるものなら……俺の正真正銘の気持ちを聞いてほしい。


「風見さんはな……普通の女の子なんだよ! 学校で勉強したり友達と他愛もない会話をしたり! たまには遊びに行って女の子らしいことも全部楽しんで! 彼氏とかも作ったりして青春を彩らせるはずだったんだよ!」


 今でこそメイドという仕事はあるものの、それなりに女の子を楽しんでいる風見さん。これが、本来あるべき姿なんだよ。


「それを全部潰したお前に! 風見さんの何がわかるって言うんだよ⁉」

「うるさい! うるさいうるさいうるさい!!!」


 まるで駄々をこねる赤ちゃんのように、漆原は俺の言葉を遮った。余程聞きたくなかったのか、最終的にバカにされた風に聞こえてイラついたのか……俺が知る余地もなかった。


「クソがッ! お前のせいで、全部台無しなんだよ! しかもイラつかせるようなことばっか言いやがって! アイツはお前の何なんだよっ⁉」

「……はっ! そんなの決まってるだろ!」


 俺にとって風見さんとは何か……そんなのはもう、風見さんと出会った時から決まっている!





「風見さんは俺の大切な人(メイドさん)だ! 大切な人を守るのは、当然のことなんだよ!」





「ふざけたこと、抜かしてんじゃねぇ!」


 遂に我慢しきれなかったのか、漆原が俺に向かって突っ込んできた。しかも手には果物ナイフくらいの小さな刃物を携えているのも、十分確認できた。

 だが今の漆原に、器用なことが行えるとは思えない。多分そのまま真っ直ぐ突っ込んでくるだけだろう。

 いくら刃物を持ったヤツが相手でも、易々と攻撃はもらわない。ある程度余裕を持って、スッと横にずれて躱す。

 まさか躱すとなんか微塵も思っていなかったであろう漆原は、突っ込んだ勢いを殺すことが出来ずそのまま転倒した。自分から仕掛けておいて、なんとも無様な姿なんだろう。


「おいおいそんなもので突っ込むとか……二度と檻から出られなくなるぞ!」

「うるせぇ! お前を殺さないと……俺の気が収まらねぇんだよ!」


 相当俺の煽り言葉に頭が来たのだろう、漆原の目は完全に人を殺そうとしていた。フラフラと立ち上がりながら、二回目の突撃を仕掛けてくる。

 だが何度やっても同じことしかしてこない。俺はまたしても横に逸れて突撃を躱す。それだけではなく次いでに足もひっかけてやり、さっきよりも派手に転ばせてやった。

 思惑通り漆原は顔から地面に突っ込み、とても無様な姿を俺に見せてくれた。さっきまであんなに威勢がよかったのにな……


「この……クソガキィィィ!!!」


 だが今度こそ本気でキレてしまったようで、さっきよりも鬼気迫った表情で俺に襲い掛かろうとする。もっと早くそれができれば、俺も少し怯えて足がすくんだものを……でも、もう遅い。俺の役目は終わりを迎えた。




「よっ」




「なッ……ぐへッ!」


 突然誰か漆原が上げた腕を掴み、手に持っていたナイフを落とす。その後思いっきりソイツの身体がねじり、漆原はソイツに組み伏せられた。柔道でよく見る、一本背負いってヤツだ。

 そして見事漆原を組み伏せたソイツ……颯爽と現れ仮にも脱走犯の漆原を迷うことなく立ち向かうその勇気……そんなヤツが、現代社会に存在したのだ。まぁ俺は一人しか知らないし、この状況で来るヤツなんてソイツしかいない。


「大丈夫か、楓馬?」

「おう、ベストタイミングだぜ……壮馬」


 頼れる親友の声と共に、俺も力が抜けたかのように座り込む。果敢に漆原に立ち向かったつもりだが、身体や精神はとっくの昔に限界が来ているようだ。


「すまん……あとは頼んだぜ」

「任せろ、楓馬もよくやった」

「おう……」


 完全に安心しきったところで、俺の意識が途絶えたのだった。






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