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17話 ボディーガード

7000PT、ありがとうございます!



「もう~遅いよ! いつまで食べてたの!」

「ご、ごめん……」


 昼休みもギリギリになったところで教室に戻ると、少しだけむくれた顔をした風見さんが俺の席の近くにいた。むくれていても可愛いのは、もはや美少女の風格という他なかった。


「時間が微妙だったから先に教室に帰ったけど、質問攻めにあったんだからね!」

「そうか……そういえばそうだよな。すまん……」


 一体風見さんがどれくらいの時間質問攻めにあっていたかわからないが、相当ヤバかったのだろう。元々は俺と分散するはずだったのに、俺が遅れたからな。そういう意味では悪いことをしたな。

 ちなみに今も俺のことを凝視するクラスメイトはたくさんいるが、風見さんがいるお陰で回避できている。俺の延命が続くのは、果たしてどのくらいか……


「そういえば話は大丈夫だったの?」

「あぁ……うん。昨日休んだ件について聞かれただけだよ。一応私ずっと無遅刻無欠席だったし」

「……そっか」


 まぁ先生たちは風見さんの事情を知ってるかもしれないからな。気になっても不思議ではないか。もしかしたら赤羽さんの手によって、呼び出す用件をひねり出した結果かもしれないけど。

 そんなことを考えてたら、五限目の先生が少し早めにやってきた。周りのクラスメイトも、慌ただしく席に戻る。


「それじゃ、また家でね……」

「お、おう……」


 小声でそう口にした風見さんは、小さく手を振りながら自分の席へと帰っていった。

 俺はそれを眺めて送ることしか出来なかった……だがこれからは、こんな受け身な態度はとれないのだ。もしかしたら降りかかるかもしれない、風見さんへの不幸を未然に防ぐためにも。





 その日の放課後。担任の先生も教室からいなくなり、再び教室内は喧騒に包まれた。いつもなら壮馬と軽くしゃべって即帰宅の俺だが、今日はそういうわけにはいかない。

 手早く荷物をまとめ席を立つと、俺はあるところに向かった。そこはすぐ近くで、授業が終わったばかりなのに既に数人の人が群がっていた。


「……風見さん」

「あ、増井君。どうしたの?」


 その人の塊の中心にいる風見さんに向かって、俺は少し緊張しながら話しかける。周りにいた友達らしき女子生徒全員が俺のことを見てくるが、周りの目などお構いなしに用件を口にする。


「……一緒に、帰らない?」

「……え?」


 俺がその言葉を口にした瞬間、周りの友達だけじゃなく教室に残っていたクラスメイト全員が俺の方に注目していた。一日で何度も注目を集めたのは初めてじゃないだろうか。俺だってこんなに注目を浴びるのは嫌だが、仕方のないことなのだ。


 赤羽さんの依頼対象が風見さんの元父親だとわかったのち、俺は赤羽さんから直々の指令が下された。


『増井君……貴方は学校外にいる間、風見さんのボディーガードをお願いするわ。絶対に一人にさせないで』


 真剣な表情で頼み込む赤羽さんを前に、首を横に振ることなど出来なかった。元々振る気はなかったけど。

 頼まれた内容も、至極全うなことであった。風見さんのトラウマに等しい人物が、どこもわからずそこらへんをうようよしているかもしれないのだ。一人で鉢合わせしないような工夫を施すのは当然のことだ。

 もちろんそのことを風見さんに悟られるわけにはいかない。仮に耳に入ってしまった場合、風見さんの精神状態の安全は保障されない。そのためにも出来るだけ俺がそばで守る必要があるのだ。

 そのための「一緒に帰らない?」発言なのだ。人気者の風見さんは放課後になれば人に囲まれることは間違いない。そこから勝手にどこかに行かれたら困るからな。


 もちろんその発言に対し、クラスの男子が黙っているはずがなかった。学園のヒロインである風見さんを独り占めとかどんな精神してるんだよ! と言いたそうな顔をしてるヤツも何人か見受けられる。先生も既にいないことで、今度こそ物申しそうなヤツが出てきてもおかしくない。

 だが誰かがアクションを起こすより前に、風見さんに反応があった。


「うん、いいよ!」


 見慣れた笑顔を俺に見せ、風見さんは誘いを了承してくれた。その瞬間、クラスの何人かの崩れ落ちる音が聞こえた気もするが気のせいだと思いたい。


「それじゃあ帰ろっか。お母さんに早く帰るよう言われてるし」

「う、うん……」


 素早く帰る準備を済ませた風見さんは、周りにいた友達に「じゃあね~」と言いながら教室を後にする。俺も置いていかれないように、早歩きで風見さんを追いかけていく。

 その後の教室がどうなっているのか、俺が知ることはなかった。ただひたすらに、状況が悪化していないことを願うばかりだ。





「珍しいね」

「え……何が?」

「いや……教室であんな目立つことしたからさ。そういうの苦手でしょ?」

「あ、あぁ……そういうことか」


 自宅までの帰り道。帰宅中の他の学生がぽつぽつと見える中、風見さんが質問を仕掛けてきた。確かに目立つことを極力避ける俺にしては、らしくない行動だった。俺だって他に方法があれば、間違いなくそっちを採用していただろう。


「まぁ……アレだよ。風見さんは学園でも人気あるからね。そんな風見さんと一緒に帰るヤツが現れたら、過激派とかが黙っていないだろうしな」

「過激派って……さすがにいないでしょ……」

「真相は俺も知らないが……仮にストーカーでもされたら、最悪どうなるかわからないからな。そのためのボディーガードだよ、俺は」


 適当な理由を即座に考え、本当のことっぽくしゃべってみた。

本来の目的とは結構違うが、嘘は一言もついていない。常に風見さんのそばで守り続けるということは、結局はストーカーから身を守っているということにもなるしな。

 嘘らしきことは一切言っていなかったこともあり、風見さんも納得してくれた。


「まぁそういうことにしてあげるよ。で、本当はどうなの? 一緒に帰りたかったんじゃないの?」

「い、いや……そういうわけじゃ……」

「……違うの?」

「うっ……」


 止めて! そんなちょっと悲しそうな顔しないで! こんな道端でそんなことされたら俺の社会的地位が……!


「もう、冗談だよ! ちょっと困らせたかっただけ」

「そ、そうか……からかうメイドさんなんてよくないよ」

「でも嫌いじゃないでしょ?」

「もちろん」


 適度にからかい俺の反応を楽しむメイド服姿の風見さん……うん、よきかな。

もうここまで来ると、メイド服さえ着てればなんでもOKなちょろい人間に見られる気がする。もちろん否定はしないけどな!


「ふふっ……でも楽しいね」

「俺をからかうことが?」

「あぁ違う違う。こうしてゆっくり誰かと一緒に帰ることが楽しいの……今まではバイト先に直行だったから」

「あぁ……そうか」


 何故か妙に納得してしまった。なぜ風見さんのことをあまり覚えていなかったのか、いくら女性が苦手な俺でも人気者の風見さんを知らなかったのか。

 よく考えればわかることだ。早朝から新聞配達のバイトに向かいギリギリに登校、お昼は図書室に隠れ勉強、そして放課後は限られた時間をフルに使ってバイト……そんな日々を送っているが故、誰かと帰ることなんてなかっただろう。

 風見さんにとってなんでもないことが幸せに感じる、改めて実感させられた。


「だからありがとね、当たり前の幸せを味わせてくれて。もう何度目のありがとうか、わからないけど……」

「気にしなくていいよ。風見さんはただ、その当たり前の幸せをゆっくり取り戻していけばいいから」

「……うん。その言葉に、甘えさせてもらうね」


 もう何度目かもわからない風見さんの笑顔を見て、俺は再び決意した。この素敵な笑顔を絶やしてはならないと、俺が風見さんの笑顔を守るんだと。

 そんな熱い想いを胸に秘め、俺は風見さんの隣を歩いたのだった。





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