15話 二人のプリンセス
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俺たちしかいない屋上にて、やっと飯にありつこうとしていた。午前中の授業に加えアホみたいな逃走劇が発生したせいで、普通にお腹が空いていた。油断してたら、腹の虫でもなってしまいそうだ。
逃走するときにちゃっかりと鞄を持っていた風見さんは、かなりの大きさの弁当箱を俺に渡してきた。たじたじながら「ありがとう」と伝え、俺は風見さん手作りの弁当箱を開ける。
そこにあったのは、THE・お弁当。言い換えるなら、理想的ともいえるお弁当だろう。
お弁当の代表格ともいえるミニハンバーグと玉子焼き、彩を添えるためのミニトマトとブロッコリー。そして残ったスペースを余すことなく詰められた白飯。育ち盛りの男子高校生にはたまらないお弁当だった。これが現役JK……いや、現役メイドの手作りお弁当か……!
ちなみに風見さんのお弁当も、メニューは同じで弁当箱の大きさだけ一回り小さかった。多分俺と同じ大きさでも食べれただろうが、そこは羞恥心から避けたのだろう。
「……いただきます」
緊張した趣で手作りお弁当と向き合う俺と、味の感想を今か今かと待ち望んでいる風見さん。静かな屋上に、妙な緊張感が漂う。そしてまた空気と化している壮馬……マジごめん。
ハンバーグを箸でつまみ、そのまま口まで運ぶ。その瞬間……俺は心の底から安心した。
もちろん味の心配などしていなかった、風見さんの作るものがマズいとは微塵も思っていなかったから。安心というのは、確実に美味しいものを美味しく味わえたという安心感から来たものだ。実家のような安心感、と言えば想像がつくだろう。
ともかく俺の感想はただ一つ……
「美味しいよ」
「ホント⁉ 良かった~お弁当なんて初めて作ったから、上手に出来たか心配で……」
「大丈夫、美味しいってわかってたから」
このお弁当が風見さんの手作りということもあるが……何より! メイドさんがご主人様のために作ったものにマズいものなんてない! 絶対にだ!
「そうなんだ……うれしいな……」
俺の返答に対し、風見さんはまたしても頬を赤く染めていた。最後の方、声が小さくて何も聞こえなかったけど……なんて言ってたんだろう?
「よかったな、楓馬。念願のメイドさんからお弁当作ってもらえて」
「おう、そうだな!」
コンビニのおにぎりを手に持った壮馬が、さりげなく話しかけてくる。しれっとメイド好きの情報をこぼすが、風見さんが既に知っているのと俺の気分がいいこともあって完全にスルーした。
ちなみに壮馬のお昼は、毎回決まってコンビニのおにぎり(ツナマヨ)だ。壮馬曰く「お昼に悩む時間がもったいない」とのこと、まぁわからなくもない。長時間悩むよりマシってヤツもいるからな。なお何故ツナマヨなのかは、俺も知らないままだが。
「……風見さんも大変でしょ? 楓馬のメイド好きには」
「そんなことは……本当に知っているのですね、私たちのこと」
「まぁね。楓馬の言動とかでなんとなくはね。調べて確信に変わったけど。あぁでも安心して。神に誓ってもこのことは公表しない、楓馬の何よりの頼みだしね」
「そうなんだ……ありがとう」
何気に壮馬と風見さんの初絡みである。どう考えても会話の内容が、初めての会話とは思えないけど。
それにしても風見さんはこれだけのお弁当をいつ作ったのだろうか? もし今朝に、全部の家事に加えお弁当まで作ってると考えたら……本当に風見さんはスーパーメイドさんってことになるな。いずれメイド長になっているタイプに違いない。まぁ……満面の笑みでお弁当を食べる今の彼女からは想像もできないけど。
そんな雰囲気でお昼を食べていると、不意に屋上の扉が開く。こんな辺境且つ生徒の手の届かないところに、わざわざ先生たちは来たりしない。ということは必然的に、ここに来る人間は一人だけに絞られる。
「……やっぱりここにいたのね、壮馬」
「おや……怜奈じゃないか」
屋上にやってきたのは、この学園の生徒会長であり壮馬の幼馴染でもある赤羽さんだ。今日も今日とて、美しいブロンドヘアが靡いていた。
「さっきからスマホ鳴らしても出ないから、探したじゃないの」
「すまないね……ちょっと教室でひと悶着あって、スマホ見る時間がなかったよ」
まぁあの状況でスマホに気づけって言うのも無理がある。あの現場から逃げるのに必死だったからな。
「……増井君もいたんですね。何かあったのですか?」
「いや、まぁ……ちょっとな」
「……何故答えを渋るのですか?」
……後生だから聞かないでくれ。おそらく何も知らないであろう赤羽さんに最初から説明するのは、勘弁してもらいたい。決して隠したいわけじゃなく、逃げてきたあとだから単純に疲れているのだ。また今度の機会にしてもらいたい。
変に答えを渋る俺と壮馬の様子を多少怪しみながらも、赤羽さんの視線は風見さんの方を向いた。その瞬間、赤羽さんの目が見たことないくらいに見開いた。
「……え⁉ 風見さんっ⁉」
「ど、どうも~」
屋上に風見さんがいることに驚く赤羽さんと、学園でも有名な生徒会長を前にし控えめに挨拶する風見さん。学園の二大プリンセスが今目の前に揃ったのだ。こんなこと初めてではないのか……知らないけど。
「……まさか貴方が壮馬たちと一緒にお昼を食べてるなんて……何があったのよ?」
「それはまぁ……いろいろと」
確実に怪しんでいる赤羽さんに、俺はそう答えるしかなかった。むやみやたらに、俺たちの関係をばらすわけにはいかないからな。赤羽さんに知られたら、めっちゃ怒られるに違いない……
「……てか、赤羽さん。風見さんのこと知ってるの?」
「もちろんよ……私がいつも学年二位に甘んじてる原因でもあるのだから」
「あぁ……そういうことか」
風見さんは家庭の事情で常に学年一位を死守してきたからな。赤羽さんも要領がよく優秀なのは知っているが、本気度は全然違う。風見さんは人生がかかっているのだから。
そう考えれば、赤羽さんが風見さんのことを知っていてもおかしくないか。
「それに私……昔、風見さんを生徒会に誘ったことがあるのよ」
「えっ、そうなんだ……」
「まぁ即お断りされましたけど」
「あはは……ごめんね。バイトが忙しくて……」
悪い認識はあるのか、風見さんは顔の前で手を合わせて申し訳なさそうに謝っていた。
確かに少し前の風見さんは生活費を稼ぐために、バイト三昧の日々を送ってたからな。そのうえ無償で働かされる生徒会の仕事など、引き受ける余裕などないだろう。
まぁ今も、俺のメイドとしてのバイトで忙しくて無理っぽいけどな。
「……しかし困りましたわね」
「どうかしたんですか?」
「いえ……仕方ありませんわ」
そう口にすると、赤羽さんはスマホを取り出し操作し始めた。誰かに連絡しているのだろうか。
用が済んでスマホを制服のポケットにしまうと、急にいつもと違うチャイムが鳴る。このチャイムは呼び出し用のだな。
『二年B組、風見明日香さん。職員室に来てください』
「えっ、私⁉」
急に呼び出しを食らったことに、驚きを隠せない様子の風見さん。だが俺を含めた他の三人は、当たり前かのように聞き入れた。
赤羽さんは生徒会長と同時に、この学園の理事長の娘だ。そんな彼女には、学園に対して多少融通が利くのだ。例えば故意に特定の生徒を職員室に呼び出すとか。
多分今もそれを使ったのだろう。それなら大丈夫だ。多分俺たちの関係を突き詰めるものではないはずだ。
「……なんだろうな? まぁ風見さんなら、余程大丈夫でしょ?」
「そ、そうかな……?」
「だって何も悪いことしてないし。心配するだけ無駄だと思うよ」
「そう……ならとりあえず行ってくるね」
既にお昼を食べ終えていた風見さんは手早く荷物を片付け、屋上から出ていった。そんなに怯えなくても大丈夫なのに……と風見さんに言ったら、呼び出した意味がなくなるからな。致し方ない。
「……ひどいじゃないか。せっかく楓馬と風見さんの、初めてのお昼だと言うのに」
「風見さんには、悪いことをしたと思ってるわ……それよりも貴方たちもしかして……」
「そ、それよりも! 壮馬に用事でもあったんじゃないの⁉」
壮馬が良からぬ爆弾発言を投下したものだから、またしても教室と同じ手を使った。まぁいつかはバレると思うけども! もう少し延命だけはさせてくれ!
「……そうだったわ。忘れるところだった」
そこは絶対に忘れないでください、俺のためにも……
改めて俺たちしかいないのを確認すると、赤羽さんの表情がより一層引き締まった。いつも凛としている赤羽さんがこの表情をするときは……決まってあのことだろう。
「壮馬……仕事の話よ」
それは壮馬への、探偵依頼だ。
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