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14話 教室でのビックイベント

ジャンル別週間2位、ありがとうございます!



 俺のクラスでの立ち位置が、本格的に危ういものになってきた。もう既に四限が終わり昼休みに入ろうとしているのに、俺は自分の席で恐怖に震えていた。


 原因は言うまでもなく、風見さんだ。休み時間になるたびに、風見さんは俺に話しかけてくるのだ。

 とは言っても「課題やった?」とか「次移動教室だよっ!」など、普通のことしか言ってこない。俺もたじたじながら「おぅ……」だの「あ、ありがとう……」などちゃんと返せてはいる。俺どんだけコミュ障なんだよ、女性限定だが……

 だが声をかけてもらうたびに、クラスのヤツら全員に睨まれ割と怖い思いをしている。考えてみろ、突然クラスの男子が全員敵になるんだぜ? 恐ろしいってレベルじゃねぇよ……まだ何も仕掛けてこないだけマシだけど……

 唯一事情を知っている壮馬は、バレないように笑ってやがるし……だが壮馬がそばにいないと、本当に危ないから今は存在だけで感謝している。



 一応補足しておけば、風見さんは何も悪くない。彼女も彼女なりに、学園生活を楽しんでいるだけに過ぎないのだから。



 そんな恐怖の時間も一旦終わり、昼休みを迎えた。だがこの教室に安息の地はない。速やかにどこかに行かなければならない。


「おい壮馬、購買行くぞ。そしてそのままどっかで食うぞ」

「……教室ではダメなのかい?」

「わかって言ってるなら、さすがにキレるぞ……」

「冗談だよ。僕だって、こんな空気で食事なんてしたくないし」


 壮馬の言う通り、教室は危険地帯へと変わっていた。いつもなら購買にダッシュしているはずの男子たちも、俺の動向をじっと観察しているのだ。多分あの視線は人すら殺せる、そんな気がする。

 もちろんそんなことする目的は、風見さんのことだろう。「もしかしたらお昼まで一緒なんじゃないか!」、と考えているに違いない。

 だがその可能性は限りなく低い。そう確信できるのは、風見さんのお昼事情を知っているからだ。

 少し前までの風見さんはお昼など三日に一回、しかもパンの耳を少しだけ食べる、なんて生活を送っていたのだ。そんな光景を友達の前で見せるわけにもいかず、いつもお昼は開始早々に教室から出ていき図書室で勉強して時間を潰していたらしい。

 だが今の風見さんは経済的な心配をすることはない。念願の友人とのお昼の機会を逃すとは思えない……つまりこの賭け、俺の勝ちだ!





 そう思っていた時期が、俺にもありました。





「ねぇ増井君!」


 壮馬と共に教室を出ようとしたとき、それを防ぐかのように風見さんが話しかけてきた。だが彼女の曇りない笑顔を見る限り、そんな気は一切なさそうだ。


「ど、どうしたの、風見さん……?」

「今からお昼食べに行くんでしょ?」

「え、うん……そうだけど……」


 風見さんの言葉一つ一つに怯えながら、何とか会話をつないでいく。慣れない対応に壮馬がまた笑っているようだが気にもしなかった。

 大丈夫だ、風見さんは賢いし、朝も大丈夫と言ってたからな。ただの世間話のはず……





「お弁当作ったから、一緒に食べようよ!」





 その瞬間、青葉学園二年B組の空気が凍った。風見さんによる爆弾発言によって。





「……と、ととと突然どどどうしたの? おおお弁当だなんててて……」


 俺自身も頭の中がパニックになり、口が回らなくなる。人間、危機的な状況に追い詰められるとこうなるんだな……


「やっとお弁当作る余裕が出来たから作ったんだけど……ちょっと作りすぎちゃって」

「へ、へぇ~そうなんだ……で、でも、なんで俺? 風見さんの友達でもいいのに……」

「そりゃ増井君は私のご……」

「わーーーーー!!!」


 更なる爆弾発言を投下しようとする風見さんのセリフを、寸前のところでかき消した。

 今なんて言おうとした⁉ ご主人様って言いかけたよね⁉ 確かに言われたいセリフだけれども! 教室で言ったら俺の学園生活が終わっちゃう!


 ギリギリのところで遮ったはいいものの、時すでに遅し。痺れを切らしたクラスの男子が俺の周りに集まってきた。


「増井君……これはどういうことかな?」

「俺たちにも教えてくれよ……クラスメイトだろ?」

「ひぃぃっ!」


 さも優しい口調で話しかけるクラスの男子ども。だがその表情は完全に怒を示していた。一瞬般若にも見えたぞ……

 答えようにも適当な返しが浮かんでこない、逃げようにも囲まれており逃げ道などない。俺の平穏な学園生活も、ここで打ち止めか……



 だが救世主はまだ残っていた。



「むっ、あそこにいるのは前田教諭じゃないか?」

「なにっ! 前田だと⁉」

「アイツはこの時間生徒指導室に籠ってるはず……⁉」


 近くにいた壮馬の一言で俺の周りの男子は皆、壮馬の指差す方を見ていた。その先には確かに前田先生が、こっちの棟に近づいていた。

 前田先生というのはウチの学園の生徒指導の先生で、鬼怖いことで有名だ。噂ではウチの学園に不良らしき生徒がいないのは、前田先生が撲滅したかららしい。直接怒られたことがない生徒でも、恐怖の対象になっているのだ。


 だがこれはチャンスだ。今周りの男子どころか、クラス全員が前田先生の方に視線を向けている。もう俺のことなど気にしてる場合ではないだろう。


「楓馬、今のウチだ」


 それを全て見越していた壮馬は、一足先に教室を出ていった。追いかけようとしても、もしかしたら前田先生と鉢合わせる可能性もあるから、誰も追いかけてこないだろう。さすが壮馬、頼りになる親友だぜ!


「風見さん、こっち!」

「う、うん!」


 俺はすぐに風見さんの手を握ると、壮馬に続いて教室から出ていった。さすがにあの空気の教室に風見さんを残すのは、あまりにも酷だからな。

 これにて地獄の空間からの脱出。よく死なずに済んだな、俺……





 そんな俺たちが逃げ込んだ先は、学園の屋上だった。普段は施錠され生徒は入れないのだが、何故か鍵を持っている壮馬のお陰で俺たちは普段から利用している。ちなみに壮馬は「カギは怜奈からもらった」と言っているが、真相は俺も知らない。


「ここまで逃げれば大丈夫だろう……」

「はぁ……疲れた……」


 久しぶりに全力で逃げてきた俺は、安心からかその場で倒れこんだ。俺は決めた、地獄には行きたくないから清く生きよう。うん。


「ふたりとも、はぁ……はやいよ……」


 屋上になだれ込むような勢いで、風見さんも俺たちに追いついた。運動神経がよくてもスタミナがない——純粋にお腹空いてて長時間運動できないだけだと思うけど——風見さんには、少しキツイ運動だったかもしれない。


「それにしても、クラスの男子たち、怖かったね……どうしたんだろう?」

「どうしたもこうしたも……だいたい風見さんが原因だけど」

「え⁉ そうなの⁉」


 俺に言われて驚いている感じだと……本当に気づいていないようだ。まぁ前までは、周りなんか気にしてる余裕なんてないくらい、必死に生活をつないでたしな。仕方ないのかもしれない。


「風見さん、今まで男子としゃべったことなかったでしょ? でもある日突然話しかけたら……みんなあんな反応するよ」

「え……そういうものなの?」

「そういうものなの。風見さんは学園でも屈指の美少女なんだから、注目を浴びるのは当然だよ」

「……わ、私が、美少女……」


 アレ、どうしたんだろう? 急に風見さんが顔を赤くして、何かに悶えてるようだ。俺なんか変なこと言ったか?


「……増井君も、そう思う?」

「俺か? 当たり前だろ、風見さんは俺が見つけたメイドさんなんだ。可愛いに決まってるさ」

「そ、そう……えへへ……」


 思ってることをそのまま伝えたら、今度は両手を頬に当てニヤニヤし始めた。この表情でもしメイド服を着ていたら……俺は陥落してたな、絶対。もうしてるけど。


「お~い、お二人さん。俺のこと忘れてはいないか?」

「し、白金君⁉ いつの間に……?」

「最初からいましたよ……」


 完全に空気と化していた壮馬の呼びかけによって、俺たちは現実へと戻された。存在感の塊のような壮馬ですら空気にしてしまう風見さんの力……素直にすげぇな。

 そしてナチュラルに忘れられてた壮馬よ、ドンマイ。まぁそんなこと気にするようなヤツじゃないけど。


「そろそろお昼にしませんか? さすがに僕もお腹空きましたよ……」

「おぉ、そうだな……」


 忘れてた、今昼休みだったわ。

 だが今ここを出るのは非常に危ないよな。購買で誰かに鉢合わせたら、今度こそ逃げられそうにないし……ここは風見さんに甘えるとしますか。


「風見さん……お弁当、もらっていい?」

「うん、いいよ! そのために作ったし!」


 俺の言葉に嬉しそうに答える風見さん。その百点満点の笑顔には、不覚にもドキッとしてしまった。これが噂の吊り橋効果……いや違うな、ただメイドさんが作ったお弁当にときめいただけか。


 全く俺ってヤツは……とことんメイド好きなんだから。絶対に否定はしないけどな。





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