そこには漫画やアニメでお馴染みの光景が広がっていた。
「――ん?」
しばらくし、恐る恐る目を開けると、そこには先程とは全くこと異なる風景が広がっていた。
「……なんだこれ?」
昼下がりの日差しの下、そこには、いくつもの家や露店が所狭しと並んでおり、大勢の人が行きかう活気ある街が広がっていた。
夜の人気のない道から昼下がりの街へ……急な場面転換が生じていた。
だがしかし、それも確かに驚くべきことではあるのだが、ミズキを最も驚かせたのはそこではなかった。
「お、おいおい、獣耳に魔法使い……いつの間にこんな大規模コスプレ施設が出来たんだ……?」
ミズキは引きつった笑顔を浮かべて思わず口端をピクピクとさせていた。
楽しげに世間話に花を咲かせる異様に長い耳としっぽを生やしている女性たち。
街を仲良く歩く魔法使いの格好をした男女。
腰に短剣を差した青年や鎧を着た体格の良い男。などなど……。目の前に広がっていた光景は、どれもこれもゲームや漫画でしか見たことのないものばかりだった。
(え? 何、これ? もしかしてコ●ケの会場に来ちゃった? いや――)
そして、そのどれもこれもがコスプレなんかではないと断言できるくらいのリアリティを有していて……。この光景を初めて見て驚かない人間などいないだろう。
しかし、一方で、
「ねぇねぇ、あの人、何か変な格好してるよ?」
「シー! 見ちゃだめよ!」
「貴族の人……ではないわよね」
「あんな服初めて見るぞ……」
街ゆく人々はスーツ姿のミズキを指さしながらヒソヒソ。
頭に耳を生やした親子や背中に大剣をさした男がサラリーマンに奇異の目を向けるという、シュールな光景がそこには広がっていた。
それもそのはず。ミズキの側から見れば、街の人々が珍しい格好をしている人になるが、街の人々からすれば、むしろミズキの方が見たことのない格好をしている変な奴、ということになるのだから。
この場において少数派の彼には容赦なく奇異の目が向けらるのはごくごく自然の流れであろう。。
だが、しかし、当の黒崎ミズキはそんなことは全く気にしていない。というよりも、目の前に広がる光景に言葉を失う彼にとって、周りの声を気にしている余裕なんてなかった。ただそれだけだった。
そして、しばらく茫然と立つ尽くしていた青年は、表情を引きつらせながらようやく一言呟いた。
「もしかして、これって……異世界ってやつ?」
当然その疑問に答えてくれる人などいなかったのだが、最早考えられる答えはそれしか残っていなかった。