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ミズキは勝者となった。しかし……

「“私、ザレクはリア=オルグレンが反逆した場合の罰金を無効とすることを誓う”――あの、これでいいんですかい?」

 そう言って自筆のサインを入れた誓約書をミズキに渡すザレク。ちなみに二十人近くいる部下達はまだ気絶中。

「リア、確認してくれ」

「はい!」

 しかしミズキはこの異世界にやってきてまだ数日。なぜか言葉は通じても文字の読み書きはできず、確認作業をリアに託した。

(文字の読み書き、勉強しないとだな……。はぁ。チート能力とか言わんからせめて文字の読み書きくらい最初からできる仕様にしとけっつーの)

 ため息をこぼしつつ、まだ会ったことのない自分をこの世界に連れてきた存在に対して不満を吐露するミズキ。

「はい、問題なしです! あとはミズキさんがサインすればOKです」

「はいよ」

 リアのチェックが終わった誓約書を手に取り面倒臭そうにサインし、

「さて、あとはリアの契約解除の手続きだけだな」

 続いてリアとザレクの契約解除の作業へと取り掛かろうとしたのだが、

「黒崎の旦那。その前にリアの借金についてなんですが……」

 すっかりミズキに取り入る方向へとシフトしたザレクから相談が。

「あ~借金な。別にそこまで無かったことにしようなんて思っちゃいねぇよ。商売人が約束反故にするなんてあり得ねぇ」

「ほ、本当ですかい!?」

「当たり前だろ? そもそも俺はあんな野蛮なやり方好きじゃねぇんだよ! お前らが仕掛けてこなきゃこっちもあんな脅迫まがいなことやらねぇよ」

「そ、そうすか。そりゃあよかった……。いや、何せ金額がかなりのモンになってたもんで……」

 ミズキの商売人らしい回答を聞き、心から安堵するザレク。

「ああ、そういやぁ、借金がいくらあるのか聞いてなかったな。――おい、リア。いくらなんだ?」

(100万、200万なら俺なら返済に数か月ってところだな。まぁ、しばらくは貧乏生活になるだろうが、しばらく経てばそこそこ裕福な暮らしできるだろ)

 ここ異世界でも商売人として生きていくことに決めたミズキは頭の中でそんな算段を立てながら軽い気持ちでリアに問う。が、

「じ、実は……ろ、600万ほどありまして……」

「……え?」

 恐る恐る告げたリアの借金額はミズキの予想をはるかに超えるものだった。

「……」

「……」

 一瞬、場の時間が停まってしまったかのようだった。

「は、はぁ!? ろ、600万だと!? お前、今何歳だよ!?」

「じゅ、17歳です……」

「だよね!? そう言ってたよね!? 17歳って高校生だぞ!? どうやったら高校生が600万も借金背負えるんだよ!?」

 世界の中でも裕福な国に数えられる日本という国で生まれ育ったミズキにとって、17歳の子供が600万もの借金を背負うなど、いや、そもそも17歳がそんな大金を借りることができるなど予想外もいいところだった。

「い、いえ、その“こうこうせい”というのが何かは分かりませんが、私の場合は私を育ててくれたおじさんとおばさんの借金を肩代わりして村を出てきてまして……」

 つまり、現在は親代わりの親戚夫妻の借金を肩代わりした借金は一時的にザレクによって立て替えられ、リアはザレクに600万バリスの借金をしているということになっている。

「う、嘘だろ……」

 予想の6倍の借金額に思わず頭を抱えるミズキ。

「す、すみません!! 私、焔眼のことばかりで……」

 当然リアにも悪気があったわけではないということはミズキも分かっている。そもそも自分が具体的な金額を聞いていなかったのだ。彼女を責めることはできない。

(コイツが一番気にしてたのは目のことだったもんな……。別に借金のこと秘密にしていたわけでもあるまいし、勝手な決めつけで具体的な金額を聞き忘れた俺の失態だな……)

「……ま、まぁ気にすんな。これは俺のミスだ。それに返済期間が多少伸びるだけ。500万くらい1年もあれば楽勝だ」

 そう強がったミズキの顔は完全に引きつり、若干涙目になっていた。

「す、すみません……」

 そんな姿に居たたまれず謝るリア。

 だがしかし、

「いやいや、アンタら何言ってんだよ」

 これで終わりではなかった。

「いや、確かにリアの借金は600万だったが、そりゃあ1年以上前のことだぜ? 今も同じ金額なわけねぇだろ?」

「「……え?」」

 当たり前のことのように告げられたザレクの言葉にリアとミズキは揃って唖然とした。

「「……」」

 二人の脳裏に嫌な予感がよぎった。

「そ、そうですよね! 私、しっかり1年以上働いてましたもんね!? 借金は私の給料から天引きされることになってましたし、当然当時から減額されてるはずですもんね!?」

「そ、そうだよな! そりゃあ返してる分もあるわけだから当時と同じ額なんてあり得ねぇよな!!」

 嫌な予感を強引に消し去り、無理矢理ポジティブに捉えようとする二人。しかし、現実というのは厳しいものだった。

「いや、確かに毎月リアの給料から一部借金の返済に回してはいたが、ぶっちゃけリアの稼ぎ自体少なかったから利息分にすら足りてねぇよ」

「「……」」

「利息分含めると……そうだな、ザックリ700万くらいだな」

「「な、ななひゃく!?」」

「それと、さっき暴れて壊した店の修繕費――」

「ちょ、ちょっと待て! 店の修繕費って、これはお前らが襲ってきたのが原因であって――」

「原因が俺達だってのは分かってますよ。だけどさすがにこれだけ派手に壊されちゃね……」

 『これ以上借金を増やされて溜まるか!』と慌てて抗議に入ったミズキを遮り、ザレクが指差した先には……

「壁に大きな穴が5つ、割れた床が4か所、破壊された家具類が、数えられないくらい……。さすがにこんな派手にやる必要はねぇでしょう。控え目に見積もってもこれだけで800万くらいありますよ」

「「は、はっぴゃ……」」

 修繕費だけで800万バリス……その金額を聞いた二人の足は最早フラフラ。

「まぁでも、今回黒崎の旦那がその気になってりゃあ俺は破滅してたかもしれねぇし、さっき旦那に言われた通り、店の損傷はむしろ俺達の責任の方がデカい。――だが、それを全部見積もっても……元々の借金と合わせて800万バリスは払ってもらわねぇと……」

「「……」」

 二人は無言で膝をついた。

「も、勿論返済は無期限でいいし、利息は無しでいい! 商売するときは俺も出来る限り口利きするし……」

 ガックリと項垂れる二人を見かねたザレクによる必死に譲歩するが、二人にとっては焼け石に水。

「な、なぁリア。そういえばさっきしたボディーガードの話、まだ正式に契約書にサインはしてないよな? だったらまだ――」

「なるほど。分かりました!ではミズキさんには契約書を作る間しばらく気絶してもらうしかありませんね?」

 不意に立ち上がろうとするミズキの腕を掴むリア。

「……」

「……」

 二人はそのまま無言でにっこりとほほ笑み合うと、

「テメェ! こら、離せや!」

「何逃げようとしてるんですか!? 逃がしませんよ! ここに来る前は『借金なんて関係ねぇ』とか言ってたじゃないですか!?」

「バカ! お前、さすがに借金800万とか聞いてねぇよ! 詐欺だろ詐欺!!」

「なっ! し、仕方ないじゃないですか! 利息のことなんて知らなかったんですから!!」

「じゃあ店の破壊はどうなんですか~? こんなに派手にやる必要なんてあったんですか~?」

「なっ! それは襲撃を受けた時、ミズキさんが『細かいことは気にせず、思う存分やれ』って言ったからで――」

 互いに罵り合い、借金の責任を押し付け合う二人。

「ああもういい!! リア、テメェ絶対借金800万分働かせてやるからな!!」

 黒崎ミズキ24歳。異世界にやってきて2日目にして、美少女のボディーガードを手に入れた。……借金800万バリスと引き換えに。



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