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目には目を歯には歯を

「あ? 何言ってんだ、テメェ?『全員ボコボコにした上で借金を無かったことにさせる』だと?」

(何だ? コイツのこの余裕は? リアの戦闘力は事実上封じたも同然。まさかコイツ、実はかなりの腕利きなんじゃ……いや、あり得ねぇ。コイツのことは冒険者ギルドで測定した数値まで調査済みだ。コイツがそこらのガキ以下の戦闘力しかねぇってことは確かなんだ。どうせ苦し紛れのハッタリに決まってる)

 ミズキからの答えを受け怪訝な目で睨みつけるザレク。

 さらに、隣からはリアの不安気な視線が向けられていても尚、ミズキは自信に満ちた顔を崩さない。

「バカか、テメェは! そんな選択肢ねぇって言ってんだろ――」

「バカはテメェだよ、オッサン」

 それどころかさらに挑発。

「……テメェ、よっぽど死にてぇらしいな!」

 ザレクの顔は怒りでどんどん赤く染まっていく。

「はいはい。そういうのいいからさっさとかかってこいよ。 そっちからかかって来ないならこっちから行ってもいいんだぞ?」

「テメェ!!」

 まさに一触即発。ザレクの怒りは既に爆発寸前のところまで達していた。

「あの、一応聞いておきますけど、実はミズキさんって何か凄い必殺技を隠し持ってたりは……」

「あ? そんなのあるわけねぇだろ?」

「で、ですよね……」

 そして、味方なのに何も聞かされていなかったリアも、ここまでの流れやミズキの性格などからなんとなくこの後の展開を予想できてしまい、思わず顔を引きつらせる中、

「もういい! ――おい、テメェら! やっちまえ!!」

 ミズキからの返答を待つ間もなく、遂にザレクから襲撃の命令が下された。

「調子乗ってんじゃねぇぞ、クソが!!」

「死ね、コラ!!」

 今まで大人しく黙っていた輩が一斉に襲い掛かってくる中、

「あの、ミズキさん? 何か始まっちゃいましたけど……これ、どうするんですか?」

「決まってんだろ?――細かいことは気にせず、思う存分やってくれ」

「はぁ……やっぱりですか……」

 ガックリ項垂れるリアに対してミズキは親指を立ててニカっと笑った。

「まったく……どうなっても知りませんからね!!ちゃんと責任取ってくださいよ!?」

「おう。任せとけ」

 そして、その命を受けたリアが一度目を閉じ、再び開くと……その目は赤く光り輝いていた。


 ドカッ! ガシャン!! バキッ!!


「ぐあっ!」

「がっ…」

「く、くそ…」

 それは文字通り一瞬の出来事だった。襲い掛かってきたはずの男達は何が起こったのか理解する間もなく次々と派手にぶっ飛ばされ……

「動かないでください。少しでも動いたら首が折れますよ?」

「て、テメェ……」

 今現在、ミズキとリア以外で立っているのはザレクのみ。しかしそのザレクでさえも喉元に手套を突き付けられており、身動き一つ取れない状態になっていた。

 ザレクの額からじわりと冷や汗が滲み、

「チェックメイトだな」

 そんな様子を確認したミズキは勝ち誇った顔で二人の下へと近づいていく。

「ミズキさん、自分は何もしてないのによくそんなドヤ顔できますね?」

「いやいや、お前さっき『責任取ってくださいよ』って言ったじゃねぇか。責任を負わされるってことは当然成功した時の手柄も俺の物だろ?」

「いや、確かにそれはそうなんですけど……普通それ、私に言います?」

「言っとくが、俺は言うべきことはしっかり言えるタイプの男だ。肝に銘じておけ」

「……なるほど。どうやら私は仲間にするべき人を間違えたみたいですね。『仲間選びは慎重にするべし』――以後肝に銘じておきます」

と、リアとミズキが呑気に漫才のような掛け合いをする中、

「おい、テメェら」

 喉元に手套を突き付けられたまま放置されていた男が口を開いた。

「自分達が何したか、ちゃんと分かってんだろうな?」

「あ? 分かってるよ。俺達がお前らを屈服させたんだろ?」

「テメェ、舐めてんのか?」

 その鋭い眼光には怒りと殺気がたっぷりと込められていた。

「リアが俺達に逆らって危害を与えたことは隠しようがねぇ事実。国の捜査官に部下共が負わされた傷を見せりゃあ一発だ。それに、言っとくがさっき見せた契約書は本物だ。俺から無理矢理奪って破り捨てても原本はちゃんと別のところに隠してある。――つまり、お前らがやらかしたことを無かったことになんてできねぇんだよ!!」

 部屋中にザレクの怒声が響き渡った。

「ハッ! 何を勝手に勝った気になってんのか知らねぇが、お前ら自覚はあんのか? この時点でお前らは1100万バリスだ! それとも今俺を殺すか? どっちにしろお前らは国に追われる身になるけどな!!言っとくがいくら焔眼保持者が強かろうが一人で国の軍を相手にするなんて到底無理な話だ。せいぜい1、2週間で捕まってそこからは一生牢屋の中か処刑だろうな!!」

 ザレクが言い放ったことは全て正論。決して負け犬の遠吠えなどではなかった。だが、

「お前らに残された選択肢は三つだけだ。――①俺を殺して逃亡生活を送った挙句軍に捕まって処刑されるか、②俺を解放して借金1000万を背負うか、③俺を解放して二人とも奴隷として生きていくか……まぁ、すぐにまとまった金を用意できるあてがない以上、実質②は無いも同然の選択肢だがな!! ほら、さっさと――」

「おいおい、さっきから何言ってんだよ? さっさと選ぶのはお前の方だろ?」

 それでもやはり、この男――黒崎ミズキは余裕の笑みを浮かべたまま。

「あ? 何言って――」

「なぁアンタ。俺達を嵌めるためにいろいろと策を練ったみたいだが、自分が同じ目に遭うかもしれないとは考えなかったのか?」

「は? どういう――」

「いいか? 頭の悪いお前にも分かるように言ってやる。――お前に残された選択肢は二つだけ。①このまま素直に“リア=オルグレンのペナルティは無しにする”っていう誓約書を作りに行くこと」

「なっ!?」

「②このまま無理矢理誓約書を書かされる」

「ば、そんなものどっちも――」

「言っとくが、アンタに第三の選択肢なんて無い。何せアンタが①を拒否した場合、即俺はリアに対してこう命令するんだからな――『リア、そいつを“気絶させろ”』ってな」

「「!!」」

 ここで初めてザレクとリアはミズキが何をしようとしているのかを理解した。

「ああ、ちなみに②を選んだ場合誓約書の内容がどうなるかは保証できないぜ? ちゃんと控えは置いといてやるから内容は目が覚めた時のお楽しみってことにしといてくれよ」

 当然のことながら気を失ってしまえばその間、本人は何もすることができない。自分の意志でサインすることも、誓約書の内容を読むことも、そして理不尽な誓約書へのサインを拒むことも……。

 このミズキのセリフが暗に“大人しく①を選べ。さもなくばどんな理不尽な目に遭うことも覚悟しろ”――そう告げていることはこの場の誰もが理解していた。

「まぁ、俺が言った以外の選択肢をあえて挙げるなら、“今この状況からリアを無力化する”ってところだろうが……どう考えても現実的ではないだろうな。ま、一瞬で返り討ちに遭って気絶するだけだから、ぶっちゃけ選択肢②と大差ないし」

 ザレクとて当然ある程度戦闘力には自信を持っている。が、今目の前で自身の喉元に手套を突き付けているのはたった一人で国同士の戦争の局面を変える程の力があるとも言われる焔眼保持者。到底逆転など狙えるはずもなかった。

 形勢逆転。つい数分前まで勝ち誇った顔で見下していたザレクだったが、今ではただ悔しげに歯噛みしてせめてもの抵抗にミズキを睨み付けるだけだった。

「クソが! 無理矢理誓約書にサインさせるだと!? そんな卑怯な手段、無効に決まってんだろうが!!」

「おいおい卑怯な手段って、どの口が言ってんだよ……。暴力と莫大な借金散らつかせて無理矢理サインさせる――アンタもさっきまでやろうとしてたことだろ?」

「!!」

「それに、この国の捜査魔法とやらでも誰がサインしたかは分かっても、サインしたヤツがどんな状況でサインしたかなんてわかるとは思えん。無効になんてできるわけねぇだろ?」

「くっ……!!」

 苦し紛れの反論さえも軽く論破され、最早為す術は何も残されてはいなかった。

「さぁ、選べよ。――選択肢①、選択肢②……どっちにする?」

 答えなんて選ぶまでもない。それを十二分に分かっていて、ミズキはわざわざ屈んで視線をザレクに合わせ、意地の悪い笑みを湛えて選択を迫る。

 まるで勝者と敗者、自分とザレクの間にある圧倒的な格の違いをハッキリと分からせようとしているように……。

「くっ……!! そんなの、①に決まってんじゃねぇか!! クソがッ!!」

 そして、部屋には敗者の悲痛な叫びが響き渡った。

「了解。じゃあ早速誓約書を書いてくれ」

「……」

「それとリア、このオッサンが変なマネしないようにちゃんと見張ってろよ?」

「りょ、了解です!」

「……」

(俺の直感が言ってやがる。この男、黒崎ミズキは絶対敵に回したらダメなヤツだ…)

 リアの監視の下、言われた通り黙々と誓約書の作成に取り掛かるザレクに最早反抗する気力は残ってはいなかった。


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