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ミズキが来る前から保険は掛けられていた。

 ザレクの手下達に出入り口をふさがれ、四方を囲まれてしまったリアとミズキだったが、二人に焦りや動揺は一切なく。

「ほうほう。まぁこういう展開になるよな。――でもいいのか、おっさん? この程度の人数で」

「自分では一人も倒せない癖によくそんな自信満々でいられますね……? 最早逆に尊敬しますよ……」

 ミズキに至っては調子に乗って挑発的な口調でさらに煽り、隣のリアを呆れさせていた。

(焔眼、だっけ? 相手が何人出てこようがこっちには規格外の戦闘ロリがいるんだ。楽勝楽勝♪)

 別に油断などではない。事実、一般兵士数百人分とも言われている焔眼保持者の前では数十人の屈強な輩など取るに足らない相手でしかないのだから。

 だが、

「フッ、そんな余裕ぶっていられるのも今のうちだ」

 そんなことは、事前にリアが焔眼保持者であったことを知っていたザレクも百も承知。

「おいオッサン、俺達も暇じゃないんだ。かかってくるか大人しく帰してくれるか、さっさとして――」

「何せ、お前らはもう詰んでるんだからな」

 ザレクは余裕たっぷりの表情を崩さない。

「は? 何言って――」

「この俺が知らないとでも思ったか? リアの野郎が“焔眼保持者”だってことはな!」

「「!!」」

 リアとミズキに動揺が走った。

「リア、まさかテメェが焔眼持ちだったとはなぁ? ――だが断言してやる。リア、テメェは決して俺や俺の部下を殴れない」

「どういうことですか? 私は別に――」

「言っとくがこれは別に強がりでもハッタリでもない。ただの事実だ」

 一般兵士数百人分の戦闘力、人間離れした化け物――そんな二つ名を有する焔眼保持者を前にしているにもかかわらず、ザレクとその部下達の自信は全く持って揺るがない。

「なぁリア。一つ確認なんだが、お前さっき『私は今日限りでザレクさんの下を離れるつもりでいます』って言ってたが、お前、俺への借金残ってること、ちゃんと分かってるよな?」

「は、はい! それなら――」

「それなら俺が肩代わりすることになった。当然分割払いになるが、いいよな?」

「ハッ!そりゃあご苦労だな! いいぜ、別に。分納でも。支払回数の取り決めなんてしてねぇしな」

「……」

(ここにいる連中だけでリアを倒せるとは思えんし、てっきりこのオッサン、俺がリアの借金のことを知らずに仲違いすると思ってるんじゃないかと踏んだんだが……)

 借金のことをミズキ達が知っていたことも想定内と言わんばかりの表情で、『分割で払うなんて許さん!』などと言ってくることもなく、ただただ余裕綽々と言った様子のザレク。

 ザレクの余裕のワケ……それがリアの借金だと踏んだミズキだったが、それはどうやら間違いだったらしい。が、そのミズキの予想は全く見当違いということでもなかった。

「じゃあ、これは知ってるか?――リアが俺に刃向ったらペナルティ1千万バリス」

「「なっ!? 1千万!?」」

 リアもミズキも思わず自らの耳を疑った。

「た、確かにザレクさんには絶対に逆らわないという約束はしましたが、逆らったら1千万なんて……そんな約束した覚えありませんよ!?」

「おいおいリア。契約を無かったことにするのは良くねぇな」

「だ、だからそんなもの――」

「ハッ! そう言うと思って用意してきてやったよ。――ほら、これがその契約書だ、ちゃんと自分の目で確認してみろよ」

「「!!」」

 『そんな契約した覚えはない』と猛抗議するリアに対し、ザレクはこうなることも予期していたのか。自分の懐から一枚の用紙を取り出し、挑発的な仕草でヒラヒラとわざとらしく自らの足元に落として見せた。

「っ!!」

 そんな男をキッと睨み付けつつ落とされた用紙を拾い上げに行くリア。

 一方、この世界の文字が読めないミズキはその用紙の方へは行かず……いや、例え文字が読めたとしても行く必要がまるでなかった。

 なぜなら、契約書が読めずとも、経験則からその用紙に何が書かれているのか分かっていたのだから……。

「なぁ、リア。一応確認しておきたいんだが……、お前この契約書交わすとき、ちゃんと全文読み返したか……?」

 ため息交じりに確認を取るミズキ。

「え? 確かにこの契約書には見覚えがありますが、どういう――!?」

 そして、遅れてリアも気が付いた。


 “リア=オルグレンがザレクとその一味に対して危害を加えることを禁ずる。危害を加えた場合は罰金1千万バリスを支払うものとする”


――という一文と、契約書の最後にしっかりとリア自身のサインが書かれていることを……。

「たとえ俺と俺の部下から制裁を加えられようとも、少しでも反撃してダメージを負わせたらアウト。即罰金1千万だ」

「……」

「ガッテム!!」

 ミズキは思わず思いっきり天を仰いだ。

「黒崎ミズキだっけ? 別にお前が攻撃してくる分には一向に構わんぞ? まぁ、お前が戦闘力ゼロの役立たずだってことは既に分かってるがな! ガハハハッ!!」

 そんな中、その場にはザレクの高笑いと彼の部下達の嘲笑だけが響き渡っていた。

 リアは手出しできず、そもそもミズキは戦力外。にも拘わらず周りには屈強な男達が20名余り……。

 そんな状況の中、二人は……

「……なぁリア?」

「は、はい……」

「お前、こんな契約交わしてるんだったら先に言えよ!! 何最後の最後でこんなドデカい爆弾隠してんだよ! どうすんだよ、これ!!」

「わ、私も知りませんよ! こんな契約!!」

「は? ちょっと待て。てことはお前はこの契約書自体見たことないってのか? それなら話が違って――」

「い、いえ……確かにこの契約書自体には見覚えがありますが……」

「あるんじゃん! どうしてくれんだよ! 一瞬『もしかしてこの契約書、偽物なのか?』とか思っちゃったじゃん!!」

 ただただ醜く言い争うだけ。

「そ、そうです! というか、これはきっと何かの間違いです! 契約書にサインする前にザレクさんが読み上げてくれた時はこんなこと言ってませんでしたし!!」

 だがしかし、言い争っていても状況が好転するはずもなく。

「おいおい、言いがかりは止めろよ。俺はちゃんとこの一文についても説明したし、たとえ説明が漏れてても契約書にはしっかり書いてあるんだ。見落としたお前が悪いんだよ」

「そ、それは……」

 相手は余裕綽綽。しかも正論。

(チッ、こりゃあヤバいな。このザレクとかいうオッサン、見た目によらず思ったよりキレるヤツみたいだな……だが……)

「いいか? テメェらの選択肢は3つだ――①今すぐ素直に服従して俺様の奴隷になる。②ここにいる俺の部下からリンチされてから無理矢理奴隷契約にサインさせられる。③ここにいる連中をぶちのめした代償で1千万の借金を追加で負うか……さぁ、どれだ!?」

 実に猟奇的で楽しげで歪んだ笑みで答えを迫るザレク。

「言っとくが、俺は待たされるのが大嫌いだから借金を選ぶ場合は覚悟しとけよ? そうだなぁ。待てても3か月だ! 3か月以内に1千万払えなけりゃあどんな手段使ってでも金を作ってもらうぜ!? まぁそうなりゃあ、十中八九二人とも奴隷商人行きだろうけどな!! ガハハハッ!!」

 どの選択肢を選んでも最終的には奴隷行き……そんな絶望的な状況に追い詰められた二人。

「なぁ、ちなみにコイツ等全員ぶっ殺してあの契約書を破り捨てちまうってのは?」

「ここまで考えてる人が写しを隠し持ってないわけありません。多分絶対見つからないようなところに隠しているはずです。それに当然殺人は禁止されていますし、見つかれば重罪です。ちなみにこの国の捜査魔法は世界一と言われていますから、もし見つかった後国全体を敵に回す覚悟があるならミズキさんの案もありかもしれませんね……」

「非常に現実的で倫理的な解説をありがとう! マジでこの世界俺に対して優しくねぇな!!」

 苦し紛れに出したミズキの案も良策とは言えず。

「おいおい、何度もおんなじこと言わせんなよ? 言ったろ? 俺は待つのが嫌いなんだよ! ――ほら、あと3秒以内に決めろ」

 そして、遂に運命のカウントダウンが始まった。

「ほら、3……2……」

「――しゃあねぇな」

「す、すみません、ミズキさん……私のせいで……」

 悔しそうに拳を握り、自身の甘さと無力さを責めるリア。しかし……

「おいおい。何勝手に諦めてんだよ」

「……え?」

 決断のタイムリミットまで残り1秒。黒崎ミズキはまだ諦めてはいなかった。

「1……」

「あんまり気乗りはしねぇが背に腹は変えられん。いいか? 説明してる時間はねぇ。――とりあえず、俺を信じろ!」

 ミズキは意味が分からないと言わんばかりの顔で見上げてくるリアに対してフッと笑って見せると、

「……ゼロ! 時間切れだ! さぁ、こたえ――」

「うるせぇな。おっさん。そんなもん、考えるまでもねぇ。――全部お断りだよ」

「……あ? テメェ、何言って――」

「答えは④――テメェら全員ボコボコにした上で借金を無かったことにさせる、だ!」

 ザレクを挑発するかの如く、ニヤリと不敵に挑発的な笑みを浮かべて答えを告げた。



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