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リアが一番欲しかった言葉

「いや、正しくはボディーガード兼雑用係だな。業務内容は主に俺の護衛。それから店の雑用なんかを頼む。報酬は仕入れ代やらなんやらの経費を差っ引いて、残りの4割で――」

 『俺のボディーガードになってくれ』――突然そんなオファーを出されて戸惑うリアをよそに早速具体的な条件の説明に入るミズキ。

(ボディーガード……いえ、なんでミズキさんが急にそんなことを言い出したのかは分かります。商人はかなり危険な目に遭う仕事ですし、現に今危険にさらされたばかり。お子様レベルの戦闘力しかないミズキさんが身の危険を感じてボディーガードを雇いたいと考えるのは当然ですし、今敵を撃退した張本人である私に声を掛けるのも極々自然の流れ。ですが……)

 しかし、只今絶賛困惑中の少女がその説明をしっかり聞いているはずもなく、ミズキの言葉は右から左へ。

「護衛の仕方については基本的にお前に一任するとして――」

「すみません、ミズキさん」

「あ? どうした? 質問なら最後にまとめて――」

「いえ、その前に私の方からお話しておきたいことがありまして……ボディーガードのお話はその私の話を聞いてからにしてもらってもいいですか?」

 それでも尚続く説明を遮り、リアは真剣な眼差しをまっすぐ向けた。

(正直この2日間はいろいろ驚かされたり、イラッとしたこともありましたけど、本当に楽しかった……。できることならずっとこんな生活が続いていけばいいと思える程に……。ハッキリ言ってこのボディーガードの話、やりたいです! でも……)

 この話を受けるということはリアにとってミズキは護衛対象であるとともに仕事上のパートナーという存在になる。

(私の諸々の事情はパートナーに秘密にしておくには少し大き過ぎます……)

 別に仕事のパートナーだからと言って聞かれてもいないのにバカ正直に自分の秘密を報告する必要なんてないだろう。

 しかし、リアはそれを良しとはしなかった。

(全部、正直に話しましょう……)

 ギュッと自分の手を握りしめ、覚悟を決めた。

「実は私、いろいろと訳ありでして――」

(私の話しを聞き終えたら、私の秘密を知ったら、この人はどんな顔をするのでしょうか……。この人は何と言うのでしょうか……。怖い、怖い……)

 ザレクに対して多額の借金があること、借金を完済するまでザレクの下で働かなくてはならないという契約になっていること、そして何より一番彼女自身が気にしている焔眼保持者だということ――彼女は心の中で恐怖と闘いながら、恐る恐る、ぽつぽつと、少しずつ少しずつ言葉を紡いでいき、ゆっくりと時間を掛けて今まで隠していたことを全て打ち明けた。

(全て、話してしまいました……。今まで焔眼という存在を知らなかったわけですから、いきなり態度が豹変するようなことはないとは思いますが……)

 そう思いながら、恐る恐るミズキの顔を見上げてみると、

「なるほど……借金と焔眼ね……」

 最後まで話を黙って聞いていたミズキは、全て聞き終えると何か考え込むように腕を組んで瞑目していた。

(や、やっぱり、完全にこれまで通り、というわけにはいきませんよね……)

「どうです? もし今の私の話を聞いても私をボディーガードに、というのであれば喜んでお聞きしますけど」

 そんなミズキの様子を見て、リアはこれから言われるであろう言葉への恐怖を誤魔化すように自虐的な笑みを見せながら問いかけた。

「う~ん……」

 唸り声を漏らし、依然瞑目しながら考え込むミズキ。

(そりゃあそうですよね。借金だけでなく、周りから化け物呼ばわりされかねない焔眼保持者……さすがに二の足踏みますよね)

 心のどこかで『もしかしたらこの人は焔眼だろうと借金があろうと気にしないのではないか…?』と期待してしまっていた。だが……、

「心配しなくても選り好みしなければ、ある程度の報酬でボディーガードを引き受けてくれる冒険者なんていくらでもいますよ?」

 勝手に期待を押しつけて勝手に失望したらダメだ。――そんな思いから落胆しているのを悟られないようにと無理に笑った。

「わかった」

(これでまた一人か……)

 しかし、リアの笑みが寂しげなものに変わったその時、

「しゃあねぇ。借金は一旦俺が肩代わりしてやる。お前は報酬の中から一定の割合ずつ返してくれればいい。勿論利子なし、期限なし――この条件でどうだ!?」

「……へ?」

 ミズキの口から発せられたセリフは全く予想外のものだった。状況理解に頭が追い付かず、キョトンとするリア。

「おいおい、さすがにこれ以上の譲歩は――」

「い、いえいえ! そういうことではなくて!!」

 しかし、その沈黙をミズキは条件に納得していないためと誤解。『え~?』とジト目を向けてくる彼にリアは慌てて待ったをかけた。

「いえ、勿論借金の問題も大きいんですけど、それより、その……いいんですか? 私、焔眼保持者なんですよ?」

「なんだよ、ガメツイ奴だな。『焔眼保持者をそんな安い報酬で雇えるわけないだろ?』ってか?」

「いや、ですからそういうことじゃなくて!! さっきも言いましたけど、世の中には私を化け物扱いする人がたくさんいるんですよ!? 当然行動を共にすればミズキさんにもご迷惑をおかけするはずですし、他にもいろいろ不都合なことが起こることもあり得ますし……」

 数秒、流れる沈黙。そして……

「ん? ああ、そういうことか」

 誤解はようやく解けたらしい。

「なぁ、どうして俺がお前にボディーガードを打診したか分かるか?」

 一転、真剣な眼差しを向けて問いかけるミズキ。

「え?」

「勿論さっき見た戦闘力の高さなんかもあるがそれだけじゃない。バカ正直で分かりやすくて真面目で一緒に居ても飽きなくて……何よりお前は絶対に仲間を裏切るような奴じゃない――二日間一緒に居て、お前のことをそんな風に思えたから、俺はお前にオファーした。ただそれだけだ。別にお前が焔眼保持者だろうが、他人から化け物扱いされてる奴だろうが、そんなことは大したことじゃねぇ。――リア=オルグレン、俺はお前がいいんだ!」

「!!」

 それはリアが一番欲していた言葉だった。

「……いいんですか? 迷惑かけるかもしれませんよ?」

「あ? そんなのお互い様だっつーの」

「……私、借金だってたくさんあるんですよ?」

「一時的に立て替えてやるだけで、最終的には返してもらうんだから関係ねぇよ」

(まぁ、さすがに結構な額の借金があるって言われた時は悩んだが、コイツより強くてお手頃価格で雇えて信頼できる奴なんて見つかるか分からんしな。結構な額って言ってもまだガキだしな。せいぜい100万とかだろ。問題ない問題ない)

 当然そんな現実的な計算も多少はあるが、ミズキの言葉自体に嘘はなかった。そして、それが聞いていたリアも分かったのだろう。

(勿論私だって皆が皆焔眼保持者を忌み嫌っているわけではないことくらい分かっています。憧れを抱く人、恩恵にあずかろうと媚びへつらう人、親切にしてくれる人……“焔眼保持者の私”への態度は人それぞれだった。でも……)

「まさか『そんなこと大したことじゃない』なんて言われるとは思ってませんでしたよ」

 嬉しさ、安堵、『なんだそれ……』といった少々の呆れ……いろいろな気持ちが混ざり合い、彼女は思わず苦笑していた。

 迫害されるわけではない……。腫れものに触るような扱いを受けるでもない……。

 忌み嫌われて陰で嫌がらせを受けるわけでもない……。

 優しく親切にされるわけでもない……。

 憧れられるわけでもない……。

 特別扱いされたくない。焔眼保持者だと知って普通の人と同じように接して欲しい――それは故郷から追い出され、新たな街でも“特別扱い”され続けてきた彼女にとってのささやかな願いだった。

 だからだろう……。

「お、おい! ちょっ、お前何泣いてんだよ!?」

「え?」

 そんな念願叶ったリアの目からは気付けば涙がこぼれおちていた。

「いや、お前がそんなに嫌だって言うなら諦めて他を当たるが――」

「……責任、取ってもらいますからね?」

「なっ!? はぁ!? せ、責任って、おま――」

「ふふっ、冗談ですよ」

 慌てふためくミズキにリアはごしごしと目を拭うと悪戯っぽい笑みを向け、肩手を差し出した。

「ミズキさん、これからもよろしくお願いします」

「チッ! 雇い主に向かって生意気な……。言っとくが、その焔眼保持者とかいうのだからってこれまで通りきっちり雑用もやってもらうからな?」

「はいはい、分かってますよ」

 そう言って再び歩き出したリアの表情は晴れやかで、その足取りは実に軽やかなものだった。

 今向かっている先では彼女にとっての弱点が用意されているとも知らずに……。


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