欲しいものは意外とすぐそばにある
一方その頃噂のミズキはというと、
「なぁ、ちょっと進むスピード上がってね? まだ時間もあることだしもう少しゆっくり――」
「何言ってるんですか。ミズキさんの方がどんどん遅くなってるんですよ。何で手ぶらのくせにこの程度でへばってるんですか!――あ! ちょっと何ちょっとリアカーに体重預けてるんですか!!」
「ケチケチすんなよ。別に減るもんでもないし」
「知ってますか? 体力っていうのは減るものなんですよ?」
まだ半分くらいしか進んでいないというのに既にヘロヘロになりながらも、なんとかリアと共にザレクの下へと向かっていた。
(そういえば、この仕事が終わった後のこと何も考えてなかったな……。どうするか……)
歩きながら、ふとそんなことが頭を過る。
(今回も思った程は稼げなかったし、働かないといけないのは間違いないんだが……面倒臭ぇなぁ……)
なんやかんやあって忘れていたものの、異世界に来てまで真面目に働かなければならないという厳しく退屈な現実に変わりはない。
今回の報酬もせいぜい1週間暮らせる程しかない以上、稼ぐ手段を早急に見つける必要があるのだが……
(チート能力もなし、王族とかとの人脈もなし、冒険者にも向いてない……結局できそうなことといったら今回みたいな商売しかないんだよな……)
楽して稼げる道が無い以上、ミズキに残されたすぐに仕事は日本でも経験のある営業――この世界でいうところの商人くらい。
(異世界に来てまで営業とか……マジでツイてねぇ……)
「ちょっ! ミズキさん!? 何で寄りかかってくるんですか!!」
精神的なショックで足元がふらつき、無意識にリアの方へと寄りかかり、彼女の頬を赤く染めていることにミズキは全く気付いていない。
(それにここって日本と違って治安悪そうなんだよな……。でもボディーガード雇える程金に余裕なんてねぇし……)
「はぁ……。どっかに安くて優秀なボディーガードとか落ちてねぇかな……」
と、ため息交じりにそんなことを呟いていると……
「危ない!!」
「うおっ!」
シュン!
「……いてて。おい、いきなり何するん――え?」
それはあまりに突然の出来事で、突き飛ばされたミズキが顔を上げると、先程自分が立っていた場所にはリアが居て……彼女の手には矢が握られていた。
「誰ですか、そこの茂みにいるのは?」
リアが誰もいない茂みに向かって鋭い目を向けると、
「チッ! 退くぞ!!」
「ま、待ってくれ!!」
そこから二人の男が逃げようと飛び出した。
「は? え?」
全く状況が掴めずオロオロするミズキ。その一方で、
「逃がしません」
リアは素早い反応、凄まじいスピードで二人の男を追いかけていき……。
「ふぅ。良かったです。取り逃がさずに済んで。――あ、ミズキさん! 襲ってきた二人組、ちゃんと捕まえましたよ~!」
1分も経たないうちにリアは逃げた二人組を気絶させ、ズルズルと引きずりながら戻ってきた。
「お、おう……」
(え? 何? 俺、今襲われたの? ていうか、もしかして今リアが助けてくれなかったら俺、死んでたんじゃね?)
ようやく状況を理解したミズキは一歩間違えれば命を落としていたかもしれなかったことに今更気づき冷や汗をタラリ。
「多分ザレクさんの仕業ですね。――ミズキさん、急ぎますよ? 早いとこ終わらせないとまた違う人達が襲ってくるかもしれません」
「お、おう……。悪いな、助かったぜ……」
本人は爽やかな笑顔で礼を言っているつもりなのだが、その表情は恐怖で完全に引きつっていた。
「まぁザレクさんのことですし、私達がノルマを達成したと知ったらこれくらいやってくるとは思ってましたが……一応警戒しておいてよかったです」
「は、ハハッ……それな!」
(よかったぁ!! コイツが一緒に居て!! ていうか、普通警戒してたとしても飛んできた弓矢なんて止められねぇよ!! 何なの、コイツ!? マジで人間離れし過ぎじゃね!? それとも異世界ではこれがスタンダードなの!? 異世界マジハンパなさすぎだろ!!)
実際には今のリアのような芸当ができる人間なんてこの世界でもわずかしかいないのだが、この世界では誰でも簡単に命を狙われるのは事実。
特に多くの商品や金を持っていて一人になりやすい商人は命を狙われる危険性が高い。故にこの世界の商人達は皆、自衛のために最低限の戦闘力は有しているのだが、悲しいことにミズキは冒険者ギルドお墨付きの弱者。
(ヤバい、ヤバすぎるぜ異世界……。こんなのボディーガードつけなきゃ余命数時間レベルだぞ!? ただでさえ商人なんて誰かの恨み買いやすい仕事だってのに……。マジで早くボディーガード探さないと……)
自分の身を守るため、ボディーガード探しを真剣に検討し始めたミズキだったが、
「あの、ミズキさん? 大丈夫ですか?」
「……いや、わざわざ探す必要なんてねぇか」
「え?」
ふと冷静になってみると、適任者はすぐそばにいることにようやく気付いた。
「なぁリア。お前、この仕事が終わったら何かやりたいこととかあるのか?」
希望の光を見つけたミズキは、少女の華奢な肩を両手で掴み、目を血走らせながら問いかける。
「え? い、いえ、別に何もないというか……この仕事が終わっても借金を返すまではザレクさんのところで働かないといけませんし――あの、ミズキさん? ちょっと目が怖いんですけど……」
一方、そんなミズキにリアは驚き、戸惑いを隠せずオロオロしながら返答。
「よし、わかった! じゃあ俺と取引をしよう!!」
「え? 取引?」
しかし、その返答を聞いてパァッと笑顔になったミズキの口から飛び出した次の言葉はさらにリアを驚かせるものだった。
「ああ。――リア、俺のボディーガードになってくれ!」
「……え? ボディー、ガード……?」
ミズキからの突然のオファーに、リアは大きな目をぱちくりとさせていた。




