プロローグ~自信に満ち溢れる二人~
顔を突き合わせ、詳しい話を聞こうとミズキとリアを自らのテーブルに招いた女商人。
しかし、
「それで? 黒崎ミズキだっけ? 具体的にどうやって“コレ”を売るつもりなの?」
「うおっ! うめぇな、これ!!」
「ちょっとミズキさん! 依頼主の方が喋ってるのに何ガツガツごはん食べてるんですか!!」
「んあ? 大丈夫大丈夫。ちゃんと聞いてるから。そのマジックアイテムをどうやって売るかってことだろ?――リア、食わないならお前の分も貰っていい?」
「いいわけないでしょうが! 私だってお腹ペコペコですけど、依頼内容聞くまではと思って我慢してるんですよ!!」
「なんだよ、腹減ってんなら無理せず食っといた方がいいぞ? ほら、お前の分も取り分けてやるよ」
「一体どういう神経してれば他人からもらった物をそんなに偉そうに勧められるんですか!?」
「あんた達少しは人の話聞きなさいよ!!」
席に座るやいなや『これ食わないなら貰ってもいいか?』と言って先程店を出て行った冒険者が残した料理をガツガツ食べ始めたミズキに振り回されていた。
「す、すみません、アニーさん。このダメ人間にもちゃんと聞かせるのでもう一度詳しい状況を――」
「ふぁふぁふぉんなはへんはっへ」
「何呑気に口一杯に物詰め込んじゃってるんですか! 全く何言ってるのか分かりませんよ!」
「はぁ……やっぱりこんな奴を頼った私がバカだったわ」
女商人・アニーはわずか数分前に彼らに期待してしまった自分の決断を後悔し思わず嘆息。
「ったく……。失敗したら本気で在庫買い取らせてやるんだから」
そう呟き、アニーは大きな期待をしないよう自分に言い聞かせつつ、せめて自分は最低限の義務は果たそうと現在の詳しい状況を話しはじめた。
※※※※
「――とりあえず、今の状況はこんな感じね。どう? かなり絶望的な状況でしょ?」
現在自分が陥っている状況を説明し終えたアニーは、自嘲しながら半ばヤケクソ気味に話を聞いていた二人に意見を求めた。
「う~ん。それは確かに大変な状況ですね」
商人仲間から『絶対に売れる!』と勧められて仕入れた1個5万バリスもするレアアイテム“パーフェクト・ディフェンダー”。
魔法も打撃も、威力関係なしにどんな攻撃でも一度だけ無効化できるというこのアイテムだが、金に余裕のある冒険者が少ないこの街では全く売れず、在庫は10個以上。
さらに、この街で数少ない金に余裕のある人物は冒険者に限らず既に全員に売り込みをかけた後。
もうこのレアアイテムを買ってくれそうな人間はこの街には残っていない。安売りできず、売れそうな相手も残っていない。――そんな思わず目を覆ってしまうような状況だった。
「ほら、偉そうなこと言ってたわりに結局あなた達だってできないんでしょ?」
そんな現状を知って『う~ん……』と唸る少女の反応を見て、それみたことかと言わんばかりの態度を示すアニー。
「なるほどな」
しかし、もう一人話を聞いていた男――黒崎ミズキには焦ったり不安がったりする素振りは微塵もなかった。
「大丈夫なんですか? ミズキさん」
「とりあえずその高級アイテムをさっき店を出てったデカ男に売るだけだろ? 楽勝だな」
「なっ、はぁ!?」
事もなげに『楽勝だ』と即答し、
「ちょっと、あんたそんな適当なこと言って――」
「アニーだっけ? まぁあとは任せとけって。俺が“営業の基本”教えてやるよ」
フッと余裕の笑みを浮かべて見せた。
「いや、でも……」
「大丈夫ですよ、アニーさん。この人、普段はダメ人間ですけど依頼に関しては信頼できますから」
そして、その様子を見たリアもまるで既に依頼の達成は約束されたとでも言わんばかりのにこやかな表情。
「なんなの、あんた達……」
そんな自信に満ち溢れる二人にアニーは思わず呆気にとられていた。