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作戦その➁――イベント開催!

「それで、具体的には何をするんですか?」

 昨日大成功を収めた最大の要因である試食販売無しでも十分に客を集められると自信満々に豪語するミズキに対し、期待に満ちた目を向けるリア。

「今回はコイツを使う」

「お金、ですか……?」

 ざっと身の回りを見渡したミズキが取り出したのは、10バリス通貨一枚。

「まぁ、金っていうよりは、コインだな。ぶっちゃけ使うのは1バリス通貨でも100バリス通貨でも何でもいい。――ただコイントスに使うだけだからな」

「コイントス、ですか?」

「なんだ? もしかしてこの世界にはコイントスも無いのか?」

「いえ、コイントス自体はここでも一般的ですし私も分かるんですが……、どうやってコイントスを使ってリンゴを売るんですか?」

 当然リアとてコイントスがどういうものかくらいは分かっているし、実際にやったこともある。しかし、コイントスとリンゴを売ることが結びつかず小首をかしげていると、

「それなら実際に見せた方が早ぇ」

ミズキはそう言って、自ら店の前へ。

 そして、一度思いっきり息を吸い込むと、

「さぁ、いらっしゃいいらっしゃい! これから1時間限定で特別イベントを開催するぞ!!」

辺り一帯の露店が気合の入った呼び込みをしている中でも一際通る大きな声で客に呼びかけ始めた。

「何だ何だ?」

「何かイベントやるってさ!」

「あれ、昨日アップルパイ配ってた店じゃない? また何かやるのかしら?」

 突然の大声に驚き、通行人だけでなく周りの店の店員、そして周りの店にいた客達がミズキの方へと振り返る。

「今日これからやるのは皆さんご存知、コイントスゲーム! ルールは簡単。会計時に俺が投げるコインが裏かオモテか当てるだけ!! そして、なんと――見事当った人は買った分のリンゴ全て無料だ!!」

 要は客とミズキでコイントス勝負を行い、客が当たれば買ったリンゴは無料。外れれば買った分のリンゴの料金を支払うだけという単純なルール。

「ねぇねぇ、ママ―!! 僕あれやりたい!!」

「もうしょうがないわね~。1回だけよ?」

「やったー!!」

「へぇ~なんだか面白そうね」

 ゲームという単語に弱い子供やその物珍しさに一人、また一人とミズキ達の店に興味を持っていき、

「小さなお子さんでも簡単に参加できるこのゲーム! 今から1時間限定、売り切れ次第終了!! さぁさぁ早い者勝ちだよ~!!」

 その様子を見たミズキはさらに煽りをかける。

「お母さん! 私、あっちの店見てくる!!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!!――もう、仕方ないわね」

「お兄ちゃん! 私もコイントスやりたい!!」

「すみません、お兄さん1個ください」

 どんどん客が集まり、あっという間に昨日の試食販売の時に負けず劣らずの大繁盛。

「運が良ければタダか……。値段もそんなに変わらないし、あっちの店の方がお得かしら」

「え!? ちょっと、奥さん!?」

「お母さん、僕もあっちがいい!!」

「わかったから走らないで」

 さらに、試食販売をマネして客を集めていた向かいのライバル店からも次々に客が流れていき、

「はい、順番順番! ちゃんと一列で並んでくれよ~」

気付けばミズキ達と向かいの店の立場はすっかり逆転してしまっていた。

「……ぐっ!」

(おー、睨んでる睨んでる。とりあえずここまでは予定通りだな)

 そして、客を掻っ攫われ悔しそうに睨み付けてくる向かいの店の店主を見て、ミズキは内心ほくそ笑んだ。

 と、そんな中、

「ミズキさん!?」

「あ? ああ丁度いい。お前にはこの列の整理を――」

「ちょっとこっちに来てください」

「ちょっ! イタイイタイ! 何なんだよ!?」

 ご立腹の様子のリアは客対応中のミズキの手を強引に引き、客の列から少し離れた場所へ。

「ちょっとミズキさん!? 一体何を考えてるんですか!?」

「おいおい、何をそんなに怒ってんだよ? そんなカリカリしてたらモテないぞ?」

「カリカリしててもしてなくてもミズキさんよりは引く手数多なので安心してください!――それより何ですか!? 『コイントスで勝ったら無料』って! 私達はただ在庫を無くせばいいわけじゃないんですよ!?」

 そして周りに聞こえないように配慮した声で問い詰める。

 リアが怒っているのも至極当然。確かにミズキはこの世界では真新しい方法を駆使して一瞬にして客を集めて見せた。

 だが、リアが指摘した通り、この後上納金を納める必要のある二人にとって、今回の露店はただ在庫を空にすればいいというわけではない。最低でも上納金分の利益を残す必要があるのだ。

「確かにお客さんはたくさん集まりましたけど、コイントスの勝率なんて単純計算で50%ですよ!? これじゃあ結局半額で売ってるのと大差ないじゃないですか!?」

 当然、今ある在庫を半額なんかで売って利益なんて出るはずもなく、このままでは全て在庫を売り切ったところで残るのは赤字。

「いいですか!? ノルマ達成できずに戻ってあのザレクさんが許してくれるとでも思いますか!? もしそうなったら、私達間違いなくあの人の奴隷ですよ!?」

 今回リアとミズキに無茶なノルマを課した男の名はザレク。

 比較的治安の良いこの街には珍しいチンピラの借金取りで、自分より立場の低い者に対しては、相手が男だろうと女だろうと容赦ないことで有名らしい。

「大丈夫大丈夫。分かってるって」

 しかし、そんなことを言われても、ミズキはまるで意に介さず。

「もしかして、確実にコイントスで勝てる方法でもあるんですか? それなら話は――」

「いやいや、そんなのあるわけねぇだろ? お前が言った通り勝率は50%。このイベントが終わる頃には昨日の利益も残ってねぇよ」

「なっ! それなら――」

「だけどそれでいい」

 ミズキは尚も抗議を続けようとするリアの言葉を遮り、

「『それでいい』って、そんなわけ――」

「それでいいんだよ。“このイベントは”な」

フッと意味あり気に笑って見せた。

「このイベントの本当の目的はりんごの販売じゃない。これはあくまで餌だ。こっちの力を見せつけられればそれでいい――あくまで本命は“この後の商談”だ」

「この後の、商談?」

「まぁ見てろって。心配しなくとも全部終わった時にはあのオッサンに支払う分だけじゃなくて、俺達の取り分もちゃんと残るくらいは稼いでやるから」

ミズキはそれだけ言ってリアの頭をポンと叩くと、そのまま立ち上がり待たせていた客の方へと戻って行った。

「ちょっ、まだ話しは――」

「リア、お前もさっさとこっち来て手伝えよ!」

 結局納得できるような具体的な説明は何もなく、これ以上粘っても現時点でミズキに説明する気が無いことは明白で。

「この後の商談ってなんなんですか!? ちゃんと説明してくださ――」

「――さぁ、ガンガン行くぞ! 次の挑戦者は誰だ!? 」

 状況的にもゆっくり説明を聞いている場合でないことはリアも十分理解しており、

「~~もう! 分かりましたよ!! こうなったら最後まであなたを信じますよ!!」

 逡巡したものの、結局ミズキと心中することを覚悟した。

「その代わり、ちゃんと売上確保できなかったら責任取ってもらいますからね!!」

 ミズキに言い放ちつつ、彼女はムーっと頬を膨らませながらズカズカと列を為す客の方へと向かって行った。


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