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誰にでも他人に言えない秘密はある

(こっちの街に越してきてからせっかくずっと隠してきたのに……。やってしまいました……)

 強烈な右ストレートをお見舞いした際目が赤く光っていたことを指摘された瞬間、リアは思わぬミスにフリーズ。目の前が真っ白になっていた。

 感情の高ぶりと共に目が赤く光る――これはここラムザック王国の人間であれば大人から小さな子供まで誰でも知っているような“焔眼保持者”の特徴である。

 過去の経験から、“焔眼だと知られれば、また拒絶されたり迫害されたりするかもしれない”――という恐怖心から、これまで極力自分が焔眼を有していることを隠してきた少女にとって、自分の不注意とはいえ、この特徴を見られたことかなりショックな出来事だった。

(殴られてるわけですから私に好意的に接してくれるとは思えませんし……やっぱり怯えられたり拒絶されたりするんですかね……)

 過去のトラウマから自分が“焔眼保持者”だと知ったミズキがどんな反応をするのか想像し、ある程度の仕打ちは覚悟していたリア。だが、実際にはそんな覚悟は全く持って不要なものでしかなかった。


※※※※

 今現在、ミズキのリアに対する振る舞いはというと……、

「あ~マジで疲れた~。――あ、悪い。これもリアカーに積ませてくれ」

「いや、ちょっと! 何で自分の荷物全部私に押し付けてるんですか!?」

「いいじゃねぇかよ別に。減るもんでもねぇし」

「いや、減りますよ! 私の体力が!!」

 ミズキは、リアの引くリアカーの中へ自分が持っていた荷物を何の断りもなく全て乗せ、嫌がる彼女のことなどお構いなしに手ぶらで再び歩きだした……。

 先程までの従順だった男はどこへやら。ミズキは、まるでリアから受けた拳の痛みなど忘れてしまったかのように、すっかり通常運転に戻っていた。


(どうして? どうして知る前と知った後で全然態度が変わらないんですか?)


 これまでも、何らかの拍子に途中で彼女の素性を知ってしまった者達はいたが、急にあからさまに厚待遇し始めたり、身分の差のようなものを感じたのか何となくやり取りがぎこちなくなったり……過去の村の人達含め、人によって大なり小なりの違いはあれど、彼女が焔眼保持者だと知った後には必ず変化があった。

 故に、最初は焔眼を目の当たりにしたにも関わらず全く態度の変わらないミズキに戸惑い、疑問に思わずにはいられなかったのだが、

(まさか焔眼を知らない人がいたなんて……)

 リアは手ぶらなのに気だるそうにしている少し前を歩く男の方を見て苦笑した。

 焔眼を見てもミズキの態度が変わらない理由、それは“焔眼という存在を知らなかったから”――ただそれだけ。リアはまだ知らないが、実は国外どころか元々別の世界の人間で、まだこの世界に来て1日足らずの男が知っているはずもなかった。

(まさかここラムザック王国の人なら老若男女誰もが知っている程の焔眼を知らないとは……。意外と国外では知れ渡ってなかったんですね。まぁでも、焔眼が世間一般でどんな風に思われてるのか知らないのであれば、態度が変わらなかったのにも納得です。でも……)

 “それ”がいくら貴重で凄いものでも、“それ”がいくら近寄り難く恐ろしく感じられるものでも、知らなければ“それ”を見ても特別に何かを感じることはないし、関わり方を変えようとは思うまい。例えば、テレビを全く観ない人が街中で人気若手女優や人気イケメン俳優に遭遇した時のように……。

 焔眼がどういうモノなのか知らなかったから、態度を変えようもなかった――それはリアにとっても十分納得できる理由だった。が、同時に……

(全部知った上で焔眼を特別扱いせずに、ただ普段通り接してるだけなら良かったのになぁ……)

 そんなことあるはずない――自分自身でもそう言い聞かせ、ちゃんと分かっていたつもりでも、やはり心の奥底では多少の期待感はあったようで、そうではなかったと分かったリアは一人寂しげに笑った。

 そんな中、

「なぁリア、お前がよく使うっていう宿屋はまだなのか~? 俺そろそろ限界なんですけど」

「もぉ! 手ぶらなんですから少しは頑張ってくださいよ! あともう少しですから!!」

「あ~もう無理。なぁ、あと少しなら、いっそ俺もこのリアカー乗せてくんない?」

「“あと少しなら”むしろ私とリアカー引くの代わってもらいたいんですけどね!!」

(このダメ男は焔眼のことを全部知ったらどんな反応するんでしょうね……)

隣で安定のだらしなさを披露してくる年上の男を見て、心の中で不意にそんなことを考えてしまったリアは、気が付くとその場で立ち止まっていた。

「あの、ミズキさん……」

「ん? どうした? やっぱり乗せてくれる気にでもなったか?」

 それに気が付き、自分も足を止めて振り返るミズキ。

(もういっそのこと今ここで全て話してしまいましょうか。意外とこの無気力ひねくれ男なら気にしないかも――)

 そんな彼に対し彼女は、ふと、この漫才のようなやり取りに紛れて勢い任せに全てカミングアウトしてしまおうかという衝動に一瞬駆られた。が、

「――何でもないですよ」

「なんだそれ」

 リアはその衝動を抑えつけ、悪戯っぽい笑顔を作って答えると、

「急に立ち止まればミズキさんのような優しさとは無縁の人も心配して、リアカー引くのを代わってくれると思ったんですが、買いかぶり過ぎだったみたいですね」

 そのまま何もなかったかのように再び歩き出した。

「いやいや、お前は優しさってもんを全然分かってねぇな。いいか? 優しさってのはただ甘やかすだけじゃない。時には敢えて厳しくすることも優しさなんだぞ?」

「いえ、残念ながらミズキさんの言動には『自分が怠けたい』っていう欲望しか入ってませんよ」

(どうせミズキさんと一緒に行動するのは明日まで。今余計なことを言って明日の販売に影響でもしたら最悪ですし。そうでなくても、あと1日くらい楽しくやりたいですしね)

 聞かれてもいないのにわざわざ自分から言いたくもないことを話す必要なんてない。――リアは焔眼のことは話さないことにした。いや、話せなかった。過去にこの焔眼のせいで受けた嫌な経験から、『この眼のせいで、もう拒絶されたくない!』――そんな想いが彼女の頭をよぎってしまって……。

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