そして青年は綺麗に地雷を踏みぬいた……
「いらっしゃいませ! 焼きリンゴの試食やってまーす!!――あ、ありがとうございます!!」
「これ、美味しい!! ママ! 今日これ作って!!」
「もう、しょうがないわね……」
元気ハツラツ、笑顔でミズキ手製の焼きリンゴの試食を配るリア。
「お兄さん、3個頂戴」
「ありがとうございます! お会計、330バリスですね」
「すみません、うちは2個お願いします」
「はい! ありがとうござます!!」
そして、隣では会計を担当しているミズキが次々やってくる客達を営業スマイルで愛想を振りまきながら手際よく対応中。
焼きリンゴの試食販売を実施してから1時間弱が経過した頃。夕方のピーク時間を迎え、彼らの店も大賑わい。ミズキが用意した試食も大好評でかなりのハイペースでなくなっていた。
(このままいけば今日中に3分の2くらいまでは売れそうだな)
当初500個あったリンゴの3分の2というと約330個売らなければならないという計算になるが、今現在、既にリンゴの山は半分くらいまでになっており、既に約250個程度売れた計算。本日の残り時間は2時間強。
普段であれば考えられないが、3分の2という数字は現実的なものとなっていた。
「よし、リア! この調子で売りまくるぞ!!」
「りょ、了解です!!」
そして……
「はぁ~ようやく終わったか」
「さ、さすがに私も疲れました……」
夕暮れ時。少し前まで多くの人々で賑わっていたこの露店街もすっかり人通りはまばらになり、周囲の店も後片付けに入る中、二人はまるで夜遅くまで残業して終電で途中のサラリーマンの如く疲れ切ってその場にへたり込んでいた。
「あ~もう働きたくねぇ。ていうか働けねぇ」
「すみません、せめて明日残りのリンゴを売り切るまでは頑張ってください」
「いや、もう今日頑張ったし十分だろ?」
「何言ってるんですか。全部売り終わるまでが露店の販売ですよ?」
「帰るまでが遠足みたいな言い方すんなよ」
焼きリンゴの試食効果もあり、試食がなくなっても店は最後の方まで客が途切れることはなく、本日の販売を終了した今現在、リアカーの中のリンゴは目算ではあるが当初の3分の1程度にまで減っていた。
「さて、そろそろ私達も片づけましょうか。早く片付けて宿を探さないと満室になっちゃいますし」
周りで露店を出していた商売人達が次々と店の片づけを終えて去っていく中、ようやくリアが立ちあがった。が、
「そうだな。それじゃあ先に片づけ始めててくれ。俺も後から手伝うから」
声をかけられても尚、この怠け男は立ち上がる素振りを見せることすらなく。
「ちょっと、何ナチュラルに片づけサボろうとしてるんですか。私に押し付けようとしてるのバレバレなんですけど」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと後から手伝うから」
「……分かりました。それじゃあミズキさんが片付ける分は残しておきますね」
「この薄情者め!」
「こんな見本のような逆ギレ初めてですよ!――ていうか、やっぱりサボる気満々だったんじゃないですか!」
なんとか後片付けから逃れる術はないかと必死の抵抗を見せる黒崎ミズキ。
「なぁ、リア。思うんだが、明日の場所取りも兼ねて逆に片づけをしないっていうのは――」
「そうですね。ミズキさんが全ての責任を背負ってくれるのならそれもいいですね。但し明日まで荷物が無事な可能性は限りなくゼロに近いですけど」
「あ! ヤバい! 急に持病の腰痛がっ……!! すまん、リア。悪いが――」
「……あの、逆に聞きますけど、このくだらない三文芝居に騙される人いると思います?」
が、当然そんな抵抗など何の意味もなかった。
「ストライキだ! 俺はストライキ権を行使する!!」
「ほら、くだらないこと言ってないでさっさとやりますよ! もう残ってるの私達だけですよ? 立ってください」
それでも尚、無駄で幼稚な抵抗を見せる目の前のダメ男を、リアは仕方なく立ち上がらせようと彼の腕を掴んで強引に引っ張った。が、
「うおっ! ちょっ!!」
「きゃっ!」
引っ張られたミズキはバランスを崩し、勢い余ってリアの可愛らしい胸元へ顔面ダイブ。本来であれば男ならこのラッキースケベとも呼ぶべき場面なのだが、
「「痛っ」」
悲しいかな……。リアの胸部には衝撃を吸収できるほどの脂肪はついておらず……。残念ながら結果として得られたものは顔面と肋骨の激突による痛みだけ。
「ちょっ! 女の子の胸に顔を埋めておいて、『痛い』ってどういうことですか!?」
「はぁ!? 何が女の子の胸だ! ただの脂肪分ゼロの肋骨じゃねぇか! 普通に痛ぇわ!!」
「なっ!?」
先程まで疲れ切っていたにも関わらず、そんなことなど忘れて醜く言い争う二人の男女の姿がそこにはあった。
「ったく、お前が女ぶるなんて10年早いわ! このミス・まな板め!」
「……ま、まな板?」
普段同様調子に乗って煽りまくるミズキ。
だが、彼は気付いていない。目の前の少女がただ言い返せなくなっているわけではいことに……。自分が彼女の地雷を思いっきり踏み抜いていることに……。
「そうだよ! お前には貧乳すらまだ早い! 無乳だ、無乳!!」
「……む、むにゅう?」
一方的にバカにされ続け、怒りで体をプルプルと震わすリア。
「……ミズキさん? 謝るなら今のうちですよ?」
「おいおい、事実を指摘されたからって怒んなって! 認めたくないのは分かるがお前がガキで無乳なのは隠しようもない事実なんだから。ちゃんと欠点も認めていかないと大人になれないぞ? かはははっ――ん?」
「……なるほど。そうですか。謝る気はなし、と」
「……あの、リアさん?」
ミズキがその殺気に気が付いた時には既に手遅れだった……。
「……ま、まぁまぁ。落ち着けって。ほら、リンゴ一個あげるか――」
「フンッ!」
「ごふぁっ!!」
顔面に豪快な右ストレートを食らったミズキは数メートル飛ばされて地面にたたきつけられた。
「安心してください。死なないように精一杯加減しましたから」
「……」
(……え? なに、今の? 俺の首取れてない!? ていうか、今ので精一杯加減したって……)
予想外の一発でぶっ飛ばされ、意識はあるものの自分では起き上がれず実質ノックアウトのミズキ。
「うっ」
(ていうかこの子、めっちゃ赤く光ってるんですけど!!)
しかし、目を赤く光らせた怒れる少女はそんなことなどお構いなく片手で軽々と胸倉を掴んで起き上がらせると、
「言っておきますけど、他の子達が大き過ぎるだけで、私は胸は普通です。そうですね?」
「……え? いや――」
「普通、ですよね?」
その笑顔には殺意の感情しか含まれていないことは誰の目にも明らかだった。
「……は、はい」
「それともう一つ。若く見られがちですが、私は今年で17歳。もう立派な大人の女性です」
「……え? いや、どう見ても12,3さ――」
「もう一発いっときますか?」
「いえ、どう見ても17歳の美少女です!」
「ふん、いいでしょう」
「ぐへっ!」
捕まれていた胸倉を放されたミズキはそのまま地面へと崩れ落ちた。
「今回はこのくらいで勘弁しておいてあげます。次、私のことを貧乳とかガキとか馬鹿にしたら……分かりますね?」
「い、以後気を付けさせていただきます!!」
そこに、先程までの減らず口を叩いて片付けをサボろうとしたり、自分より年下の小さな少女を容赦なくバカにしまくったりするクズ男の姿はなく。
「わかったのならいいです。ほら、早く片付けて撤収しますよ?」
「りょ、了解です!!」
ボロボロの体にムチ打ち、少女の鉄拳制裁に怯えながらテキパキと店の片づけを頑張る青年の姿がそこにはあった。
だがしかし、数分後。こんな二人の関係性もミズキの何気ない一言で再び再逆転することに……。
「あれ? そういやぁ、お前目の色、元に戻ってね? さっきまであんなに赤く光ってたのに」
「……え?」
その言葉を耳にしたリアはその場でフリーズ。恐る恐るミズキの方を振り返った彼女の顔は完全に青ざめていた。




