焼きリンゴって作るの簡単で美味しいよね!
一方その頃、店の方はというと……
「お嬢ちゃん、これ1個貰える?」
「はい! りんご1個で110バリスになります!!」
「どうも」
「ありがとうございました!――ふぅ……。なんとか落ち着いてきましたね……」
一時のピークは徐々に落ち着いてきて、今は数人の客がちらほら来るだけ。
なんとかピークを一人で乗り切り、ほっと一息つくリアだったが、
「作業量的には客足の勢いが落ち着いてきて良いんですが……、リンゴはまだ全然余ってるんですよね……」
ふと後ろに置いてあるリアカーを見ると、まだ売れていないりんごが3分の2くらい。
確かにこの世界では真新しい“試食販売”のお陰で良いスタートダッシュを切ることには成功し、普段の10倍くらいのペースで売れてはいるのだが、まだまだゴールは程遠い。
「というかミズキさんはどこに行ってるんですか! もう30分以上ですよ!? もう! 用意してくれた試食もなくなっちゃいましたし、このままじゃまずいですよ~!!」
頼みの綱の試食も底を尽き、ミズキも不在。まだ明日も残っているとはいえ、リアは危機感を感じずにはいられなかった。
「いや、でもミズキさんにばかり頼ってちゃいけませんよね! 元々これは私の問題なんですし、他人に頼る前にまずは自分にできることをやらないと!!」
が、そんなことを言っていても始まらないの分かっている。彼女はすぐに思い直し、パシッパシッと自分の頬を叩いて自らに喝を入れると、自分にできることはないかと周りを見渡してみた。すると、
「やはり、私がもう一度これをやるしかないみたいですね……」
その視線の先には空になってしまった試食用のリンゴが盛ってあった皿と果物用のナイフが1本。
「ゴクリ」
リアは唾を飲んで覚悟を決めると、人生二度目のリンゴの皮むき&カットに挑むためリアカーからリンゴを一個拝借し、果物ナイフを手に取った。
「お母さんも言っていました! 『一度や二度失敗したくらいで諦めるな。何度失敗したって諦めなければ大抵のことは上手くいくはずだ』って!!」
今度こそ! ――そんな想いを胸に、自身の母の言葉を口にしながら勢いよくナイフを振り上げた。
――そして、数分後。
「……それで? どうしてこうなったか、説明してくれるか?」
そこには頭を抱える男と、気まずそうな苦笑いを浮かべ、目を泳がせまくってモジモジしている少女が一人。加えて彼らの前にはおよそ5~6個と思われるリンゴの残骸が……。
「い、いやぁ……。も、元々私の問題なのに、ミズキさんばっかりに頼りっぱなしっていうのも悪いと思ったので、私も自分にできることを頑張ってみようと……」
「どう頑張ったら新鮮なリンゴがカラスの大群についばまれた後みたいな状態になるんだよ!!」
残骸……というよりむしろ生ごみにも見えるくらいにリンゴは無残な状態になっていた。
「ていうか、お前は重度の記憶障害でも持ってんの!? つい数時間前に全然ダメだったじゃん!」
「い、いやでも、私の母がよく『一度や二度失敗したくらいで諦めるな。何度失敗したって諦めなければ大抵のことは上手くいくはずだ』って言ってたのを思い出しまして……ははっ……」
「いやいや、何でよりによって今、その言葉思い出しちゃうんだよ!! 言っとくけどいくらお前が諦めない心持ってたって、リンゴは有限だからね!? 何度か失敗した段階で無くなるから!!」
「す、すみません……」
「まぁいい。何となくこうなるような気がしてたしな。幸い死人とか重症者とか出てたらさすがに焦ったが、まぁこのくらいのやらかし程度なら想定内だ」
「……いや、想定内で済んだことは良かったんですが、私、ミズキさんからの信頼度の低さが想定外過ぎて複雑な気持ちで一杯なんですけど」
ミスして怒られるのも嫌だが、それ以上のダメージを負ったリアだった。
「それより、今はとにかくこの大量のリンゴを少しでも売ることが先決だ。ほら、さっさと販売を再開させるぞ? せっかく俺が新しい試食作ってきてやったんだから」
「新しい、試食を作ってきた……?――って、もしかして、そこに置いてある入れ物のことですか? そういえばさっきから何か良い臭いがするような」
ミズキがさり気なく発した言葉に小首を傾げるリア。彼女の視線の先にはふたがされた状態の大きな弁当箱のような物が一つ。
「ああ、そうだ。今日の残りの時間はコイツで試食販売してガンガン売るぞ!!」
そう言って勢いよく蓋を開くと、
「こ、これは……焼きりんご!?」
香ばしい香りと共に姿を露わにしたのは食べやすいように一口サイズにカットされた“焼きりんご”。現代日本でも馴染み深いデザートだった。
「ど、どうしたんですか、これ!?」
ミズキの持ってきた意外な料理に目を白黒させるリア。
「ハッ、そんなの俺が作ったに決まってんだろ? さっき試食食わしてやった親子に頼んでキッチンと材料借りて作って来たんだよ」
“リンゴをいくつかタダで渡す”という条件でキッチンと焼きりんごを作るための材料を借りたミズキは元食品系メーカーの営業の実力をいかんなく発揮。レシピ無しで手際よく調理。お手軽で美味しい焼きりんごを完成させていた。
「まぁ、材料があんまり無かったし時間もなかったから、砂糖まぶしてバター塗ってフライパンで焼くだけの簡素なものにアレンジしちまったが、味は問題ない」
「本当です! 美味しい!!」
リアも絶賛のこの焼きりんご。調理時間はなんとたったの15分程度だというから驚きだ。
「ここから店を閉める時間まではこの焼きりんごを使って試食販売やれば、夕方のピークもあるし売上激増間違いなしだ!!」
この露店街では夜までずっと営業することは禁止されているため、今日閉店までに二人に残された時間はあと3時間強。決して強がりなどではなく、ミズキは自信満々に宣言してみせた。




