試食販売~第2フェイズ~
「さて、誰に頼むか……」
店を離れたミズキは露店街を早足でキョロキョロと見渡しながら条件に合う人物を捜索中。
(ぶっちゃけ調理場と基本的な材料を貸してくれる奴なら誰でもいいんだが、手早く片付けるためにもできれば顔見知りで俺に対してマイナスイメージを持っていない奴の方が望ましい。となると……)
「お! いたいた!――あの、すみません!!」
「――あら、あなたはさっきの……」
「あ! リンゴのお兄ちゃんだ!!」
目的の人物――一番最初に試食を配りリンゴを買ってもらった親子を見つけると、呼び止め二人の下へと駆け寄った。
(この異世界に来て接した中で、多分俺に好印象を持ってるのはリアを除けば試食を食わしてやった連中だけ。正直試食を食ってりんごを買ってくれた奴なら誰でも良いと思ってたんだが……、俺が思うに一番俺に好印象を抱いているであろうこの親子に当たるとは、やはり日頃の行いのおかげだな)
彼の日頃の行い云々は置いておいて、彼にとってこの親子を発見できたのは幸運に違いなかった。
これから“お願いごと”をしようとしている以上、当然自分に対して良いイメージを持っていれば持っている程“お願いごと”を聞きいれてくれる可能性も増してくる。
その観点から言えば、今一人懸命に店で奮闘中の少女以外でこの親子が最も理想的な相手であることは言うまでもなかろう。
「あの、どうかされたんですか?」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「いや、本来お客さんに対してこんなことを言うの間違っているとは思うのですが、店の諸事情で少しお願いしたいことがありまして……」
駆け寄ってきたミズキを見て、少し心配そうに問いかける親子。それを受け、敢えて可能な限り遠慮がちに、低姿勢で返すミズキ。
(大抵の人間は自分に良くしてくれた相手が困っていればついつい手を差し伸べたくなっちまう。特に感情を優先して行動する女や子供はな)
心配してくれている優しい親子を余所に心の中で下衆な下心を抱くと、
「いえいえ、そんな! さっきはこの子に親切にしていただきましたし、私にできることであれば何でも言ってください」
「お兄ちゃん、元気だして?」
(よし! 思った通りだ!!)
計算通り。まだ肝心の“お願いごと”の内容は言っていないが、返ってきたのは良い返事。
(頼みごと自体は大したもんじゃねぇし、ここまでこれば問題ねぇな)
「実は――」
内心OKの返事を確信しながらささやかなお願いごとを口にした。すると、
「ええ。そんなことでよければ構いませんよ」
やはり思った通りの答えが返ってきた。
「本当ですか! ありがとうございます!!」
(よし。あとはさっさと作るだけだ! 露店終了の時間までそんなに時間もねぇし、今の良い調子を切らないためにもここからは時間勝負だな)
「そんな、頭を上げてください! 困った時はお互い様ですから」
「良かったね、お兄ちゃん!」
「ありがとうございます!」
(正直作り方はうろ覚えだが、上手く作れなきゃ何の意味もねぇし、何回もやり直してる時間はねぇ! 肝心の作業の方もこの交渉みたいにすんなり上手くいくといいんだが……)
丁寧に礼儀正しく感謝しながらも、ミズキの頭の中は作戦の次の段階のことで一杯だった。