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人間誰でも向き不向きってあるよね……

「試食、販売、ですか?」

 聞き覚えのない単語にリアは小首をかしげる。

「ああ。まぁ、簡単に言うと、実際にその場で商品を食べてもらって購入を促す販売方法だ」

 試食販売――ミズキの元いた世界、現代日本ではスーパーマーケットや百貨店等でよく目にするこの販売促進方法。

 元一流営業マンは大量のリンゴを売るための最初の一手にこの方法を選択した。

(本当はチラシ配布とかもやりたいところではあるが、何せ今回は時間がないからな。他にも策はいくつか用意してるが、まずは一番お手軽でリスクのないこの方法がベストだろ)

「試食を無料で提供することで客の注目を集め、実際に食べてもらうことで客の購買意欲を高める狙いだ。俺が元いたところでも確実に一定の効果が見込める手段としてよく使われてたもんだ」

「こ、細かいことはよく分かりませんが、何となくやり方は分かりました。ただ......」

 理屈はイマイチだが、お客さんにリンゴを無料で提供して販売数を増やすというやり方自体は理解できたらしいリアだったが、気になる点が一つだけ。

「その無料で提供するリンゴっていうのはどこから出すんですか? さすがにここにある売り物からってわけではないですよね? 言っておきますけど、私自腹で買い取れるお金なんてないですよ?」

 リアが心配しているのは試食の費用。普通試食販売を行う場合は売り物分とは別に試食用を準備するのだが、そんな余剰分を用意しているはずはなく、ノルマを達成しても取り分のないリアにとっては必要分を買い取ることも不可能。もしやるのであれば確実にノルマを達成した上で、ミズキの取り分から引くしかないのではないか――という指摘である。

 だが、

「ああ。それなら心配要らねぇよ」

そんなことはミズキも重々承知。

「その分加味して売価設定するから」

「え? どういうことですか?」

 あっけらかんと言い切った。

「ほら、さっきリンゴの値段は一個110バリスにしようって決めたろ? その価格とあのオッサンから許可されてる下限売価100バリスの差額を利用するんだよ」

 今回ミズキ達が設定した売価は相場通りの一個110バリスで、今回許可されている下限価格は一個100バリス。ミズキはこの差額10バリス分を試食等の経費に充てる算段を立てていた。しかし、

「え、えーっと……つまり……」

 決してバカではないが、それほど頭の良いわけでもないリアがこのミズキのザックリした説明を一回聞いただけで理解できるはずはなく。

 かといって懇切丁寧に説明している時間的余裕もない。

「まぁそこら辺は俺がちゃんと考えてるから心配ねぇよ。とりあえずお前は細かいことは気にせず、一つでも多くりんごを売ることだけ考えててくれ」

「はぁ……。まぁ、分かりましたけど」

ミズキはリアへの細かい説明を省略。彼女が 未だ煮え切らない表情をしているのをスルーして、半ば強引に作戦の実行に取りかかった。

「それより、お前には今から急ぎでやってもらいたいことがある」

 そう言って、コトンと台の上に置いたのは事前に用意していた果物ナイフと売り物用の山から取り出したりんご。

「……え?」

 費用の部分など、細かいところは理解しきっていないが、作戦の大枠は理解しているリア。目の前に用意された道具を見て、ミズキが次に何を言おうとしているのかを察した彼女の表情は一瞬で引きつった。

「悪いがりんごの皮剥いて試食用に一口サイズに切ってくれるか? そうだなぁ。とりあえず100人分くらい……って、どうした?」

「い、いえ、別になんでもないですよ?」

「いや、誤魔化すの下手くそか。めちゃくちゃ目泳ぎまくってるから。浮気の証拠突きつけれた男並に泳ぎまくってるから」

 誰が見ても彼女が動揺しているのは明白だった。

「え? もしかしてお前、皮剥きできないーー」

「で、できゅりにきみゃってるじゃにゃいですか!」

「マジかよ。俺、ここまであからさまな嘘吐かれたの生まれて初めてなんだけど」

「ぐっ」

「……まぁ、いい。これは俺が――」

 思わず頭を抱えて大きな溜め息をこぼすミズキ。

「あ!今憐れみの目を向けましたね!?『女のくせに果物も切れないとか最早笑えるレベル越えてるぜ……』とか思いましたね!?」

 対してリアは、ミズキのそんな態度にムッとし、

「いや、別にそこまでは……」

「そんな風に思われたら私も引き下がる訳にはいきません! 見ててくださいよ!?」

「……」

 やけくそで乱暴にりんごを掴んでまな板の上に乗せると、勢いよくナイフを振り上げた。が、

「!!」

 数秒経ってもその手が振り下ろされることはなかった。

 少女の手を掴みながら目を閉じ、諭すように無言で首を横にふるミズキ。

「やめとけ。残念ながら結果はもう見えてる」

「いや、でもまだーー」

「残念ながら100人中120人がお前の失敗を確信するレベルだ」

「100人中20人、2回確信してる人いますけど!?」

「全体の2割が一度の確信だけでは不安になり、ついつい再確認・再確信を試みてしまう程ヤバいって意味だからな?」

「……す、すみません。りんごの皮剥き、お願いします」

「仕方ない。ここはここは俺がやっといてやるから、その間お前はいつも通りのやり方で一個でも多く販売してくれ」

「すみません……」

ため息混じりに思わず頭を抱えるミズキを前に、リアは申し訳なさそうに小さくなるしかなかった。

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