巻き込まれ、そして結局……
(お、おいおい、なんだ!? いきなり美少女が吹っ飛んできたぞ!? まさかここに来てヒロイン登場の展開か!?)
現在、ミズキの目の前には何か問題を抱えた美少女が一人……。
彼にとっては異世界転移でおなじみのヒロインとの出会いという重大イベントである。
だがしかし、そんな彼女が目の前に吹っ飛ばされてきたのを目の当たりにした彼は、突然の出来事に驚きつつもしっかり冷静さを維持していた。
(小学生くらいのガキだろうが確かに美少女は美少女。だが、残念ながら俺はロリコンではない! しかもどう見ても金持ちのお嬢様とかではなさそうだしメリットもなさそうだ)
この状況でしっかり損得勘定を働かせるミズキ。『そんなこと考えてるから主人公っぽい能力とかステータスに恵まれねぇんだよ!』という声がどこからともなく聞こえてきそうであるが……。
(まぁ助けてやりたい気持ちもなくはないが……、俺の第六巻が言っている。これに関わるとロクなことにならなさそうだ、と。それに冒険者ギルド御公認の貧弱男がこんなところで出張っても力及ばずだってことは明白。うん。あの少女には悪いがここは巻き込まれる前に立ち去るとしよう)
しかし、今は他人のことより自分のこと。ミズキは自らが導き出した選択肢に大きく頷くと、少女を横目にそっとその場を立ち去ろうと腰を持ち上げた。
「さらばだ、少女よ」
と、そこへ、
「おい! クソガキ! 何手ぶらで出ようとしてんだ!!」
先程少女が吹き飛ばされてきた建物から顔に大きな傷をつけた、強面でガタイの良い男が登場。
「す、すみません」
怒鳴りつける男に少女は俯き唇を噛みながら小さく謝罪の言葉を口にする。
一方男の方は、そんな少女の方へとズカズカ近づいていき、
「謝罪なんていらねぇんだよ! そんなもんより、さっさとあの大量のリンゴ売って来いっつってんだよ!! あぁ!?」
「痛っ!」
少女の髪を乱暴につかみながら怒鳴りつけ、建物の脇においてある山盛りのリンゴを積んだリアカーを指さした。
「すみません、でも……」
「“でも”じゃねぇんだよ! お前が『あの大量のリンゴをすぐに全部売るから今月分の借金返済を免除してくれ』って言ってきたんだろうが!! あぁ!? それをこんなに余らしやがって、どうしてくれんだ!? このままじゃ大赤字だろうが!!」
さらにエキサイトする男にやられるがままの少女。
「なんだ、テメェら!! 見せモンじゃねぇぞ!!」
「あ、早く夕飯の買い物行かないと!」
「やばいやばい。店番に戻らないと」
そんな男の怒声に、先程まで騒ぎを聞きつけ集まって少女を見ていた人々は素早く目を反らしてその場を立ち去って行く。
(あの少女には悪いが俺もこの流れに乗らせてもらおう。まぁ、話を聞く限りおっさんが滅茶苦茶言ってるわけじゃなさそうだし? ていうか部外者で弱者な俺が立ち入る隙なんてなさそうだし?――とりあえずここは当事者同士の問題ってことで!)
そして、あまりの迫力にビビって立ち去るタイミングを逸していたミズキも改めてそっとその場を立ち去ろうと動き出した。
が、しかし……
「まぁ、俺も鬼じゃねぇ。お前に最後のチャンスをやる。そうだなぁ。――おい、そこの変な格好したお前!」
「!!」
男の声に肩をビクつかせるミズキ。
(い、いやいや、俺じゃない俺じゃない。俺のはずがない! 別に俺はスーツ着てるだけだし? 別に変な格好じゃないし? ……あの、だからみんな俺の方見るのやめてくれない……?)
男の方に背を向けたまま固まりながら、心の中で必死に自分ではないと主張する。しかし、そんな抵抗もすぐに無駄に終わった。
「おい、お前だよ! 聞こえてんだろ? おい!!」
「うお!?」
背後から男に肩を掴まれ万事休す。恐る恐る振り返ると、
「も、もしかして僕のことですか……?」
そこには自分の10倍以上ガタイの良いイカツイ男が立っていた。
(いやいやいや! これ絶対に俺が巻き込まれるべきイベントじゃないって!! それこそチート能力持ちとか勇者とかそういう感じのヤツが出てくる場面でしょ!? 冒険者ギルド公認の弱者オブ弱者なんてお呼びじゃないって!!)
「だからそう言ってんだろ。お前の他にそんな変な格好してる奴いるわけねぇだろうが!」
「で、ですよねぇ……」
強面の男に引きつった笑顔を見せるミズキ。ふと、少女の方を見やると、申し訳なさそうに俯いていた。
しかし、強面男はそんなことなどお構いなく、
「おい、クソガキ、この兄ちゃんと二人であの在庫全部売って来い! 期限は今から丸一日だ。明日の昼1時までに売り切って報告しに来い!」
「そ、そんな! 1日でなんて――」
「うるせぇ! 売れ残ったらお前が全部買い取り。お前の借金に上乗せしとくからな!! いいな!?」
「わ、分かりました……。でも、その人は別に関係なくて――」
「そうですよ! 別に僕じゃなくても――」
「あ? ならお前一人で全部売れるって言うのか?」
「すみません、それは……。でも……」
「ほら、そういうことなら僕じゃなくても――」
無関係であるミズキを巻き込むまいと、意を決して抗議する少女。
そして、そんな少女の気遣い等お構いなく。さり気なく少女便乗して自分だけでも助かろうと抗うミスターろくでなし・黒崎ミズキ。だが……、
「やっぱり私、無関係の人を巻き込みたくありません」
「そうですね。僕も無関係の人を巻き込んでほしくありま――」
「ゴチャゴチャウルセェんだよ!!」
「!!」
「ひっ!」
「この俺がやれって言ってんだろうが!! あぁ!?」
「「わ、分かりました!!」」
残念ながらそんな抵抗が効果をなすことはなかった。
(あ~終わった。こりゃあ巻き込まれるのは確定っぽいな……。しゃあない。せめてここで当分の生活費を稼がせてもらうとするか)
「あ、あの~」
そして、そんな状況を受け、ミズキも本意ではないが方針転換。抵抗を諦め生活費確保に目的をシフトし、心の中で“営業モード”のスイッチを入れた。
「あ? なんだ?」
「ご協力したいのは山々なんですけど……、実は僕も今一文無しで、生活費を稼ぐために仕事を探さないといけないので、今日はちょっと……」
苦笑いを作り、申し訳なさそうに軽く頭を下げるミズキ。
「ハッ! なんだ、お前も文無しかよ! まぁ、元々タダで協力してもらおうなんて思ってなかったしな。――心配すんな。売上の3割はお前にやる。それでいいだろ?」
「だ、ダメです!」
「うるせぇ! お前は黙ってろ!! 借金増やされてぇのか!!」
「す、すみません……」
ニタニタと怪しげな笑みを浮かべながら男が提示した条件を聞き、少女が必死に止めようとするが、一喝されて押し黙る。
(ったく、このオッサン完全に無理だと思って吹っかけてやがるな)
「あの、できれば売上の5割まで、なんとかなりませんか?」
男からの提示に対し、ミズキはとりあえず低姿勢で交渉。
「チッ、まぁいいだろう。その代わり1個でも売れ残ったらどんな手段使ってでも売れ残った分の代金払ってもらうからな!」
「それじゃあ交渉成立ってことで」
対する男の方は元々売れ残った時のペナルティ目的ということもあり、報酬の増額にはあっさり同意。
「言っとくが、安売りはするなよ。価格は100バルスまでだ。最後にその価格分徴収するからな」
「了解です」
「言っとくが逃げようったってそうはいかねぇぞ? こちとら脱走者の捕獲には慣れっこなんだ。どこへ逃げようが確実に探し出してやるぜ。もちろんその場合、命の保証はできねぇがな!」
「ちょっ――」
「わかりました。ただ、後で言った言ってないで揉めるのも嫌なんで、一応契約書だけ書かせてもらってもいいですか?」
「あ? フッ、まぁ、好きにしろや」
少女が止めようとするのも無視してミズキは提示された条件を了承。
そんなミズキを男は心の中で嘲笑っていた。
(フン、あんな大量のリンゴ、投げ売りでもしなけりゃそもそも売り切れるわけねぇだろうが。ましてや1日なんかで売れるかってんだ。ざっと500個くらいは残ってるんだぞ? そこのクソガキといい、世の中バカばっかりだな。売れ残った時のペナルティでコイツも借金奴隷にして売り捌いてやるぜ!!)
「それじゃあ、せいぜい二人で頑張れよ」
そして、それだけ言い残すと、男は心の中の笑いを表情に出さないように気を付けながら、意気揚々と建物内へと戻っていった。
「やっと行ったか、あのおっさん。殴られなかったのは良かったが、それにしても面倒くせぇことになったな。ていうか、これ、元いた世界でやってた営業の仕事と大差なくね?」
一方、殴られなかったことに安堵しながら男の背中を見送るミズキ。
「でも、まぁ、これで1週間くらいは遊んで暮らせそうだし、しゃあねぇか」
その表情は割と余裕に満ちていた。だがしかし、
「ごめんなさい……。私のせいで、あなたまで……」
少女は自分のせいで彼を巻き込んでしまったと、目に涙を浮かべながら申し訳なさそうに頭を下げる。
こんな場面。恐らく、彼がよく例に出す漫画やアニメ、ラノベなんかの主人公たちなら、『気にするなよ』とか『君のせいじゃないさ』とか優しくカッコイイセリフを言うのだろう。だが……
「全く、ホント面倒臭そうなことに巻き込んでくれたよ…。まぁ、いくら謝られても巻き込まれたことには変わらんけど。」
そこは黒崎ミズキ。彼に優しさなんかを期待してはいけなかった。厭味ったらしく少女に対して容赦なく皮肉るろくでなし男がそこにいた。
例え相手が泣き出しそうな小さな女の子であろうとも、言いたいことは徹底的に言い、やられたらやり返すことを貫き生きてきたこの彼の言動は……誰がどう見ても大人気ないことこの上なかった。
「ご、ごめんなさい! わ、私にできることであれば何でもします!! だから――」
ただでさえ罪悪感に駆られているのに、ミズキに追い打ちをかけられ、さらに引け目を感じて小さくなる少女。
だが、ミズキとてろくでなしではあるが鬼畜ではない。そんな少女の様子を見て……ミズキはフッと噴き出した。
「まぁ、巻き込まれた腹いせはこれくらいにしておいてやるよ」
「え? ど、どういう――」
ミズキの言葉に顔を上げ、混乱する少女。ミズキはそんな少女の頭をポンと叩くと、
「まずは詳しい話を聞かせてくれ。――ここじゃなんだし、とりあえず場所移すか」
悪戯っぽく、自信あり気に笑いかける。そんな彼を茫然と見つめる少女。
「ほら、何ボーっとしてんだよ。さっさと行くぞ?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
そして、先に歩きだすミズキの後を、彼女は慌てて追いかけ、そんな彼女を見てミズキは心の中で苦笑した。
(まさか、異世界に来てまで営業活動することになるとはな……)
営業マン・黒崎ミズキ――異世界に行ってもその肩書は変わらなかった。




