そして、青年と少女は出会った
その後、冒険者ギルドにて異世界の厳しい洗礼を受けた黒崎ミズキはというと、
「元の世界に帰りたい元の世界に帰りたい元の世界に帰りたい元の世界に帰りたい元の世界に帰りたい元の世界に帰りたい……」
手近にあった建物前の階段に座り込み、呪文でも唱えるが如く『元の世界に帰りたい』という言葉を呟き続けていた。
ちなみに、別に精神が崩壊して頭がおかしくなってしまったわけではない。
高値で売れそうなスマホは既になく、冒険者としてはこれでもかというほど失格のレッテルを張られ、最早当初の目的である“楽して大金を稼いで働かずにのんびり暮らす”というプランは瓦解。この異世界で生きていくためには地道に働くしかない状況。
そんな状況でミズキが出した結論は、“どうせ働かなきゃいけないなら、元の世界の方が数倍マシ! こんなところさっさとおさらばしよう!!”というものだった。
(どっちみち働かなきゃならないんなら、こんなテレビもゲームも漫画もねぇところより元の世界の方がはるかにマシだっつーの! 多分この世界にやってきた時も『別の世界にでも生まれ変わりてぇ』って呟いたのがきっかけだった。なら、帰る時はその逆をやればいいはずだ!)
そんな希望を胸に先程から一心不乱に同じ言葉を唱え続けているだけなのだが、
「ねぇねぇママー。さっきの変な恰好の人、何か一人でお喋りしてるよ?」
「ダメよ、ネネ。あの人に近づいたり、目を合わせたら魂を吸い取られちゃうわよ」
「えぇ!? 本当?」
「ねぇねぇ、あの人何かヤバいクスリでもやってるんじゃない?」
「ホントだ~。ちょっと、早く離れた方がよくない?」
「これ憲兵呼んだ方がいいんじゃない?」
再び街行く人々から白い目を向けられていた。
「元の世界に帰りたい元の世界に帰りたい――」
しかし、そんなこと気にもならないくらいに『帰りたい』という欲求が強かったのか。瞑目し呪文を唱え続けるミズキ。だが……
「元の世界に帰りたい元の世界に帰りたい――って早くしろや、神様コラァ!!」
「うわっ!」
「きゃっ!? 何!?」
「ちょっ! 早く行こっ!!」
無常にも何度同じ言葉を繰り返そうが元の世界には戻れず……。
突然の大声にビックリした周りの人々が怯えるように慌てて散っていく中、
「チッ! まぁでも、いつまでもこんなところでグダグダしてるわけにもいかねぇし……、元の世界に帰れねぇ以上、せめて今日の飯と寝床だけでもなんとかしねぇと」
この世界へと導いた顔も名前も知らない存在に恨みがましく舌打ちしつつも冷静に今後の事を考え出した。
「とにかく今持ってる金が使えねぇ以上、俺は無一文。飯食うにも宿を探すにも最低限の金を入手しなきゃいけねぇんだが……」
彼の手元にあるは千円札や1万円札、それからいくらかの小銭……勿論全て元いた世界の通貨ばかりでこの世界では使えない。紙幣についてはゴミ同然。小銭についても本物の金貨や銀貨が使用されているこの異世界ではただのガラクタコインに過ぎない。
勿論、彼のような無一文がその日暮らしのための金を得る方法はいくつかある。だがしかし、
「日雇いの仕事ってほとんど土木関係の力仕事系しかないんだよな……。俺、肉体労働とかマジで無理なんだよね」
はたしてこの男に危機感というものはあるのだろうか? この状況下においてもヤル気もなく、仕事の選り好みをしているようなダメ人間が金を得られる程世の中甘くなく。
「あ~面倒くせ……。誰か俺を養ってくれる金持ちの美少女とか出てこねぇかな……」
黒崎ミズキはそんなだらしないヒモ男発言を呟きながらため息をこぼしていた。と、その時、
ガタンッ!!
「舐めてんじゃねぇぞ!クソガキが!!」
「キャ!!」
「うおっ!?」
ミズキの座り込んでいた建物の入り口が勢いよく開け放たれ、中から少女が吹き飛んできた。
「うっ」
恐らく中にいる人物に蹴り飛ばされたのであろう。少女はミズキの目の前で腹を押さえ、苦悶の表情を浮かべながらなんとか起き上がった。
見た目年齢は12、3歳といったところだろうか。透き通るような長めの銀髪に白い肌。ツリ気味の大きな瞳に小柄ではあるがスラッとした体型……。少し胸元が寂しく感じられるものの、痛みに表情を歪めていても、その美少女さは際立っていた。
「おいおい、なんだなんだ!?」
「ちょっと、どうしたの? 凄い音だったわよ?」
大きな物音を聞いてゾロゾロと集まってくる街の人々。
その中心には飛んできた少女と……、たまたま少女の落下地点に居合わせただけの青年がいた。




