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現実って厳しいんですね……

「すみません、お姉さん。冒険者登録したいんですけど、いいですか?」

 何故か自信満々にキメ顔で受付嬢に話しかける現状無職。

「はい、冒険者登録ですね? かしこまりました。少々お待ちください」

 そんな男を前に若干引きつった笑顔で応対した受付嬢は手続きに必要な物を取りに一旦カウンターの奥へと下がっていった。

(軽くウエーブのかかった茶髪ロング。見た目は綺麗で美人なんだが、歳は俺より少し上くらいか? 正直年上ってのとあの髪型はあんまりタイプじゃないんだが……。まぁでも、こう見るとお姉さん系の巨乳美人ってのも割とストライクだな。よし、まぁ合格だな! 俺のヒロイン候補の一人に入れておいてやろう!!)

 しかしこの男。彼女の反応など意にも介さず上から目線で品定め。恐らくこの心の声を女性が聞いたら凄まじい程の敵意を向けられていたことだろう。完全に調子に乗りまくっている模様である。

「すみません、お待たせしました」

 一方、立候補もしていないのに勝手にヒロイン候補にされてしまったことなど知る由もなく戻ってきたお姉さん。

「いえいえお構いなく。――って、それは?」

 彼女が持ってきたのは数枚の書類と一般的な人間の顔程の大きさの水晶玉。ミズキはこの水晶玉が気になり、それを指差し問いかけた。すると、

「はい、こちらは“ステータス計”といって、この水晶に手をかざすとその人の体力や筋力、素早さ、知力といった基礎能力をはじめ、魔力、魔法耐性、それから固有スキルといった冒険者に必要なステータスを測定してくれる優れものなんですよ」

 きっとこの質問も何回も受けているのだろう。笑顔で慣れた様子で受け答えする彼女。

「ほぉ。つまりこの水晶玉を使えば俺の隠れた力まで丸わかりってことですか」

「はい! このステータス計で測定できなかったスキルは今まで報告されておりません」

(なるほど。これで遂に俺のチート能力も明らかになるってわけか)

「あと、うちは皆さんの安全のため、冒険者の方々にはそれぞれのステータスに合った依頼しか受けられないようになってますので、ご了承くださいね」

「ああ、了解」

 と、そんなやり取りをしていると、

「お、新人か?」

「おいおい、こんなヒョロイ体格の奴じゃステータスもたかが知れてるだろ」

「だよな? ていうかコイツの魔力って……」

「かははっ! まぁいいじゃねぇか! 雑用みたいな依頼引き受ける奴だって必要なんだしよ!」

「でももしかしたら凄い固有スキル隠し持ってるってこともあるかもよ?」

「えー? あるかな?」

 いつの間に集まってきていたのだろうか。気づけばミズキの後ろには先程まで店内のあちらこちらに散らばっていた冒険者達が。

(最初は見くびっていた野次馬共が俺のチートスキルや驚愕のステータスに騒ぎ出す――まったく、どこまでもテンプレに忠実な展開だな。まぁ、チヤホヤされたりもてはやされたりするのは嫌いじゃないがな!)

 上機嫌にフッと軽い笑みをこぼすミズキ。

「あの、ちなみに他の冒険者の方達に知られたくない場合は言ってくださいね? 後日コッソリお教えすることもできますから……」

「いや、問題ない!」

「そ、そうですか」

 そんな周りの状況を受け、受付のお姉さんが配慮しようとするも無駄に。まるで聞かずに自信満々に言い切った。

「それでは、測定を開始しますので、この水晶の上に手をかざしてみてください」

「ん? こうか?」

 言われた通りにミズキが手をかざすと、水晶玉は淡く光を放ち出した。

「「「おぉぉぉ!!」」」

 そして、その光は徐々に強めていき……

「はい、測定終了です。もう大丈夫ですよ」

 1~2分くらい経った頃だろうか。再び光は徐々に弱まっていき、しばらくするとふっと消えた。

「なんか光が消えるのちょっと遅くなかったか?」

「はっ! どうせステータスが低すぎてなかなか測定できなかっただけだろ?」

「いや、でも見ろよ。アイツの自信満々な顔!」

「ああ。とても低ステータスの奴の顔じゃねぇ。いかにも『今のうちにバカにしとけ』って面だぜ、あれ」

「だよな。コッソリ測定するって選択肢もあったのに、わざわざ俺達の前で発表までするんだ。相当自信あるんだろ」

「いやいや、だからアイツの魔力は――」

「そういえば俺聞いたことあるんだが、ステータスがあまりにも高かったり、見たことのない固有スキル持ってたりすると測定に時間かかるらしいぜ?」

「そうそう! 噂によると今この世界で最強って言われてる首都の冒険者は測定に10分くらいかかったらしいぞ」

「何言ってんだよ。そんなの所詮は噂だろ? あんな見るからに雑魚そうな奴がこの俺より優秀なはずねぇだろ」

 受付嬢が測定結果が出てくるのを待つ中、周りのギャラリー達はああでもない、こうでもないと大盛り上がり。高まる期待。

(モブキャラ達の盛り上げも上々。あとは俺の華麗なるステータスが発表されて歓声を浴びるのを待つだけだな。あぁ、できれば修行とか特訓とか無しで簡単に使えて超強力な能力出ないかなぁ。あ、あと直接殴ったり蹴ったり剣で切ったりするのは怖いから、できれば遠距離系のヤツがいいな!! ――神様、お願いします!!)

 そんな中、この男はやはり既に勝ち誇ったような表情。都合の良すぎる願望を抱き、今まで一切信じてこなかった神頼み。

「あれ…? これ、本当にあってる、よね? ……うん、合ってる合ってる」

 そして、

「そ、それでは、測定結果発表しますね?」

「ああ。よろしく頼む」

 ミズキ、そして周囲のギャラリー達が固唾をのんで見守る中、遂に受付嬢の口から測定結果が発表された……。


「体力2、筋力2、回避能力2、スピード2、知力8……そして、魔力は0、勿論魔力耐性も0です……」


「……え?」

 受付嬢の口から発せられたあまりの低ステータスのオンパレードにシーンと静まりかえるギルド内。

 一方、測定した本人はというと、

「ちなみに、数値の上限は10になっています……」

「……いや、え!?」

「体力や筋力、スピードが絶望的になっているので剣士や戦士といった前衛は適正がなく、知力は高いんですが、残念ながら魔力が全く無いので、魔法は一切使えませんし、魔力耐性も著しく低いので魔法使いなんかの後衛にも向いていません……。知力がかなり高いので、私のおすすめとしては商人なんかがいいと思うのですけど……」

「いやいや! 冒険者は!?」

「残念ながら各項目の伸び代もほとんどなく、厳しいかと……」

 まさかの展開に焦って詰め寄り、受付のお姉さんを困らせまくっていた。

(いやいやいや! さすがにこれは無いでしょ!! 何なの、この雑魚キャラテンプレみたいなステータスは!? 俺の主人公的な展開は!? いろいろフラグ立ってたじゃん! まさかの伏線全無視!?)

「い、一応言っておきますと、知力だけは凄く高くて、多分知力だけならこの街のギルドでも屈指だと思いますよ!!」

「知力、“だけ”……」

 必死にフォローしようとする受付嬢だったが、今のミズキにとって知力“だけ”という言葉は効果抜群。心に大ダメージを負った彼のHPは既に風前の灯状態となっていた。だが、

「!!」

 ここでミズキはとあることを思いだした。

(いや、待てよ!? 固有スキルはどうなんだ?)

「お姉さん、まだ固有スキルがあるんじゃねぇのか!? ほら! 魔力が無くても“魔力を打ち消すスキル”とかさ!!」

 一縷の希望を胸に受付カウンターに身を乗り出して問いかけた。

「いえ、それが私も同じことを思ってさっき一応確認してはみたんですが……」

 だが……

「残念ながら固有スキルの方も何もありませんでした」

「ま、マジで……?」

「はい、マジです」

 返ってきた答えはやはりノー。

「現状見つかっていない固有スキルがあるにしても、何らかの反応は出るはずなんですが……」

「この世界に神はいなかった……」

「いえ、ちゃんといますよ? 神様!」

 黒崎ミズキのHPは遂に0になった。

 そして、そんな茫然と立ち尽くす男の姿に、

「ほ、ほら! 早くクエストに行きましょう!!」

「そ、そうだな! 早くしないと日が暮れちまうぜ!!」

「な、なぁ、次どの依頼受けよっか?」

「お、俺ビールのおかわり注文しよーっと!」

「兄ちゃん……。だから俺達が止めようとしたのに……」

 集まった野次馬達は先程まで調子に乗りまくっていた男の急転直下の転落劇にいたたまれなくなり、最早バカにするような空気にもならず、皆そそくさとその場を離れて行った。

「あ、だ、大丈夫ですよ! ステータスが低くても冒険者になることはできますから!――ほら、こんな依頼なんてどうですか!?」

 なんとか目の前でブルーなオーラ全開で落胆している男を励まそうと受付嬢が差し出した依頼書には――“迷子の飼い犬を探してください。大型犬で毛並は茶色。鋭い目つきが特徴です。見つけてくださった方には1000バリス。詳しくはお問い合わせください”――と書かれていた。

「ほ、他にも“明日の昼間。子供二人の面倒をお願いします。上の子が5歳、下の子が2歳です。食事支給あり。報酬2000バリス”とか、“お気に入りの服が破れてしまったのでどなたか直してください。補修するための布や道具はこちらで準備します。報酬は800バリス”とか、低ステータスでもできる依頼はたくさんありますから!!」

 余談ではあるが、この世界での通貨価値は1バリス=1円程度となっている。つまり迷子の犬を見つけて1000円。一日子供の面倒を見て2000円といった感じ。

 だが、黒崎ミズキが冒険者になろうと思ったのは、あくまでチート能力等を使って楽して稼げるから。当然かつて居た現代日本における小学生のお小遣い程度の報酬を得たいからではない。故に、

「いえ、大丈夫です」

「そ、そうですか……」

 受付のお姉さんの厚意もこの働きたくない欲の強い男には無意味。

「それでは……。お騒がせしました……」

「あ、はい……。お、お気をつけて……」

 そして、受付のお姉さんの奮闘虚しく、黒崎ミズキは失意のまま冒険者ギルドを去って行った。




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