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LAST


 その日、愛美は目を覚ました。

 夢かと思ったが、生きているなら現実だ。

 むしろ夢は見ていた。昔、姉と出会った頃。そのときの自分は姉が怖かった。なにも考えてないような無機質な瞳。お父さんがいなくなって、本当に一人になったと思った。姉である、その人は、とても家族とは思えず、そう呼んだことはない。

 でも、生きるためには、その人に頼らないといけなかった。

 けど、ある日、自分が癇癪を起した。そうしたら、その人も怒って、色々と考えいて、悩んでいて、寂しい人なんだって思った。だから、自分は謝り、それからはできるだけ迷惑をかけないようにした。

 自分が寝ていると、誰かが撫でているのが解った。それが、その人と知ったとき、すごく安心した。何気ない行動だったかもしれないが、自分には堪らなく嬉しかった。

 姉は魔法の力持っていた。最初は黙っていろと言われたり、不思議で怖かったが、いまでは姉の光がなによりも気持ち良くて、元気になれる薬になった。

 ああ、私はこの人が大好きになった。

 でも、お姉ちゃんとは呼ばなかった。私はそんなに長くない。もし呼んでしまって、姉が自分の事を好きになっていたら、自分が死んだ時、泣いてしまうと思うのが辛かった。

 それならば、最初のような関係になればいいと思ったけど、それは寂しいから、いまのように、私がいなくなるまでこの関係を続けようと思った。


「夕代、起きた?」


 そこでようやく愛美は病室にヒメキがいるのに気づいた。

 彼女にとって、ヒメキは姉の次に特別な存在だった。

 姉が病院を辞めたので、今まで以上に会う時間もなく、プリントも届けるのは全然あったこともないクラスメート。その中で、奏日ヒメキという存在は見るだけで何故か疎ましかった。

 でも、結局、会っているうちに、その人となりを知って、いまでは嫌いじゃくなった。友達といってもいい。なんだか姉と似た様な感じだと愛美はどこか可笑しかった。

 しかし、奇妙に思う。この時間は普通学校の時間だと思う。


「奏日君。学校は?」

「休んだ。まぁ、こんな時間だから、休まなくても一緒のような気がする」

 

 ヒメキのその言葉で愛美は時間が夕方になっているのに気づいた。


「こんな時間なんだ……」


 おそらく、かなり疲れていたのだろう。昨日姉がくるまで、自分は本当に駄目なのだと命を覚悟した。ヒメキたちが帰った後も、また苦しくなったので寂しかった。ナースコールにも手が届かなかった。怖かった。

 しかし、眠りにつくと、姉との夢で、目を覚ますと友達が眼前にいたので、そんな不安な気持ちはどこかへ消えていった。


「調子はどう?」


 ヒメキに尋ねられて、愛美は自分がいままでにないくらい絶好調なほど気分がいいと思う。夕方まで寝ていたからか、自分が寝ている内に姉が魔法をしてくれたのだろうかと考えた。


「大丈夫だよ。ところで、奏日君はなにかよう?」

「ああ」


 そうやってヒメキは深呼吸をした後、口を開いた。


「お姉さんのことなんだけど――」

「?」


 愛美は首を傾げた。彼に自分には姉がいたことを話しただろうか?


「君のお姉さん、死んだ」

「え――」


 なにを言っているのだろう? すぐには理解できなかった。


「君を助けるために、死んだ」

「――――」

「俺は止めることができたのに、見殺しにしてしまった」

「――――」

「俺のせいだ」

「――駄目だよ」


 自責の念を綴るヒメキに対して、愛美がこぼれ出したのはそんな言葉だった。


「夕代」

「私ね、お姉ちゃんが普通じゃないとの知っていたし、最近様子が可笑しこと知ってたんだ」

「…………」

「知っていたのに、なにもしなかった。できなかった。これ以上、お姉ちゃんとの距離がなくなるかもしれなくと思うと、怖くてね」

「…………」

「本当なんだよね、私のために、お姉ちゃんが頑張って死んだのは」

「死んだのはそうだ。けど、だからってお前のせいじゃあ――」

「うん。私のせいじゃないようにするために奏日君は自分を悪者にしようとしたんだよね」

「!?」


 図星だった。

 だって、そうしなければ彼女はなにを支えに生きていければいいのか、ヒメキは解らなかったからだ。

 だから、自分を恨めば、憎しみでも糧にしてくれれば、それでもいいと考え、見透かされてしまった。


「だから、駄目だよ。自分のせいにしたら」

「夕代――」

「私も自分のせいにしないから、そんなのお姉ちゃんが喜ばないから」

「夕代っ!」

「だからね、ありがとう。教えてくれて、私は大丈夫だよ」


 眩しい彼女はそう言った。


 ◇


「クリスタルに閉じ込められたのは人間たちは衰弱してるももの、全員無事。重傷を負っていた人間も同等にクリスタルに閉じ込められたようだな。全員この病院で二、三日入院すればみな退院。実質この事件は加害者の自殺だけが被害で解決。ははは、お疲れだ!」

「・・・・・・・・・」


 夕暮の空、病院の屋上でウィヌスは事後処理をした天乃眩から報告を受けると、ツカツカと彼の目の前にある行っていった。

 そして、その顔をおもいっきり殴り飛ばした。


「っ・・・・・・・・・なにかな? この前の銭湯の仕返しか?」


 天乃眩は頬を撫でなが、悠然としてウィヌスに尋ねた。それが更に彼女の気を逆なでた。


「それはこの前殴った。これは、貴様が今回の事件を訳も解らないぐらいにグシャグシャにしたからだ!」

「ははは、どういうことかな?」

「あの、サツキガネナギサの口ぶちから貴様が私たちの情報を与えた疑惑がある。そして、カナカさんも《再臨者》としての完全な覚醒でないにしろ、あの力の発現が切っ掛けで危険視される可能性がある! なんでそんなことをした?」

「あれは彼の元々あったち力を引き出したに過ぎない」

「黙れ! お前は興味本位で今回の件をかき乱した! なぜ、平気でそんなことができる!」

「仮に私がなにかをしたとしても、してたとしても、しなかったとしても、今回の件は誰かの命がなくなっていた。事件がなければ、愛美の命はなかっただろう」

「っ!」

「俺はね。見たかっただけだ。少年の葛藤と友人の愛、歪でいたが、その意志はとても輝いていたじゃないか?」


 そう、天乃眩はそういう存在だった。未知なるものを見るためにどんな事もする存在だ。そんな男が今だ大きな組織の上に人間から斬り捨てられないのは、能力故か、または別の要因か謎である。

 もっともこの世はわからないことばかりだ。そして解らないまま一生終えるのがほとんどだろう。だから、天乃眩という存在も大きな目で見れば些細な疑問の一つでしかない。

 そうやって受けいる。そうすることしかウィヌスは抑えられないが、苛立ちは消えることはできない。


「貴様と話をするとイライラする! なぜ貴様は解雇されないのかが不思議だ!」

「ははは! なんでかな! ははは!」


 もう一度、ウィヌスが殴り飛ばすと今度は尻もちをついて天乃眩は倒れた。


「ふん」


 これ以上何を言っても無駄だと判断したウィヌスが踵かえした。


「お~と! 帰る前に次の命令ですよ~!」


 そうやってウィヌスはヒラヒラと便箋をウィヌスに見せる。

 彼女はそれを奪いとるようにして見ると、目を見開いた。


「ははは、君的にはこの結末がどうなのだろうが~ががっはははは」

「黙れ、性格破綻者。お前のしりぬぐいを私がするはめになただけだろ」

「そう言いつつ、心なしか嬉しそうだぞ?」

「そ、そんなことはない! 不謹慎だぞ!」


 顔を真っ赤にして怒鳴ると、ウィヌスは屋上から出て行った。


「・・・・・・さて、友の約束を果たすか」


 ◇


「ヒメキ」

 

 ヒメキが病室から出ると入口の近くで黎が待っていた。


「大丈夫?」

「大丈夫、じゃないかな。まさか全部お見通しとは思われなかったよ」

「そう」


 そうやって二人はいつかの時ように並んで歩いていく。


「あの子、泣いてたのね」

「ああ、泣かした」


 そう、あの眩しい笑みを見て思わずヒメキは愛美を抱きしめた。

 一瞬彼女は驚いたが、次の瞬間にはヒメキに縋るように泣いた。


「ヒメキが泣かしたわけじゃないでしょう。まったく、ヒメキは貧乏くじをひく必要はないのに。あんなこと、天乃眩でもいいじゃないの」

「でも、俺が嫌われ者だから、汚れ役適任」

「まぁ、その目論見は外れたけどね。あの子のほうが上手だった」


 そうやって黎はヒメキの顔をのぞみ込む。

 自分は《神に似た者》と呼ばれた天使で《再臨者》である。そして、その天使はヒメキの前世である《極罪》を倒した可能性があった。

 なによりも、記憶の中、天使の記憶の中にその光景が焼き付いている。かつて最高の天使をよばれ、最悪の天使と堕ちたものは、ヒメキに似ていた。

 ヒメキが《再臨者》としての力で見せたのは黄金の鎖。もしも彼の堕天使と同じなら、翼の一つも出現しなければ不思議だが、これがなにも無関係とは黎には今でも思えなかった。

 そのことを知った時、とても悲しかった。もしも、ヒメキがそれを知れば自分たちの関係は変わるだろうか?


「うん。どうした?」


 自分を見ている黎にヒメキは首をかしげて尋ねる。


「うん。何でもない」


 たぶん、この少年は変わらないと言うだろう。でも、自分からそれを言いだすのは少し勇気がいる。

 でも、いつか、そんな長くないうちに、一つ一つ伝える。

 そして最後には、一番伝えたい、いつも想っていることを伝えよう。

 大好きだよ、ヒメキ。


 ◇


 愛美は呆然としていた。

 姉が死んだ。自分のために。

 ヒメキは彼女に今回起ったことを全て伝えた。

 愛美は信じられなかった。愛美は姉や、実は天乃眩から通して、そういったことが現実にあることを知っていた。

 だから、信じたくないのは姉が死んだことだ。


「お姉ちゃんって、呼びたかったんだよぉ」


 けど、呼びたい相手はもういない。

 そして、自分は正真正銘の一人になった。


「ところがズバリ!」


 バン! と、乱暴な音を当てて入って来たのは天乃眩だった。


「ははははは! やはり、凄いくらいではないか!」


 愛美は何時も楽しそうにする天乃眩の雰囲気は好きなのだが、さすがに今の状態では苛立ってしまう。それを必死に我慢して、愛美は天乃眩に質問をする。


「月久さんは、お姉ちゃんが私のためにずっと悪いことしてたの、知ってた?」

「勿論だ!」


 天乃眩はなんの悪気がないように即答した。流石に愛美は怒鳴ろうとした。が、先に天乃眩が叫ぶ。


「だからこそ、俺は貴様をほっておかない!」

「?」

「お前の姉、俺の友は、それほどお前を好いていたのだ! だからこそ、私はそんな友が愛した妹を託されたのだからな! お前を徹底的に甘やかす!」


 そう皐月鐘は自分がなにかあった時のために愛美の身元後継人を天乃眩に頼のみ、それを承諾した。

 それが今はいなくなった友の約束だった。


「え?」

「つまり、お前は俺の妹になるのだ!」

「えええええええええええええええええええええええ!」

 

 悲しみが忘れてしまったかのように愛美は声を上げた。話をはしょり過ぎである。


「私はこんなやつだからな! 大変だぞ! 悲しむ間もないぐらいテンワワンヤだ! それくらいのほうがお前には丁度言っていたしな! 渚も御隅付き!」

「お、お姉ちゃんも?」

「ああ、奴はお前の幸せをのぞんだ。それこそ、命をかけてだ!」

「お姉ちゃん………」

「だから、お前は楽しめ、謳歌しろ! 手始めにそうだな~。僕の独断と偏見で、貴様はすぐに学校復帰だ! どうせ、奏日ヒメキが気になるだろう?」


 その言葉に自分の顔が熱くなること自覚する。

 必死に堪えようとしたとこに彼の温もりを感じ、それがとても心地よくて、安心して、我慢するはずの涙を流した。

 恥ずかしながら、泣いて良かったと思う。そうしなければ溜まった感情は自分を壊してくれたかもしれない。それを防いでくれた、嫌われ者の優しい男の子のことを思うと胸の動悸が止まらない。病気と時は違う高鳴り。


「仲がよかったのだろ? ならばとっとの更に進展させて、その後、恋人にでもなんでもなれ!」

「こ、恋人!?」


 思わず声をあげた。まだ、そこまで全然考えてなかった愛美とっては衝撃の一言に尽きる。


「まあ、それは努力次第だか俺はお前の、味方ではない!」

「味方じゃないんだ……」

「手始めにそうだな。そうだな。俺をお兄ちゃんと言ってみろ!」


 なにが手始めなのだろ。よく解らないが、確かに彼の言葉が本当ならそう呼ぶべきが正しいのかもしれない。

 ちょっと照れ臭そうに、これでいいのかと不安になりながら首を傾げて―


「……お兄ちゃん?」


 と言ってみる。


「萌えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 わけがわからなかった。


 ◇


 帰り道、ヒメキと黎はウィヌスと出逢った。


「ああ。カナカさん、ホシアケさん。丁度、貴方達に挨拶をしたかったのですよ」

「えっと、もしかして別れの挨拶にきてくれたのかな?」

「まぁ、終わったからね…………」


 事件は終わった。そうすれば、ウィヌスは自分の国に帰るのだろう。そう考えるのヒメキ以外に黎も寂しさを感じていた。


「? おかしなことを言いますね。むしろ逆です」

「「?」」

「実は明日からヒメキさんの家の隣に引越しますのでよろしくお願いします」

「「はぁ!?」」


 その言葉を聞いて二人は動揺を隠せず、大きな声を上げた。


「えっ? でも、事件は解決したよな?」

「はい、そうです。ですから、今後からカナカさんの監視件駐在先近辺で起こった事件の解決が新たな任務になりました」

「な、なんですって・・・・・・」

「もともと、カナカさんがどれだけ善良な人間でも、《聖天騎士団サン・シエル・オーダー》としては《極罪》の《再臨者》を手放しで放置するわけにもいきません。ですから、身近で真面目な人間が監視ぐらいは最低限しないといけません。

 今までの監視者は不真面目で、今回の件で信用は底辺になりましたしね。

 そこで組織内で日本文化に強く、対象者に歳が近い私が今回の任務につきました。駐在先近辺で起こった事件はおまけです」

「えっと、それはどれくらいするのかな?」

「さぁ?」

「「さぁ!?」」


 再びヒメキと黎は揃って驚愕の叫びをあげた。そんな二人をお構いなしにウィヌスは話を続ける。


「期間は決まっていません。もしかしたら一生かもしれません。もっとも、カナカさんは人畜無害危険ゼロなので気が楽ですし、私は日本文化に興味を持っているので一向にかまいません。ああ、もしもこの市を離れるなら、出来たら東京近辺にしてください。私も移動しないといけませんし、あそこは数々のイベン―、人が多いので犯罪防止ができます」

「ふ、ふざけるなぁああああああああああああああああああああああああ!」


 そうやって一段と大声で叫んだのは黎だった。


「そんなヒメキにつきまとうようなこと、私は認めないわよ!」

「なんで貴女の許可をとらないといけないのですか?」

「そ、それは幼馴染だからよ!」

「そんな法律は日本に存在しません。まったく、横暴ですよ」

「どっちがよ!」


 ギャーギャー と、言い争う二人の少女に挟まれながらヒメキは苦笑した。

 どちらにしろ、今まで以上に騒々しく、そして色づいた日々が続くことには変わらないようだ。天乃眩もいるのだから学校も騒がしいだろう。愛美も学校に復帰したら、また前に見たいに話せるよう努力をしよう。

 悲しいことがあった。辛いことがあった。それでも楽しいこと、美しいことはある。


 これからもずっと。


 賑やかな彼ら彼女たちの上で、今日も空に一番星が輝く。


ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。

2012年に書いた作品ですが、少しでも楽しめたなら嬉しいです。

他にも執筆してるので、良ければどうぞ。

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