表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

18


 その背中に白い六枚の翼をはためかせ、長い髪を靡かせながら、黎は言葉通りウィヌスをお姫様抱っこのような形で、幾つもの紅い宝石が浮かぶ最上空に耐空していた。


「ホシアケさん・・・・・・、なんでここに?」

「か、仮に貴女が死んだりしたら、目覚めが悪いから様子を見に来ただけよ! そうしたら、貴女がへまをしたから、拾い上げた。たったそれだけのことよ!」


 後は彼女がもしも死んだりしたら、きっとヒメキは悲しむのだろうと考えたからだ。

 だから、仕方ない。ヒメキは彼女の力になりたくて、でも、黎はヒメキに危ない目にあってほしくない。ならば、ヒメキの知らない場所で自分が手助けをすればいい。それで解決だ。

 そう自分の中で納得して、首を傾げるウィヌスを余所に黎は周りを見渡す。


「さて、よくもこれだけ魔物を使役できているわね」


 黎はいまだ戸惑っているウィヌスをほっておいて、下を見下ろす。そこには、先ほど消しさったばかりの関わらず、何も場所から、溶け出るように新しい魔物が現われた。


「貴女、片手で私の肩を掴みなさい。いくらこの状態で私の身体能力が上がっていても、片腕だけで貴女を抱きかかえるのはバランスが悪いわ」

「え?」


 その瞬間にも空を飛べる怪鳥は次々と彼女たちを襲う。黎はウィヌスを抱えたまま、まるで空中でアイススケートでもするかのように、猛進してきた怪鳥たちを滑らかに回りながらかわし、自分の周りに数個の光弾を出現させて、次々と撃墜していく。


「御託なんてあとで幾らでも聞くからさっさと言うとおりにしなさい! 一本でも手を使えないと、大技が使えないの! これ以上空飛ぶやつらに邪魔されない内に一掃する!」


 今だ状況がつかめていないものの、ウィヌスは黎の言葉に従い、右手だけで剣を握りなおし、黎の首後ろに自身の左腕をまわした。ウィヌスがそうすると、黎は彼女を抱えている右腕を離して下に向ける。一瞬バランスが崩れたが、すぐに安定さし、黎は下に蔓延る魔物の群、いや、下にある地面全体を、目を細めて見据える。


「!」


 驚愕は黎の腕の中にいるウィヌスだ。黎から弾き飛ばされそなプレッシャーと焼かれるかのような熱さを感じたかと思えば、彼女たちの眼前、魔物たちの足下の全て、このドーム状の空間いっぱいに、複雑な記号が羅列した巨大な白い円陣が、幾重にも重ねられながら出現した。


「燃えろ―――」


 黎のたったその一言が引き金だった。


 次の瞬間、文字通り、彼女たちの下は火の海になった。

 突如として紅蓮の炎が魔物たちを包む。飛んでいた魔物たちも、退避する間もなく、まるで炎の蛇に飲み込まれるように、その身を焦がす。

 魔物たちの阿鼻叫喚が燃え盛る炎と共に広がる。そして、それは先ほど、ウィヌスが見ていた魔物たちの群以外の場所からも聞こえていた。


「奴らはあらかじめ大猟に滞在して、透過してたまま待機していた。貴女も最初からそれでけの数の魔物がいるの解っていたなら戦い方も変わってただろうし、一人でどうにかなっていたでしょう。透過したまま攻撃してこなかったのは、その状態では物理干渉は無理だったのでしょうね。そして相手の目的は、一気に戦力を投入するのではなく、小出してこちらの体力の消耗が狙いだったのでしょうね。もっとも私には意味がなかったけど」


 黎はウィヌスよりも異常な力の感知が優れていた。その優れた感覚を頼りに、彼女たちが戦うこの場所に辿りつき、そして、夥しいほどの魔物の存在を感知したのである。

 星明黎は文字通り、格が違った。

 黎が右腕を横にして空を切ると、燃え盛る炎の海が収まり、そこへ彼女たちは降り立つ。


「さて、流石に品切れだろうし、そろそろ現われたらどう?」

「!」


 黎から離れたウィヌスも彼女の眼の先、今だ残っている熱気の先に目を向けた。


「先生、とは思いましたけど・・・・・・」


 そして、その人物は現われた。黎はそこに現われた姿に多少なりとも驚いていた。


「皐月鐘先生だとは思いませんでしたよ」


 そこに立っていたのは、ヒメキのウィヌスの担任、スーツ姿の女性教師、皐月鐘渚だった。

 彼女は髪の煤を叩きながら、とこどころ焦げているスーツ姿のまま黎をなんとも言えない目で見る。正直、あれがけの炎の前にして、それだけで済むという事実にウィヌスは皐月鐘の実力が相当高いと判断する。


「星明が来るとはな。奏日にでもお願いされたのか?」

「まさか。ヒメキはここにいるなんて知りません。私のほうこそ驚きましたよ。実は最近起こった事件で学校関係者が関わっているのではないかていう話を聞いてました。まぁ、確証もない眉つばなモノですがね。奇行や言動などで、学内一番怪しいのは天乃眩先生と思いましたが、貴女とは予想外です」

「アイツは確かに怪しいからな・・・・・・」


 軽く笑う皐月鐘に対して、ウィヌスは無言で剣を構えた。そんな彼女は無視してるのか、皐月鐘は黎のほうに話かける。


「で、何が目的だ? 私は君も、勿論君の大事な人間も手にかけるきはない。星明の相手は苦労からできれば遠慮願いたいのだが?」

「そうですね。上に人たちを解放するなら、なにも言いません」

「それは無理な相談だな」

 

 上? そう言われて、ウィヌスは天井に意識を向ける。そこには無数の紅い宝石があるだけだ。


「!?」


 そこで、ウィヌスはようやく気づいた。最初はすぐに魔物に襲われたから気づかず、上空に上がった時は黎ばかりに意識を取られてそれどころではなかった。

 だが、ウィヌスはそのクリスタルに、人が、閉じ込めらているのが解った。


「貴様、あれは失踪していた人間だな!? 早く解放しろ!」


 ウィヌスの怒りの声で初めて彼女の存在を知ったかのように皐月鐘は彼女を哀れな目で見る。


「言われて解放するなら、最初からああしないさ留学生」

「ふざけるな! 彼ら彼女らがいったい何をした!?」


 ウィヌスの言葉を聞いて、皐月鐘は鼻で笑った。それを見て侮辱されたとウィヌスは激情を露わにしたが、次の皐月鐘の言葉でそれは止まる。


「――したさ。いや、正確ならさして貰った」

「なに?」

「だから、少しばかり役に立ってもらわないと困るのだよ」

「どういうことだ?」

「語っても仕方ない。君はただ――――死ね」


 瞬間、皐月鐘の指先から紫色の光がウィヌスに向かって放たれた。それは銃技でいう早撃ちに等しい。そして、いつのものウィヌスならそれでも反応できだだろうが、疲労困憊している彼女は来ると解っていても体が動かなかった。このままでは脳天が打ち抜かれる。


 が、皐月鐘が放った魔弾は黎が放った白い光弾弾かれた。

 黎は別に最初から反応できたわけでない。反射速度でいうなら、ウィヌスのほうが高いだろう。ただ、途中から皐月鐘がウィヌスを狙っていると感づいたため、警戒しており、対応できたに過ぎない。


「先生。悪いけど、私の目の前でつまないことはさせないわ」

「ふん。星明は私と同類かと思ったが、検討外れだったか?」


 瞬間、二人は同時に動いた。ウィヌスは動けない。黎は上空に、そして皐月鐘は前にだ。

 先手は黎だった。白い六翼をはためかせ、無数の羽根で目くらまししながら、距離をとるように空中に上昇し、黎がすぐに手の平を相手に向けて、光弾を皐月鐘に向かって放つ。

 数瞬遅れで、散らばった羽根の向こう側から皐月鐘が先ほどウィヌスに放った紫色の魔弾を指先から三発放った。


「「!?」」


 この動揺は黎とウィヌスだった。


 結果から言えば、黎の放った光弾に皐月鐘は直撃した。ぐらりと、皐月鐘の体が傾く。

 

 あっけない結末だ。そもそも、皐月鐘は黎の足元にも及ばない力量しか持ち合わせていない。

 まともに相対すればウィヌスも彼女は倒せただろう。

  

 皐月鐘の放った魔弾は黎ではなく、検討外れの場所に飛んでいった。いわゆるノーコン。ウィヌスのほうを狙うかと黎、そしてウィヌス自身も警戒していたが、その予想は的外れだった。


 虚しい終幕だと、一瞬だけ少女たちは思う。

 が、皐月鐘が放った魔弾、検討外れに飛んでいったものは、上空の、宝石に閉じ込められる人間にへと向かっていた。

 その事態に気づいた黎はすぐに向き返って、クリスタルに向かう魔弾に向かって光弾を放ち続ける。至近距離ならともかく、離れた場所の動く物体を精確撃ち落とす技術は持っていない。よって、盛り合わせの大量の魔力を使い、数で補った。

 結果として、三発の魔弾は黎が放った光弾にかき消される形になる。

 それが、狙いだった。


「ホシアケさん!」

「!」


 ウィヌスの呼びかけに、黎が反応したときには既に遅かった。

 次の目の前には自分の眼前に、さきほど撃ち落とした魔弾と同じものが向かってきたのだ。

 放ったのは当然、皐月鐘。彼女は黎の光弾に直撃してから、ほんの数秒もたたないうち復帰して、黎に攻撃をしかけた。

 皐月鐘には強固な障壁を張る魔術などの《特異技術》はない。ならば、なぜ彼女は黎が放った炎で無事だったのか? 結論は無事ではないからだ。だが、彼女には治癒の術があったのだった。ゆえに、燃え盛る体を片っ端から治癒し、さきほどは自分の策略を確実にするために、わざと黎の攻撃を食らって、事前に準備していた治癒を施した。

 結果、格上の相手に彼女は勝利する。


「くっ!」


 黎は悪態をついて致命傷にならないよう、自分の前方に光の壁を生み出した。上半身しか覆えないものだが、それでも、皐月鐘の魔弾を防ぐには十分な範囲と強度を持っていた。

 だから、自分の太ももに何か刺さっても、痛みの瞬間には焦りはなかった。


「っ?」


 ぐらり、黎の視界が百八十度変わり、体が地面に叩き落とされ、雷を撃たれたかのような激痛が全身を駆け巡る。黎は今まで、危険な障害はほとんど《特異技術》で凌いでいた。

 よって、数メートルの高さから落ちたときの痛みなど感じたことなく、焼けるような痛みに声にならない悲鳴を上げた。

 痛みの中、意識が朦朧とし、涙目になりながら原因であろう、なにか刺さった部分に目を向ける。そこには、注射のようなものが刺さっていた。


「私は月久の同期で、アイツ同様、教員の他に医者でもある。昔は色んな患者を治したものだ。そして、私も星明と同じ《再臨者》でね。いざという時のために、《再臨者》としての力を圧される薬も造っていたのだよ。まあ、一本しかない限定品だがな」


 まるで問題が解らない生徒を指導する教師のように皐月鐘は説明した。つまり、黎が撃ち込まれた薬は彼女の力を失わせるものだった。そして、地面から叩きつけたらた彼女は倒れたまま身動きがとれない状況だった。


「この際だ。死ぬのは星明も一緒の方がいいかもしれない。そのほうが何かといいな」


 そうやって皐月鐘は黎に近づく、が、その前に立ちふさがるようにして剣を構えたウィヌスが現われる。


「なんだ。留学生が死ぬか? どのみち君には死んで貰うつもりだったけどな」

「……貴女は、先ほど自分が医者だと言いました。そして、見るとこによると治療の《特異技術》にも精通しているようにお見受けします。ならば、なぜ? 人の命を、他人を平気で傷つけれいるのですか?」

「世の中には傷つけたいから医者になったものもいる」

「貴女もその一人だと?」

「いや、違うな。違う。私は救いたかっただけだ」


 そこでウィヌスは初めて、皐月鐘に人間じみた感情を目にする。

 後悔や苦渋に交じった嘆きの顔。だが、それは一瞬だった。


「私は本当に救いたかったものを救うために、奪い尽くす」


 魔弾の早撃ち。それが来るとウィヌスは解った。

 全力で身を挺せば回避することは可能だろう。だが、下がれば黎に当たる。皐月鐘は彼女も殺すと言った。言わなかったとしても、一連の事件の首謀者の言葉は信用できない。

 ウィヌスの執るべき行動は一つ。銃弾を凌いで、反撃で袈裟切り。消耗した状態ではかなり不安だが、それでも彼女はやってみせるしかない。

 だが、彼女の決意とは裏腹に自体は更に悪化する。

 グアン と大気が揺れた。そこから、紫色の粒子を撒き散らせながら、魔物が現われた。


「なっ! まだ残っていたのか!?」

「残ってなかったさ。星明の大規模な術のお陰で待機していた魔族たちのストックは切れた。だから、今この瞬間に改めて呼んだんだ。知っているか? 下級魔族たちは使役するよりも召喚するときのほうが魔力を食らう。だからこそ、星明の見抜いていたとおり、透明にさして、予め用意していたんだがな。実際、数体召喚しただけでなけなしの魔力が底をつきそうだ。

 もっとも、動けない星明に披露困憊の留学生なら、私一人で戦うよりもこのほうが効率よく終わるだろう」


 新たに呼び出されたのはあの人型をした巨体の異形、名はオーガ。日本でならば鬼とも呼ばれるものだ。数は七体。

 万全な状態なら苦ではないが、動けない黎を庇いながら戦うのは絶望的だった。

 だが、それでもウィヌスは剣を両手から離さない。


「解せんな」


 その様子に眉を寄せたのは皐月鐘だった。


「自身の命だけを考えれば、敗走するのも悪くない。だが、それは何だ? 組織の命か? 三日も足らない相手に情でも芽生えたか? 自分を助けてくれたもの義理立てか? なぜそこまで、誰もお前を知りもしない地で抗う? ここでお前が死んでも弔ってくれる人間などいないだろうに」

「そんなの決まっているじゃないですか」


 ウィヌスは当然のように宣言する。


「私は関係ない人にも迷惑をかける未熟者です。だけど、だからこそ、自分が信じた道は、幼い頃から憧れた正義の味方になるため、泣かないでいい人を泣かせないように、強い自分になるためにここで退くことはありえない」

「陳腐だな」

「陳腐で何が悪いのよ」


 鼻笑いで一蹴する皐月鐘に対して反論したのは黎だった。

 動けないはずの体を震わせ、体中から大量の汗をふきだし、歯を食いしばって必死に起き上がらせた。それで限界だった。それ以上の行動は望めない。飛べない。炎も光弾も出せない。

 だが、それでも黎は皐月鐘を睨む。


「人が必死になる理由なんてね、総じて陳腐で単純明快なものなのよ。だからこそ解りやすく、そこに迷いなく目指せる。滑稽だと嗤いたければ嗤えばいい。けど、最後に笑うのは――」

「ええ、最後に笑うのは――」


「「絶対に諦めなかった、私たち」」


 重なった二人の言葉を無言で受け止めて、オーガに合図する。一斉に動いたオーガ達は彼女たちに襲い掛かり、皐月鐘自身も魔弾を放つ。

 ウィヌスは空に一閃。硝子がはじける音と共に皐月鐘の魔弾は凌ぐことができた。

 だが、それだけで次にくるオーガたちの強襲には対応できない。そして、立つことがやっとの黎は当然ながら動けずその瞳に激情の炎を宿すだけだった。


 そして、その体は捉えられた。

 

 腕、首、動体、ギリギリと肉と骨が締め付けられ、喉から絶叫が迸る。


 助けを求めているのか言葉にもならない呻きは誰にも届かず――

 

 身動きを一つとれないまま、なす術も一つもなく、最後の瞬間、縛りつけていたものがその戒めを更に強め、絶頂の断末魔と共に――


 



 七体のオーガ―は霧散した。





「どうやら、間にあったみたいだな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ