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 ウィヌスはヒメキたちと別れてから、直ぐに行動を開始した。

 ヒメキたちには教えてなかったが、最近、街で起こる失踪事件は依然と比べると減少、むしろなくなったと言っても過言ではないと彼女自身も今朝に知った。

 かわりに、本来、誰もいないはずの学校に何者かが頻繁に出入りしている報告も受けた。それでウィヌスは学校に関係者がいるのではないかと考え、ヒメキを尾行し、彼に普通に接する人間を探って容疑者候補を絞ろうとしたのだが、色々と的は大いに外れた。

 これは偶然か、それと必然なのか、なぜ今まで行っていた行動を急に止めたのか、全ての謎は犯人を捕まえればわかることだ。

 だから、早急に犯人を特定、出来れば確保、駆除したかった。事態が変わったことで被害が増したら、何のために自分はフランスからこの遥か東方の島国に来たのかわからない。

 よって、自分でも行動をしようとしたのだが、結局は空回りとまたヒメキに要らぬことをしてしまった。

 残念なことだが、自分には諜報活動や情報収集には向いてない。組織で訓練を受けていたのにも関わらず、それでも素人には、と思ったがヒメキには何度も気配と尾行を察知されてしまったとウィヌス自身反省している。

 やはり、適材適所だ。自分は戦闘。諜報活動や情報収集は他にいる。有事の際には周りの避難誘導もできる有能だ。

 ヒメキはウェヌスが一人でこの国やってきて任務をこなしていると思っていたかも知れないが実際は違う。ウィヌスとは別行動をしている仲間が存在しているのだ。

 残念なことに、今回彼女と手を組んだ人間はかなり色々と問題があり、それでウィヌス自身迷惑を被ったが、今その話は余談にしか過ぎない。

 

 別れた後、すぐにその仲間から伝令がきた。

 

 伝令は単純に使い捨ての携帯電話のメールからだ。《特異技術》の魔術で脳に直接意思疎通することもできるだが、そう言ったものは相手が相手だけに盗聴される危険性もあり、なによりウィヌス自身がその方法を好んでいない。脳に直接声が響く感覚がどうしてもなれないのだ。


 伝令された内容は単純。


 危険な魔術儀式を準備している場所を発見。速やかにそれを破壊。場所はこの病院の地下。

 この病院になにかあるとは、ウィヌスも、そして黎も病院の敷地内に入った瞬間に解った。

 その側にいるものだけが感じる、特有の違和感。それを感じた。

 それでも、すぐに駆け出したい衝動を抑えられたのは、周りに他の人間がいたの、今はなにも危険がないと解ったからだ。あくまで、今はだ。

 他人の所有地で勝手に、無関係な人間が多い場所でなど色々と思うことはあるが、その鬱憤は犯人に晴らす。儀式を破壊して、痕跡を辿り犯人を見つけ然るべき処理をする。

 最善を言うなら、何とかして病院から人を避難させたほうがいいのだろう。だが、病院という場所は問題だ。人が多く、なによりも動かせない人間も存在するだろう。そんな人間が幸いにいなくとも怪我人病人に無理をして移動してもらうのは非常に時間がかかる。

 これが病院全体で行われた儀式なら、それでも強硬手段をして避難させた。

 だが、場所は病院の地下であり、そして、病院の中の人間には絶対危険は及ばないと仲間から情報があった。だかこそ、不用意に混乱を招かず、自分一人が速やかに目的を果たせばいい。

 

 そうすれば、当然、この国から去ることになる。そんな事を考えると脳裏にこの国で出会った彼らの顔が浮かび上がってきた。

 

 黎のほうは仕方ないとはいえ険悪だったが、それでも最後は多少なりとも良くはなったことを彼女は嬉しかった。贅沢を言えばもっと話かったと思う。

 先ほどあったばかりの愛美という少女は凄いと感じた。負の感情を向けやれやすい奏日ヒメキを普通の人間が、理解して、友人となった。悲しいことだが、ただ彼と接するだけではそんなことにはならない。人の本質を見抜ける良い子なのだろう。そんな子が、安心して療養し早く退院できるように、危ないものは迅速に撤去するべきだ。

 ヒメキのほうは、様々な意味で気になる。彼はあのままでどんな風に生きるのだろうかと……。叶わないことだろうが彼ともっと接すれば、彼女たちのように良き友人同士になれたのだろうか? とありもしない未来を考えるのは不毛なのだろう。


 そこまで考えて、自分が雑念に飲み込まれ過ぎていたことに気づき、首を振って意識を一つのことに集中させた。

 今は儀式の破壊だけを考えろ。残りのことはそれからだ。

 ウィヌスは仲間から貰った情報を元に、人影がいないのを確認すると、一般の来院者が入ってはいけない場所を忍び込み、目的地へと速やかに向かった。


 道中の途中途中で入院患者や、医者、看護師といった病院関係者を見かけるが、その時にあった遮蔽物などを利用として簡単にやり過ごしながら進み続ける。

 外では夕焼け色に染まっていた景色は、青黒い夜の色に変っている頃だろう。夜は人を怯えさせるが、ウィヌスは恐れることなく、目的の場所へと急いだ。

 自分がほんの少し遅れただけで、何人かの命がなくなるかもしれない。一歩早かったおかげで助かる命が増えるかもしれない。そう考えると足の動きが早まる。

 そして、逸る気持ちであったウィヌスにとっては数分、実際はそれ以下の時間で目的地に辿り着いた。


 正確には目的地の入口だ。

 ウィヌスがやってきたのは病院にある資料室の一室。ここは余り人が来ない場所らしい。そして。ここに地下に通ずる隠し扉があるらしい……。

 病院の下に存在する地下が最初からあったのか、それとも誰かが作ったものかはわからない。ウィヌスの目的はそれの究明ではなく、そこにある危険物の処理だ。

 資料室に入ると、そこは薄暗く、多くの本がしきつられた本棚がたくさんあった。資料室というよりも、医療関係専門のちょっとした図書館と思えばいいのかもしれない。ウィヌスは中で他に人がいないか確認しながら知らされた奥の本棚までとやってきた。

 そこにある本をメールの内容通りに並べ替えていく。


 カッチ と、何かの音がした。


 すると目の前にあった本棚がゴゴっと音を立てながら、独りでに動き出して、その奥に隠れていた下へと続く階段の姿を現す。黎は武器だけ片手に戦闘に邪魔なものはその場に隠してから先に進む。


「どこの迷宮ですか……」


 一人でつっこんでから、ウィヌスは慎重に下へと降りていく。

 体感して一般的なビルの高さでいうとこの七階ぐらいか? 入口は一階にあったので、文字通り地下七階ぐらいだろう。そこまでウィヌスが下りていくと彼女は何やら紅い光をその瞳に映す。

 焦りはせず、そのままのペースで降りて行くとドーム状の空間に辿り着いた。大きさはかなり広い。

 そして、その空間は紅い明かりで照られていた。その光源は足元に存在している様々な形に重ね交じった血のように紅い線。その正体をウィヌスは巨大な魔方陣だと認識した。

 まずは髪の毛を一本千切って、その場に投げ捨てみた。暫くしてから、片足だけ軽く魔方陣につける。そこまでの作業をしてから体に害はないと判断し、ウィヌスは魔方陣の中に足を完全に踏み入れた。

 脚を踏み入れた途端、さらにそこが広い世界だと再認識する。地面の紅い魔方陣のお陰でそこま一面が紅い世界となっていた。

 とりあえず、中心のほうへ進んでいくと全体を見渡すことができる。そして、三百六十度周囲を確認した後、何やら宙に浮かぶ、大きさにして人間サイズの紅い宝石のようなものを見つけた。

それを調べようとしたとき、そいつらはやってきた。


「ちっ!」

 

 ウィヌスの前方には鉛色で肥満体形の大男が三体、後方にはボタボタと涎を垂らして見るからに獰猛そうな狼が二匹、上空には見たこともないような怪鳥が二羽とウィヌスから逃げ場を断つように囲んでいた。異形の物。魔物である。

 魔物たちは一斉にウィヌスに襲い掛かる。

 先制は、最も瞬発力が高かった狼の二匹がウィヌスに飛びかった。

 だが、それによって最初の餌食となる。ウィヌスまともに狼を見ず、首以外の上半身を右後ろに回し、背を向けたままの二匹の体を深く切り裂いた。まるで背中に目でもあったかのように、二匹とも首を落とされそのまま絶命する。

 次に飛来してきた怪鳥の一羽を一歩分後ろへ下がって避け、叩き落とすように剣を振るい怪鳥を両断する。そして、後から飛来してきた怪鳥も返し刃で斬り裂く。

 残っていた猛進してくる大男たちをウィヌスは前進して迎え撃つ。その一瞬、ウィヌスの体が大男たちの中に飲み込まれてしまったかのように見えた。が、丸太のような腕がウィヌスの体に触れる前に斬り落とされ、臭い息が頬に当たる前に首は切り落とされ、ぶよぶよした肉が密着するまえに三体は沈んでいた。

 実に秒殺。七体存在した魔物はウィヌスの手によってすぐさま屍とかした。

 が、しかし、ウィヌスが息をつく間もなく、今度は同種類のものを倍にして彼女の前に現われた。だが、ウィヌスは動揺することなく行動をする。


「はぁああああああ!」


 白金の髪が揺れる。剣戟が空と肉を斬る。同時にそれらの音と断末魔が響いた。説明する間もなく、魔物たちは先ほどと同じような末路をすぐ辿る。

 魔物はけして貧弱な存在でない。大男の肌の硬さ鋼のごとく、その力は岩でも砕く。けして動きは鈍いわけでもなく、外見に似合わず素早い。怪鳥も飛来する速度は拳銃に匹敵し、狼の俊敏性も常人では捉える事ができない。

 つまり、ウィヌスはそれら全てを遥かに凌ぐ。

 鋼を斬り裂く剣戟に、弾丸をかわす反射神経、常人を逸脱した洞察力を持っている。

 もっとも、この驚異的な身体能力には秘密がある。

 

 それはウィヌスが持つ一振りの剣。

 古代礼装、聖剣デュランダル。それがウィヌスの持つ剣の名だ。

 フランスの英雄、勇者ローランが振るっていた聖剣デュランダルは黄金の柄があり、その中には聖人三名の血肉や骨の一部、聖母マリアの服の一部が収納されている。それらは(せい)遺物(いぶつ)と呼び、聖なる力が宿っている。その恩恵によって、ウィヌスの身体能力は飛躍しているのだった。更に剣としての性能も申し分もなく、凄まじい切れ味で刃こぼれ一つしない。

 だが、ウィヌスは力はけしてデュランダルに頼って得たものではない。

 強い剣は持ち手を選ぶ。デュランダルもまた持ち手を選び、ウィヌスを自分の主として認めていた。

 例え、如何なる最強の剣を持っていたとしても、持ち手の技量が合わなければ、ただの棒きれに堕ちる。よって、ウィヌスにはそれに見合うだけの技量が備わっているのだ。

 ゆえにウィヌスは強い。

 彼女が戦う魔物がそれこそ幾ら増えようが、揺らぐことはない。

 あるとすれば、ウィヌスよりも強大な力を持つ存在に出会ったとき――


 そして、何かの策に貶められたときであろう。


「!」


 最初は久しぶりの一対多勢の戦いによるものだろうと思った。

 だが、気のせいだったものは違和感になり、それが実体となって体を蝕んできた。

 体が重い? 普段のこと考えて疲労するにはまだ早すぎる?


「くっ!」


 しかし、ウィヌスの疲労も関係なく、魔物たちはつきづきと現われて襲いかかる。そして、それは、前触れもなくだ。

 先ほどから奇妙なことに、魔物たちはまるで霧から抜け出るかのように、何もない場所からあられるのだ。


(魔物使役は間違いなさそうですが、これはいったい何だ? 召喚術にしてはなにも、反応がなさすぎる?)


 まるで、最初から消えていて、攻撃をする際に現われているようだ。

 そして、これだけの魔物の群れを相手にしているにも関わらず、その術者らしき存在は一向に姿もなく、そして、先ほどから、魔物たちとの討伐とは関係ないところで、気力、体力がそぎ落とされていく。


(こいつらのマスターは気配遮断の《特異技術》でも持っているのか?)


 戦いの渦中、思考は現状打破を最優先に考える。最早、逃走という道はない。道から遠い上に、神出鬼没の魔物たちに背中を不用意に見せるのは下作だ。


(このままでは埒があかない。奇妙な術でこちらの体力も削られている。くそ!)


 そこで、ウィヌスは苛立ちは頂点に達してしまった。

 剣に蒼い電撃が走る。ギャァアアアガァ と、耳障りな奇声と共に空中から襲いかかるカラスが二~三倍大きくなったような怪鳥の群れに、ウィヌスは今回初めて、の《特異技術》を解き放つ。

 ウィヌスの主な《特異技術》は電撃を操る俗にいうなら魔法剣の分類だ。ウィヌスや彼女と同じタイプの人間は他にも存在し、彼ら彼女らは聖剣を使用してその技を行使しているので通称、《聖剣術》と名前付けている。


「《疾駆雷鳴ランサー・ロラージュ》!」


 電流を纏った剣を空中に向かった振り払うと、蒼色の電撃が刀身からまるでその場で雷が落ちたかのような騒音を上げて怪鳥の群を焼き払う。


「《獅子稲妻トネ・カーザンファル》!」


 次は黎の相手にしたときには見せていない《聖剣術》を解き放つ。

 今度は剣だけではなく、ウィヌスの体中に蒼い雷光が駆け流れ、彼女自身が一つの雷の塊になった瞬間、蒼の雷光は猛獣が獲物たちを一方的に蹂躙するかのように、その場に駆け廻って、魔物たちを次々と白銀の雷で跡形もなく消炭にしていった。

自身に雷を纏わせ、目標に向かって猛攻する《聖剣術》、《獅子稲妻》である。雷とほぼ一体化することにより、速度も桁はずれに跳ね上がり、多くの敵を迅速に鎮圧するに適した《特異技術》である。

《疾駆雷鳴》で《稲妻獅子》の溜めを作るために周りの露払いをし、《稲妻獅子》にて残った全てを薙ぎ払う算段だった。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」


 目に着く魔物を一通り片づけた後、纏っていた雷が霧散し、ウィヌスは息を切らしながら剣を杖のようにして自分の体を支える。


 が、彼女の一抹の達成感は一瞬で消し去る。

 また、始めから同じようにして、様々な魔物たちは何もない場所から現われる。

 光が失いかている碧い瞳でその光景を映すが、体が思うように動かない。

 間違いなく《聖剣術》を行使していたからだろう。体力が普段以上減るなら、《特異技術》を使えば尚更だ。この状態になるのは半ば予想できていた。だが鬱陶しいまでの数の暴力に彼女は根負けしてしてしまったのだ。


「くっ・・・・・・」


 ウィヌスは剣を構えなしに、じりじりと自分の周りに集まる、様々な魔物たちを瞳に光を宿して見据える。入らない力を無理やり両手に込める。

 瞬間、ウィヌスの元に魔物たちが雪崩のように殺到した。魑魅魍魎の群のなか、小さな少女の体は瞬きの時間も与えない内に飲み込まれ、消えていった。


 刹那、白い光の爆発が、ウィヌスが消えた中心から溢れ散った。


 その時、ウィヌスが感じたのは浮遊感だった。魔獣の群に飲まれた瞬間、何かに体を掴まれたと思えば、白い光が当たりを飲みこんだ。間違いなく《特異技術》。しかし、それは自分でしたものではない。そして、何者かに体を掴まれたまま、そのまま体がぶわっと浮き上がるのが解った。

 そして、ウィヌスは近くに信じられない顔をまの辺りにする。


「まったく、誰が好き好んで女の子が女の子のお姫様抱っこをしないといけないのよ」


 可憐な顔を若干歪ませて黎は愚痴をもらした。


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