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「なっ、なんでまた天乃眩先生がここに?」
一番最初に口を開いたのは部屋の中に天乃眩を目撃した黎だった。ちなみに夕代は肌蹴ていたとこはきちんと閉じて、顔を真っ赤にしていた。
「ははは、愚問だよ星明黎! 私は医者! 知る人は誰もが知る難病も治ると言われた私のこの手がメスをとると訊かりバッサリ完治狂喜のゴッドフィンガーと轟き絶叫されている天乃眩月久その人だ! 当然、如何なる病院にも呼び出されて助力を求められるのは当然至極であろうに!
そして、なにを隠そう、ここにいる夕代愛美は知り合いでね。彼女の身内とは学生時代からのマブフレンドなわけだ。ここ二つの明かされた驚くべき真実を照らし合わさると、答えはいつも一つ! この病院に呼び出されて、そして、帰り際に旧友の妹の様子を触診していたわけだ。
そこのチェーリーな奏日ヒメキは変な誤解をしていたみたいだけどな!」
「っ!」
「誤解?」
額に汗を滲みだすヒメキを黎はジロリと見た。
「えっと、奏日君は診察の邪魔だと思ったんだよね?」
助け舟をだしたのは、実は一番の被害者なのかもしれない愛美だった。
「だよね」
ヒメキがうろたえる反応をする前にもう一度、愛美のほうからもう一度念のおしがきた。ヒメキは色々と思うことがあったが、彼女がそう言うならそういうふうにしよう。
「ああ。悪かった」
「ううん。いいよ」
まだ若干顔を赤らめるが、愛美は首を振った。
「まぁ、いいけど・・・・・・」
納得がいかない顔していたが、本人たちの間でなにか解決したようなので、黎はそれ以上追及を止めることにした。
「おやおや? そういえば、そこの金髪さんは初めてだね」
そこで天乃眩がウィヌスを見て、へらへらと笑いかける。
「・・・・・・ウィヌス・リュミエールです」
ウィヌスは目を細め、月久を意味あり気な一瞥した後で名乗る、この留学生も目の前の男には何かしら思うことがあるようだ。
「私は天乃眩月久。今日はこの病院に助っ人としてあい参上したが、普段は君たちの学校の保険医を務めている。まぁ、今後もよろしくお願いするよ!」
「はい。よろしくお願いします」
ウィヌスが頭を下げると、天乃眩は何か満足したかのように顎を撫でながら嗤った。
「では私は貴様らたち学生のように暇ではないのでな。そろそろ仕事に行くよ」
「うん。月久さん、ありがとう」
愛美がそう言うと、天乃眩は彼女の頭をポンと撫でて笑った。それは何時も見る馬鹿にしたような笑みやからかっているのではなく、とても優しい笑みだった。
「ははははは! さらばっだ!」
そうやって、入口にいるヒメキたちをかき分けて、部屋から出て行った。
「驚いた。あの先生、あんな顔をするのね」
そう言ったのは黎だった。それはヒメキも同感である。
「夕代って、本当に天乃眩先生と知り合いだったんだ」
「うん。結構前から仲良くさして貰っているよ。それよりも、中に入ったら?」
彼女の言葉どおり、ヒメキたちは病室に入って、ドアを閉めた。
「えっと、こんにちは奏日君。星明さんも久しぶりだね」
「ええ、久しぶり。ヒメキから色々と訊いているわ。勉強がかなりできるようになったようね」
「星明さんには到底敵わないですけどね。あと、そこにいるのが――」
「ウィヌス・リュミエールです。昨日転校してきたばかりで、貴女のクラスメートになります。よろしくお願いします」
ウィヌスは一歩前に踏み出して、凛とした態度で挨拶をした。
「私は夕代愛美です。こちらこそ、よろしくお願いします。うあぁ、すごい美人さん・・・・・・いろいろと羨ましいです」
愛美はじっとウィヌスのある一点を見つめる。その気持ちを黎は何も言わずとも解った。
「貴女も可愛らしくて羨ましいです」
「ふぇ?」
まさか褒められるとは思わなかった愛美は目を丸くする。
「私は昔から貴女のような包み込むような愛らしさに憧れています。私はこのとおり、褒められはしても、そのようには言われません」
「私はリュミエールさん? のような綺麗な人に憧れますよ。なにかしてるのですか?」
「大したことは。強いていあげるなら、幼少の頃から毎朝鍛錬を欠かしていない、でしょうか?」
「すごいね。私はずっと入院してるから、そういったことできないなぁ」
「元気でも、意外と飽きっぽいとこがあるから夕代は無理そうだな」
ヒメキが軽口を挿むと愛美の頬が小さく膨らんだ。
「そんなことなもん。最近はちゃんと勉強だってしてるし」
「そう言ったって、俺が貸した本、すぐ飽きて読まなくなったじゃないか?」
「あれは奏日君の本が悪いよ! いきなり、辞書みたいな厚い本を渡されても初心者には困る」
「夕代さんは読書するの?」
そうすると黎が会話に入って来た。
「うん。漫画じゃなくて活字とかも読もうかと。漫画よりも長く楽しめそうだしね。でもでも、それでいきなりそれはないと思わない? リュミエールさんもそう思うでしょう?」
「どうなのでしょうか? 私も読み書きを始める際に本を御爺様から頂きましたが、結構それなりの量があったと思います」
「それはアンタの家系が厳しいからじゃないの? 普通に、そう女の子が楽しむので始めるのなら短編小説がいっぱい入った本。それも恋愛とか友情とか、あまり暗くないのがいいわよ」
「ああ、それなら私にも読めそうだよ。流石、星明さんだね。ほらほら、やっぱり私にはあの本はまだ早かったんだよ」
「ううん、悪いことしたかな?」
「悪い、とかじゃないよ。ただまだ私には難しかったってだけだね。でも、本を読み慣れたら奏日君が貸して本も読むよ。せっかくお薦めしてくれた本だから読みたい」
「ああ、そうか・・・・・・」
愛美が明るく、そう言うとヒメキは安心したように笑う。
その様子を、じっとウィヌスは見ていた。
「言っとけど、彼女は『普通』よ」
「!」
黎のその言葉を聞いて、ウィヌスは動悸が跳ねあがったのが解った。
「ん? なにが?」
「なんでもないわ。ところで、ヒメキが貸した本ってどんなの?」
「うん。これだよ」
そうやって、四人は自分たちが読む本をはじめに取り留めない話を続けた。
話の前後には何も脈絡もなく、ちぐはぐで、どうでもいいことを語った。
昨日まで殺し合いをしていた二人も、少しだけ、張り詰めていた空気が緩まる。
それは後で思い返せば彼女にとっては信じられない光景で、彼女にとってはずっと祈っていた風景で、彼にとっては心地よい時間で、彼女にとっては最後の夢だった。
でも、この瞬間だけは楽しいと誰もが感じて、他の人間が見れば友達同士が話してるがけの、たったそれだけの空間だった。




