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「・・・・・・」


 午後の最初の授業が終わっての休み時間、ヒメキは憂鬱だった。

 なんとかしたいと思った。

 でも、自分だけでそれは解決できず、それでも解決したいと思うことがあった。

 一人で行き詰ったときは黎に相談していたが、当事者なのでできない。彼女の両親とは親しく、黎と喧嘩したとき、または彼女に相談しにくいことは彼女の両親にしていたが、今回は違う気がする。

 そこで手詰まり。呪い地味た、いや、ある種呪いのせいだが、自分の交友のなさに情けなくなる。自分が他に他愛なく話せるのは・・・・・・一応、心辺りは合ったりする。

 ただ、一度もこういったことで頼ったことがなく、相手にはあまり負担かけたくないとヒメキは思っていた。

 しかし、メールで訊くぐらいならいいだろうか?

 休み時間、少し躊躇いがちにその相手にメールする。

 返事は直ぐに帰って着た。

 そして、何度もやり取りして、授業中も罪悪感の中、それを続け、そして、ヒメキの行動は決まった。


 ◆


「カナカさん、授業中にメールをするのは感心しません」


 本日の授業が終わってから隣の席のウィヌスのほうからヒメキに声をかけてきた。


「ああ、ごめん。ちょっと急用で。というか、見ていたんだね」

「今回は本当に偶々です。学生なのですから授業に集中するべきですよ」

「リュミエールさんて、解ってたけど真面目だな」

「当然の義務です。その義務を放棄していったいなんのやり取りをしていたのですか? と、すいません。聴きすぎです。プライベートのことで口を出すべきではありませんでした」

「いいさ。実はメールの内容はリュミエールさんに関係したりしてるんだよ」

「私にですか?」


 予想外の言葉にウィヌスは目を丸くした。


「暇じゃないと思うのだけど、ほんの少しだけで良いから付き合ってほしい場所があるのだけどいいかな?」


 ヒメキの言葉にウィヌスはしばらく悩んでから首を縦に振った。


「あまり時間はとられませんが、夜まででしたら大丈夫です」

「良かった。断れたらどうしようか悩んでいた」

「貴方には迷惑をかけていますし、それにそんな真摯な態度でお願いされたら、無下に断るほうが心苦しいです」

「真摯、っていうほどものだった?」


 意外な彼女の言葉にヒメキは首をかしげた。


「ええ、とても」


 そう言って、ウィヌスは薄らと笑う。それを見たヒメキは思わず顔を赤くした。

 美少女の笑顔と言えば、ヒメキは黎のに慣れたりしていたりもするのだが、彼女相手でも不意打ちやものによっては照れてしまう。よって、関わった時間も少なく、また、あまり笑う印象を感じなかった美少女の些細なものでもそういった顔を見れば、そういった反応をするのはしたかなかったりするのだ。


「……」


 だから、彼らの教室にやって来た黎に拗ねた顔をされても、仕方ないものは仕方ないのである。


「れ、黎、いつ来た?」

「動揺しないでよ。悲しくなる」

「カナカさんにご用件ですか?」

「正解と言えば正解よ」


 ウィヌスの問いかけに黎は仕方なさそうに答えた。


「どういったご用件ですか? 一応、私はカナカさんに言われて、彼と何処かに行く予定なのですが・・・・・・」

「その言葉、事情を知らなかったら切れていたでしょうけど、別に問題ないわよ。というか、ヒメキはまだ話してないの?」・

「ああ。行くことはOKしてもらったけど、場所とかは、まだ・・・・・・」

「どういうことですか?」


 二人のやり取りを見て、ウィヌスがヒメキのほうに問いかけた。


「実は今から行く場所は黎も一緒に行くんだよ」

「そういうことよ」

 黎の言葉を聴いてウィヌスは少し信じられなさそうに目を丸くする。

「貴女は嫌じゃないのですか?」

「問題ないわ」


 黎が即答して、ウィヌスはますます困惑する。

 ウィヌスは自分が彼女に嫌われていると思っている。だから、例えヒメキにお願いされての行動だったとしても、ここまであっさりとした返事が返ってくるのは意外だった。


「そういうアンタはどうなの?」

「私は構いません」


 彼女に対して色々と思うことは自分もあるのだが、彼女が自分に対して辛い目で見るのは隣にいる奏日ヒメキという人間を想っての行動が大半だろう。それに不満はなく、むしろ当然だとは思う。そんな彼女が自分と一緒に行動することを容認してるのなら、自分に拒否することはなにもない。

 そして、そんな二人のやり取りを見てヒメキは安心した。


「それじゃあ、行こう。リュミエールさんは夜までだしな」

「ところで、結局どこに行くのですか?」


 ウィヌスの問いかけに幼馴染二人は息があったように揃って答えた。


「「お見舞いだよ(よ)」」


 ◆


「そうですか、入院しているご学友のために・・・・・・」

「そう。夕代愛美さんって言うんだ」


 三人は学校から出ると花屋に行ってからバスに乗り、夕代暁奈が入院している病院に向かって行った。

 ちなみに三人が揃って学校を出る姿を何人もの生徒たちが、様々な視線を送ったのは説明するまでもないだろうが、念のために言っておこう。

 また、席順は一番後ろの席に、黎、ヒメキ、ウィヌスの順で並んでいる。


「女性の方、ですか?」


 ウィヌスは思わず、ヒメキを挿んで反対側に座る黎を覗き見る。

「そんなふうに意味あり気な視線を送るのは失礼とは思わない?」

「そうですね」

「?」

「ヒメキは気にしなくていいわ」

「しかし、私のような関わりのない人間がいきなり現われても迷惑ではないでしょうか?」

「大丈夫。君が来るのは伝えてあるし、とても喜んでいるよ」


 ヒメキがそう言うと、ウィヌスは微妙に困った顔になった。


「私はなにも面白いことなどできませんが、可能な限り力を尽くします」

「心配しなくても誰もアンタにコントをしろとか無茶ぶりなんてしてないわよ。

 むしろ、自然体でいなさい。聞かれたことに普通に答えて、アンタが常識のある範囲で聞きたいこと聞いたりすればいいだけど。変にかしこまると、これから会う子のほうが気を使うから普通でいいのよ。普通で」


 以外にもウィヌスにそう助言したのは黎だった。


「わかりました。全力で普通でいます」

「全力で普通って・・・・・・どういったものかは解らなくもないけど、そういう意味じゃないのよ」

 そんなやり取りをしている内に目的地に到着した。

「リュミエールさん、ここだよ」

「はい」

「…………」

「黎、着いたぞ?」

「うん、わかってる」


 三人はバスから降りるとウィヌスがバス停から目の前にそびえ立ち建物を見上げる。


「想像していたよりも大きな病院ですね」

「そうだね。市内で一番大きい病院ではあるよ」


 そして、三人は横に並んで病院の敷地内に足を踏み入れる。


「ん、リュミエールさん、どうした?」


 なにかウィヌスの体がぴっくと震えたのでヒメキが彼女の様子を確認する。


「いえ、少し風が冷たく」

「ああ、そろそろ五月だけど、まだ夜になると冷えるしな」

「ぼっさとしてないで、行くなら早くいくわよ」

「・・・・・・はい、行きましょう」


 三人は受付で面会の手続きをし、夕代愛美の部屋に向かう。

 そして、目的の部屋に到着すると、ヒメキはドアをノックした。


「はい」

「お邪魔します」


 そして、ヒメキはドアを開いた。それが間違いだった。

 彼らの目の前に飛び込んできたのは、シャツ型パジャマの上が肌蹴た夕代愛美に――。

 ――彼女のはだけた部分に手をやる、天乃眩月久だった。

 さて、ここからは奏日ヒメキの高速思考である。

 やばい! 着替え中だった? ああ、どうぞとかいってなかったし、なにしてんだ、俺! あれ? なんで、天乃眩先生がいるんだ? あの人は神出鬼没でもほどがあるが、そうじゃなくって、なんでこの人が夕代の部屋にいるんだ? というか、これは、いけないとこなのか? 助けるべきか? でも、夕代なんか抵抗なんてしてないし、実は二人は俺が知らないところで知り合いで、そういう場面だったとか? あれ、かなりまずくないか? まずいまずい非常にまずいこれから人が来るの解ってるのだからそういうのは自重してほしいからとかそうではなくものすっごく夕代が呆けた顔、というか顔をめっちゃ赤くしてこっち見てるううううううう、気まずいいいいていいうか、なに楽しそうな目でこっち見てんだよ先生いいいいいい、ああ、とりあえずっ?


「失礼しました!」


 ガラッと開いた扉を素早く閉める。思考終了。


「・・・・・・なんでいきなり閉めたのですか?」


 実は黎とウィヌスにはヒメキが中途半端な開けたまま硬直したので、彼女たちは中の様子が解らなかったりした。


「まさか着替え中に入ったとか?」

「いや、違うって!」


 怪しそうに訊いてきた黎にヒメキは首を振って、全力で否定した。


「しかし、なにやら中から呼んでいるような声が聴こえますよ?  入って来たほうがいいのではないのですか?」

「そうだね」


 確かにドアの向こうから、入ってきてよ~!、と夕代愛美の叫び声がヒメキには聴こえて来た。ついでに天乃眩の笑い声もだ。

 ヒメキは覚悟を決めて、もう一度、扉を開いた。



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