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 視線を感じる。

 ヒメキ自身、色々な出来事、様々な事を知ってしまった翌日のこと。授業を真面目に受けようと思うものの、ヒメキは隣からの視線が気になって仕方なかった。


「……」


 隣の席にいる少女、ウェヌスはちらちらとヒメキのほうを見ていた。もっとも、昨日も視線を向けられていたのだが、前の場合はあからさまな敵意、現在はどちらかというと観察されているのが正しいかもしれない。

 視線が険しいのには変わりはないのだが、それは常にではなく、主にヒメキがなにかするたびに視線を向けられている。

 昨日、彼女の体を見てしまったことは、ヒメキ自身も非常に申し訳ないと思っており、上手く切り出せて謝れたらと考えてもいる。彼女自身もそれに腹を立てて、こちらを睨んでいると考えれば納得ぐらいはできる。

 しかし、なにかをするたび、大きく言えば常時睨むのはいかなものか?

 昨日まであったら自分が凶悪犯だと思って警戒しているのだと話はつくが、自分の容疑は晴れたはずだ・・・・・・おそらく。

 たとえば、今日も授業中に寝ている前の席の高司夜差を先生に注意する前に起こすときにも見られていた。

 たとえば、授業中先生に言われたことを答えたりするときにも、教壇と黎を交互に見ていた。これだけなら授業を真剣に取り組んでいる姿勢に見えなくもないが、ヒメキが先生に言われて答えるときだけ反応しているので、異常なのは確実だ。

 極めつけは、休憩中にトイレに行こうとしたら尾行してきた。もっとも、ヒメキが目的地に辿り着いた途端、顔を赤くして即座に踵返し去っていったのだが、裸を見たことが軽いことだとヒメキは思わなかったが、この行動はいささか奇妙であった。

 そんな彼女の行動を自身も知らず知らずに観察していたヒメキの感想は、組織とかに在籍しているとか言ったけど諜報とか向いてないよな、と的を射ているものだった。


「な、なにかようか?」

「? い、いえ、なんでもありません」


 昼休み、購買部に行って昼食を購入しようとヒメキは廊下を歩いていたのだが、後ろからウェヌスがついてきたので、思わず振り返って尋ねてみた。

 そして、あからさまに怪しい態度で返答が返ってきた。

 本当に何もなければ、最初になにかようか? と尋ねられたら、その質問をなぜしたのかと思い、問いただすはずである。

 つまり、なんでもないという台詞は、なにかある、と言っているようなものだ。

 もっとも、ヒメキはそれに気づいているが、ウェヌスは気づいていないかもしれない。


「二人とも、何しているのかな?」


 その声を聴いて、いや、聴く一瞬前にヒメキの背筋はぞっとした。

 ヒメキは声がしたほうにふり向くと、そこには黎は立っていた。

 とても平然として、柔和な笑みを浮かべている。周りの生徒たちもチラチラと普段と変わりない人気者である黎を見ていた。

 だから、きっとこれは近くにいる自分にしか解らないのだろうとヒメキは思った。

 単純に言うなら敵意、黎からこちら側に鋭い視線を感じる。

 正確にはヒメキにいるの隣にいるウィヌスにだ。


「特になにも」


 そんな黎の雰囲気をヒメキの傍にいるウィヌスは、彼同様に感じ取れなかったのか、特に大した反応を示せず目の前に現われた彼女に言った。


「そうなんだ」


 ヒメキは黎がこちらに向ける鋭い感情が高まったのが解った。

 相変わらず笑顔だが、近くにいる自分には解った。というか、なぜ黎は怒っているのだ? 傍にいるウェヌス・リュミエールはその様子に気づいていながら平然としているのか? ヒメキは混乱して挙動不審になる。


「? カナカさん、どうかしました?」

「ヒメキどうしたの?」


 そのヒメキの態度に二人は同時に反応する。

 ただ、ウィヌスの場合は何もないのにヒメキの様子が変ったことに驚き、黎の場合は挙動不審になったのが怪しいと思ったからだ。


「いや、別に何もない」


 ただ、なぜ黎が怒っているのかわけが解らないからだ。

 その理由は、その内心を黎自身は隠せると思っているのだが、周りの人間には解らないのだが、ヒメキがウィヌスと話しているのを見かけて、単純に面白くなかったからだ。更に言うなら、黎は最初から見ていないから知らないが、後を着けていたウィヌスに対してヒメキがいきなり振り返ったため、二人の距離が図らずも近い。

 想いを寄せている男の子が昨日会ったばかりの少女、しかも美少女と、距離を縮めて話しているのを見かけて、嫉妬するなっと言うほうが無理な注文である。

 しかし、黎はその感情を表に出してはヒメキに迷惑が掛かると解っているので、表に出さないよう必死に彼女なりに抑えていた。

 だから、自分が何気なく話したのに、ヒメキがいきなり挙動不審になったので更に勘ぐる。

 しかし、これ以上ヒメキに言うのも可哀想だと思うので、彼女の矛先は当然ながらヒメキの隣にいるウィヌスに向かう。


「ねぇ、本当は何かあったのじゃないかしら?」

「だから、何もありません」

「嘘。だったら、ヒメキがこんなに動揺しない。あと近い」

「嘘付き呼ばわりとは失礼ですね。本当に貴女の前世はあの方なのですか?」

「こっちの質問も答えないのに、なに訳の解らないことを言っているのかな?」


 ザワザワ と周りの生徒たちとも騒ぎ出した。離れている場所でも解るくらい、黎が苛立っているのだ。ヒメキはおそらく、彼女の前世が禁句であるであろうと悟る。

 やばい。非常にまずい。さきほどはヒメキだけしか解らなかったが、今は他の人間も一目で解るくらい彼女たちは険悪になっているのが解る。

 ヒメキは逃げ出したい気持ちがあるが、このまま逃げるわけにもいかないという気持ちが勝った。たが、自分ではどうやって対処したらいいのか解らないのも悲しい事実だ。

 そんな困り果てたところに救いの手が差し伸べされる。


「おや、奏日たちじゃないか」


 そこに運よく通りかかったのはヒメキたちの担任の皐月鐘先生だった。


「こんなところで騒ぐのは迷惑だぞ。ただでさえお前たちは目立つのだからな」


 彼女は険悪な雰囲気を察してか、そんなことを言ってきた。

 彼女だったのがヒメキの幸いだ。仮に天乃眩だった場合は、此れ見よがしに場をそれは面白そうにかき乱していただろうし、他の教師なら一方的にヒメキが悪いと思われたかもしれない。


「話すなら別の場所にして、食事をしながらにしろ。食事しながらの会話は一見、マナー違反に見えるが、それでも普段よりはリラックスした状態で話せるものよ」

「・・・・・・、そうですね。では、場所を変えてお昼を一緒にしながら、お話でもしましょう」


 皐月鐘の言葉にそうやって従ったのは黎だった。黎はいつも周りに見せるような柔和な頬笑みを浮かべながらウィヌスに向かってそう言った。


「いえ、別に私は――」

「いいから、ややこしくなるからきなさい!」


 黎は周りに聴こえないように小さな声できつくなにか言う。


「・・・・・・解りました」


 ウィヌスも周りの視線などを察してか、黎の言葉に従った。


「先生、なんか、ありがとうございます」


 なにも解決してないが、とりあえずこの場はほっとしたのでヒメキは皐月鐘礼を言った。


「いや、君には色々と世話を―――」


 皐月鐘がなにか言う前に彼女の胸ポケットから何かが震えてきた。


「すまない、電話だ。緊急の用件以外で着信は拒否してるのだが、またつき――天乃眩のやつがなにかしたのだろうか?」

「先生もお目付け役は大変ですね」

「まったくだ。っと、そろそろ電話でなければ。お前たちも仲良くしろよ」


 彼女はそう言って背を向けながら電話をとる。二、三言なにかやり取りすると、彼女の顔が険しくなり、走っているに近いスピードの早歩きでその場を去った。

 彼女の嫌な予感どおり、また天乃眩がなにかしたのだろうか?


「ヒメキも行こう」

「場所を変えるなら早くしましょう」


 皐月鐘を見送っている後ろから、黎とウィヌスの声が聴こえてきた。彼女たちはすでに移動をしていたらしい。


「ああ、わかった」


 周りから、「び、美少女二人と昼食だと?」「副会長以外にも、あんな子をひっかけるなんて~!」「まさかと思うけどあの二人、奏日をとりあっていた、ははは、まさかな」「ジーザース!」などの怨嗟や嘆き、悪意、敵意、嫉妬の視線が集まって来たが、いまはこの場をを彼女たちと離れること第一に考えるヒメキであった。


 ◆


「……、ここは?」


 そう言ったのはウィヌスであった。

 ヒメキとウェヌスが黎に先導されて連れてこられた場所は、普段授業で使っている教室の半分ほどの部屋だった。

 折りたたみ式の長机と椅子が並んでおり、端にある本棚には様々なファイルが敷き詰めてあり、他にもホワイトボードやデスクトップのパソコン、テレビや冷蔵庫などが設置してある。


「生徒会室よ」



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