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 私はその人が嫌いだった――


 怖くて怖くて、たまらなかった――

 

 じゃあ、また、明日・・・・・と言うと


 最初は無関心で、その人も無関心で、だんだん鬱陶しくなってきて――


 また明日・・・・・・と返してくれる。

 でも、いつのまにか、その人を笑顔で応じるようになってきた。


 この気持ちを形にはしない。


 ただ、明日を迎えられたら、その人に会えますようにとだけ祈る。


 しかし、求めるものほど手に入らない。

 なぜなら、手に入らないから求めるのだ。

 だが、だからといって諦めきれないものがいる。


 先の願いも、その人の希望も、幾つも夢も―


 業が深い欲望だと思うものいるだろう。


 だが、そんなとても――――歪で――――眩しく――――輝いていた。


 ◆


 走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。

 雲で空は覆われ、世界は暗く、どこまでも漆黒の中で少女は走る。逃げるごとに、自らの足でどんどん闇に近づいていることに気づかないまま、ただ走り続ける。

 心臓が暴れる。足が折れそうだ。全身の筋肉が引き千切れそうだ。何度も咳き込み、体から全ての水分が抜けていく。動きたくない。でも、動かなければならない。


 あれはなんだ? あれはなんなのだ! あれはいったいなんなのだというのだ!?


 自分はただ友人と遊びに来ただけだ。休日を過ごす、ただ、それだけの筈だ。

 どこで間違えた? なぜ、間違えた? 脳裡にこびりついたあの光景が蘇る。


 始まりは突然だ。夜遊びの途中、好奇心でいつもは通らない道を通ったら、人気が少なくなった途端、叫び声が聞こえた。


 驚いて、最初は変質者かなにかに出会ったのかと思った。

 が、そんな考えは直ぐに打消された。


 声がしたほうに足を向けると、先頭を歩いていた友人を暗闇から誇大な何がが(、、、)掴んだ。

 おそらく、手のような形をしていたそれは、友人の上半身全てをほぼ隠していた。


 一瞬の静寂の後は阿鼻叫喚だ。


 気づいたときには自分は一人で逃げていた。何に? 何かにだ。あえて言うなら恐怖。

 立ち止ったとき、自分はどうなるかわからない。

 逃走。とにかく、逃げなければ……! せてめ、人が多くいる場所へと!

 だが、少女は混乱していた。よって、気づかなかった。自分が既に、人が溢れる通りまで辿りつけるだけの距離を、三十分ほど走っていたことに・・・・・・。

 途端、急に動けなくなった。体力の限界だ。両膝を地面につかせた。

 動け、動け、動け、動け、動け、動け――――――――――――――?


 ズンッ!


 重々しい音に、電流が走ったかのように体が震えた。

 おそるおそる、ヒューヒュー、と息を切らしながら、音がしたほうに視線を向ける。


 異形。見たこともないその姿。


 一見、腹が大きく出ている大柄の男。

 だが、衣服はぼろ布のような腰布しかなく、露出している肌は鉛色。丸太のような筋肉隆々の腕にナイフのような爪。瞳は血のように紅くこちらを見下ろし、吐き出す息は泥と腐った生物が入り混じったような臭いで鼻孔を刺激していた。

 まるでファンタジー映画にでも登場しそうな化け物。

 だが、フィルター越しの創作物と眼前に立ちふさがる異形の恐ろしさは別物だ。


 ズンッ!


 異形が一歩、少女に近づいた。


 逃げなければならない。あれが自分のところへ来た時、どうなるかなんて考えたくない。

 しかし、自分の体は動かない。もう体力の限界なのだ。

 少女に出来たことは小さな悲鳴を上げることだけだ。すでに思考は恐怖で停止していた。

 瞳から涙が溢れだし、体中が凍えるように震える。

 そんな少女の状態など構うことなく、異形の男は一歩一歩近づき、その剛腕で、花でも手折るかのように伸ばし――。


 首が跳ね跳んだ。

 

 少女ではなく、異形の男の首が。


 あまりにも突然の事に、少女は理解できなかった。

 空を覆っていた暗い雲が晴れる。それと同時に、首がなくなった異形の体も、塵のように消えていく。

 

 現在は夜だ。


 だが、満月が照らし、先ほどまでなぜか見えなかった街明かりで周囲が明るくなる。ついさっきほどまでの出来事が夢だったかのように、世界が変わっていく。

 そして、異形の体が完全に消えた先、少女はその姿を目にした。

 

 姿はその先にある街明かりが逆光となり、よくわからないが、おそらく自分と同じ歳くらいの少女。

 少なくとも、この国の人間、日本人ではない。微かにだが、瞳が緑、髪が白さを感じさせる金なのが解った。カラーコンタクトや染めている髪とは違い、天然の美しさだ。

 しかし、その出で立ちがこの場で、少なくともこの日本では奇抜だった。青、白を基調し、ところどころに赤いラインがある服の形は、第二次世界大戦前後に存在した海外の軍服を改造したような感じだ。

 なによりも、片手に細長い金属のような物体、西洋の剣を握っていた。

 いつもの日常では、その光景は異様でふざけたものだと思っただろう。だが、いま、剣を握る異国の少女にそんなものを感じない。

 なにより、その剣が、美しいが恐ろしい。黄金の柄から伸びる白刃は、目視しただけで斬られてしまいそうな存在感があり、その存在感が更に剣の美しさをきわださせる。

 それを握る少女はその剣と一体化していた。言葉通りの意味ではなく、その理由が単に彼女の美しい容姿だからや、服装と装飾品にがあっていたからではない。彼女自身もまた、見た目以上になにか惹きつけられるものを感じる。

 一本の剣と一人の少女、その両方か、あるいは混じり合った存在感が清澄な空気を放ち、殺伐とした緊迫感を打ち消していた。

 

 が、見惚れた瞬間はほんの一瞬――


 その異国の少女の両脇にある影から、這い寄るように突如として別の異形の男が二体現われ、その肢体に剛腕を伸ばした。

 

 危ないと、自分が叫ぶ暇もない。

 

 彼女は妖精が舞うかのように飛びはね、脇にあった壁を蹴り、空中で回転する。

 そして、そのまま男の一人の後頭部から眉間まで切り裂く。


「―――」


 一呼吸する間もなく、彼女は着地しながら残った男の頂点から股まで斬り裂いた。


 圧倒的。その一言につきる。さきほどの化け物がけして見かけ倒しでないことは理解している。だがらこそ、あっさりとその異形を斬り捨てる人物がなんであるのかが気になった。


「だれ?」


 そこで緊張の糸が途切れる。自分の知識欲を満たすために発した言葉が引き金っとなって、彼女の意識が霞んでいく。それは自分が自由に言葉を出しても余裕がある、生命が安全であると無意識の内に自覚したゆえに、今まで張り詰められていた緊迫感が解かれた反動だった。

 そして、意識がなくなる瞬間、少女は眼の前の異国の少女、おそらく命の恩人であろう人物は、その声が届いたのか少の方を向く。


「正義の味方」


 彼女は臆面もなしにそう言った。その言葉を堂々と口にした。


 普段の自分なら、馬鹿にしたように笑うかしてただろう。が、いまはその言葉がとても頼もしく、そして、その言葉を形にした声がとても凛として聴き惚れた。


 それを最後に耳にして、緊張の糸が解けた少女は眠りにく。


 ◆


 その一部始終を見下ろして眺めている男がいた。

 

 場所は高層ビルの屋上。およそ百メートル以上離れた地上の片隅の光景を、男は月を背にして、一切の道具を持ち合わせず、肉眼ではっきりと少女たちを見ていた。

 

 いや、男が今、見ているのはまさに正義の味方のごとく現れた少女だった。


「さて、どう動く?」


 ただ一人しかいない屋上で男は誰かに問いかけるように呟く。

 今から楽しみの映画が始まるかのような、期待の笑みを浮かべながら・・・・・・。


「彼女は彼らを出会いどう思うだろう? 彼女は彼女を見て想像どおりの行動に出るか? 良くも悪くも期待を裏切ってくれるのか? ああ、本当に楽しみだ――」


 その言葉の意味は、例えその場に誰かいても、きっと誰も解りもしなかっただろう。解るのはただ唯一、言葉を発した男のみだ。

 男は期待を込めた言葉をブツブツと言いながら、その場を後にする。


 そして、街は誰もが知る日常に戻る。

 

 隠れた事実を隠したまま……。


恥ずかしくなって消しましたが、完結した小説が幾つある証明として投稿。

即ち、エタることはありません。


なお、現在執筆中の作品がありますので、よければそちらもどうぞ。


Grant ❖伝説のない彼が伝説を持つ者共と後生同居❖



https://ncode.syosetu.com/n5147fg/

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