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至高の魔女

長文を載せるのは簡単なのですが、8000字とかを1回で載せるわけにもいかず…それとなく文を切らなきゃいけないのですが、これがなかなか難しい…

 俺が降参したことでオーラを引っ込めてくれたベアトリーチェが笑う。

『こんにちは。赤い蜥蜴人さん』

『ゴ、ゴンチワ』

 背筋が凍る。これはマズい。

『やっぱり貴方、喋られるのね。もしかして変異種は知能も高いのかしら?』

『ヘンイ、フ。オデ、ワカアナイ』

『ふーん…』


 ベアトリーチェがこちらに向かってゆっくりと歩き始める。一瞬逃げようかとも思ったが…俺はあえてその場に留まった。


 物凄く多分、対話可能な相手に思えたからだ。まぁ大部分の理由は、逃げられそうに思えなかったからなのだが。


『ベアトリーチェ様!危険です!』


 そこへ俺の本能的行動から逃げた小男がベアトリーチェの後ろから叫んだ。相も変わらず安全圏からはよく吠える男である。

 俺がそんなことを思っていると、ベアトリーチェは足を止めて溜息を吐く。


『役立たず』


 ベアトリーチェの呟きと同時に、小男の頭が丸々突然出現した水の球体に包み込まれた。

『ボァ!』

 突然の出来事に小男は泡を吐き、必死で水の球体から頭を出そうともがいたが、無駄だとわかるとすぐにベアトリーチェの足下に転がる。それから口をパクパクさせて何かを伝えようとした。言いたいことは聞かなくてもわかりそうだが…ベアトリーチェはそこで冷ややかに笑った。


『ごめんなさい。赤い蜥蜴人を買ったせいでお金がないの。あなたの不正に貯めた資産、ちょっと拝借するわね』


 この女…絶対にヤバい。


『ま、変異種の性能が分かったし…最後の最後でようやく役には立ってくれたみたいだから、あなたが死んだことは1日くらいなら覚えてあげるわ』

 ベアトリーチェは小男に見向きもせず、笑顔のまま俺の前まで歩いてくる。


『貴方、名前はあるのかしら?』

『スノイ・ブアウン』

『スノイ・ブアウン?』

『イガウ…』


 俺はその場にしゃがみこみ、尖った爪先で自分の名前を書く。すると、それを見たベアトリーチェはさすがに驚いた顔をした。

『スノリ・ブラウン…字が書けるの?』

『オデ、ユーシュー』

『ええ、極めて優秀ね』


 だって元人間だもの、というのは話すべきか?

 いや、必要以上に自分の設定を盛り込むと、前提が複雑になって相手に伝えたいことも伝えられなくなる可能性がある。少しずつ正体を明かした方がいい。

 だから今は知恵ある蜥蜴人ということで対話するべきだ。慎重に行かねば…この魔女に殺される。


 ベアトリーチェはしゃがんだ俺を見下ろし、俺の長い口の上に右手を置いた。

『貴方、自分がどういう状況かは理解してる?』


 怖い怖い怖い!その手で何すんのや!

『オデ、マモオショー、ツカーッタ。ソイテ、アナタニ、カアエタ』

『そうそう。私が貴方を買ったの。賢いのね』


 撫でられる。気持ちいいとか思ってないぞ?いや、ちょっといいかもとは思ってる。

 ベアトリーチェが右手をそのまま下顎に滑らし、顔をあげさせて、俺の目を真正面から覗き込む。


『私の名前はベアトリーチェ・スーリャ。クトルベ闘技場を経営しているの』


 それは突然訪れたが、正しく死刑宣告だった。


『蜥蜴人の変異種、きっと闘技場の目玉になるはずよ』


 あれ?交渉の余地ないやんか。これ断ったらこの場で殺されるんちゃう?

『オデ…タタカウ、コアイ』

『怖い?』

『ヴン』

『そう…』


 顎から首を優しく撫でたベアトリーチェは残念そうに俺を見下ろすが、張り付いたような笑顔は剥がれない。


『でも貴方、強いじゃない。ここにいる傭兵達って、雇うのにも相場の倍くらいお金がいる精鋭らしいわよ?まぁ…優秀な穀潰しね。私、お金ないのに』


 ベアトリーチェが指をパチンと鳴らせば、たちまち辺りから爆炎が巻き起こり、男達の叫ぶ声が聞こえる。何が起こったかは見なくてもわかる。それ以上に…首を持たれた俺はベアトリーチェから目が離せなかった。


『魔剣を売ったらムムール金貨500枚。傭兵達に支払う予定だった報酬は金貨60枚。闘技場の運営資金を横領していた豚と鼠の資産が金貨8000枚』


 これは死んだ。


『貴方の代金がムムール金貨2万枚。運送費に金貨10枚。だからそうね…闘技場を満席にしたら入場料だけで金貨1000枚…おおよそ50回戦って生き残ったら、解放してあげるわ。安心して。秘策はあるから』

『ガイホー…ホントイ?』

『ええ、私、嘘ついたことはないのよ?』


 でも希望はあるのか?

 闘技場について俺は存在を認知しているだけだ。魔物と人、魔物と魔物が戦うのを見物したり、お金を賭けたりする場所。奨学生だった俺には娯楽に使える金がなかったので、王都育ちの金持ちな友人から聞いた。


 問題は1つ。勝てるのか?


 寝起き早々の()()()()()()()テンションで傭兵達を無力化したが、それが牛頭人先輩などの屈強な相手に通用するのか?…っていうか、本当にあのテンションは何だったんだ?


『オデ、サッキミタイニ…タタカエアイ』

『大丈夫よ。秘策というのはね、これのことだから』


 ベアトリーチェは左手の人差し指を伸ばし、俺の眉間に触れるや否や…

『【狂化】』



 ああ、力が漲ってくる。



『ベアトリーチェ様…!やはり貴女こそが至高の魔女!』

 どこからかあの太った男の声がする。いや、広い視野を持つ俺が捉えられないものなどあるものか。なぜ気づかない。あそこにいるじゃないか。


『あら、ガソブ殿生きていらしたのですか?…じゃあ、スノリ。よろしくね』


 言われなくてもわかっている。あいつは俺が…

『ヒッ…!何故ですか!ベアトリーチェ様ぁぁあ!』

 必ず殺してやる。


 太った男の顔面をぶん殴り、その頭を吹き飛ばす。首からは大量の血飛沫が上がり、そこで俺は…意識を取り戻す。


 おい待て。俺…人を殺したのか?


「うあぁぁぁぁあああぁぁぁっ!ウッ…ウォエッ…」


 腰が抜けた。目の前の死体と血で濡れた自分の手を見て…すぐに吐いた。ろくなものを食っていないから、口からはただただ胃液が溢れ出る。

『理性はあるみたいだけど、精神魔法耐性が低すぎるのよね。ちょっと本能を刺激するだけで…』

 ベアトリーチェは俺の背中をさすりながら、おかしそうに喉を鳴らした。


『ね、秘策があれば、貴方は大丈夫』


 ヤバい。この女は…本当にヤバい。

評価等々して頂けるとありがたいです。


次回から戦闘回。できるかな…

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