蜥蜴人の本能と闘争
気づけば2000pv到達しました。
ゆっくりと不定期更新になっていますが、読んでくださっている方々には頭が上がりません。
今後ともよろしくお願いします。
暖かい。これは俺の本能が知っている。
「日光キタァァァアア!」
ーーバキンーー
その生命の日差しを全身で浴びたことによって、俺は目を覚まして、その勢いで立ち上がった。 首に何か引っかかっていたが、そんなこと知るものか。
ああ素晴らしきかな!この漲る活力!もう誰も俺を止めることなどできまいよ!全身が!全身が…!
「生き返るぜぇぇぇえええ!」
『ひぃぃ!』
広い視野が瞬時に周りの状況を把握する。
『なんで鎖が千切れるんだよ!』
『傭兵達!早く何とかしろ!』
太った偉そうな男に、いかにもそいつの腰巾着といった小男。それから駆けつけてきたのは武装をした…傭兵が6人。
場所は…なるほど。
「森の中か」
久しぶりに嗅ぐ森の香りに一瞬緊張がほぐれ、不意に腹が鳴った。そういえば、牛頭人先輩と檻で言葉を交わしていた時は1日1食、わずかなクズ肉を食うばかりで、後は無駄なエネルギーを使わないために寝ていたんだった。あれは空腹にさせて暴れさせない狙いがあったのか。
何にせよ、腹が減ったな。
『おい!早く拘束しろ』
…アア、不味ソウナ肉ガ何カ叫デイルゾ。
『『『『『『うぉぉぉぉ!』』』』』』
『大切な商品だ!傷つけたらベアトリーチェ様に殺される!』
傭兵達が大声をあげて突撃してくる。しかし、俺は好物を後に残しておくタイプなんだ。最初に相手するのはこいつらじゃない。
動け、我が肉体よ。食事の時間だ。
『なっ!』
『ひっ!』
脚にほんの少し力を込めて疾走する。後ろを確認すると、俺に飛びかかってきた傭兵達はさっきまで俺が立っていた場所に集まっていて、慌てた様子で俺を見送る。
『お逃げを…!』
無駄だ。雑魚から狩るのは当然のことだろう。
『来るなぁ!』
『ひぇぇえ!』
小男は逃げたか。この手の腰巾着は逃げるのだけは早いな。
「まぁ、気にする必要なしだな」
素早く接近して、すれ違い様に太った男の無防備な顔面を右手で掴み、それを前方に投げ飛ばす。
『ぷぎょあっ!』
そこそこに重かったが、そいつは何度も地面をバウンドしながら30mほど飛び、何度か転がって停止する。
「身体がまだ冷えているか…」
起き上がることも、這うこともしないそれに背を向けると、そこにいた傭兵達の顔は呆気に取られていた。
「俺は脂肪を好かんのでな」
さぁ戦おう。闘争だ。我ら蜥蜴人が常に追い求めし、龍に至らんとする試練よ…!
俺が1歩脚を踏み出すと、端にいた1番若そうな傭兵が逃げ腰になる。俺は瞬時にそいつに狙いを定めて突撃する。
『来るぞ!』
『陣形を…!』
『速い!』
『うわぁ!』
さっきの小男もそうだが、弱い奴は自分に向けられた敵意に敏感だ。逃げ腰になっていたそいつも俺と視線があったためか、腰を抜かした。手にしていた剣も落とす情けなさ、同じ蜥蜴人なら八つ裂きにしてくれよう。
『退け!』
腰を抜かしたそいつを庇うように俺との間に1人割り込んできた傭兵は、防御に特化した分厚い長方盾を構える。しかし俺はその盾を左手でなぎ払い、防御が崩された傭兵の顔に飛び膝蹴りを見舞う。弱い奴を守ろうなど…愚の骨頂にもほどがあるというものだ。
そして庇われた雑魚の前に立つと、そいつの頭上から右の拳を振り下ろす。
『ダニー!トマス!』
『野郎!』
そこまですると、ようやく傭兵達は明確な殺気を俺に向けた。それでこそ傭兵だ。
『死ねや!』
『うぉぉおおおおおおお!』
『ぬぉりゃぁぁぁあああ!』
いいぞ!いいぞ!もっとだ!もっと激しい闘争を…!
怒りに任せて槍を突き出してきた3人目の傭兵の攻撃を横飛びで躱し、その穂近くの柄を掴み、3人目ごと持ち上げると、そのまま振り飛ばす。次に来た剣を握る4人目は槍の石突きで喉をつき、地面に手をついて喘いだところを正面から蹴り飛ばした。
しかし、5人目は我が闘争に水を差すように俺に背を向けたため、穂先が相手に向くように持ち直した槍を投げて、膝裏を貫く。
「なぜ逃げる。つまらんぞ…」
最後の6人目と対峙する。
『ジーン、マイケル、アレク…』
6人目が腰に携えていた剣を抜く。するとその剣は薄っすらと赤く光りを放った。
「魔剣か…良きかな」
俺は近くに落ちていた4人目の剣を右手で拾い、切っ先を6人目に向けると、顔の横まで引いて構える。
魔剣相手に斬り合いを挑めば、ただの剣では負けるが必然。ならば、この身は1本の槍となり、6人目を貫こうではないか。
『貴様…一体何なのだ』
6人目が不意に俺に対して問う。
「我こそは…」
………………あれ?
『キェェェエエエエエエエエエエエエエエ!』
しまった!不意打ちか!
「オォォォオオオオオオオオオオオオオオ!」
これより先、俺は槍となるぞ…!覚悟せよ人間!
ーーさぁさぁ本日の目玉商品!オーフィン砂漠で偶然見つかった世にも珍しい赤い蜥蜴人!ーー
「あっ!」
何故か全身に力が入り、物凄い勢いで前に飛び出る。その先には禍々しく光る剣を上段で構えている男が立ち塞がっていた。そして、お互いの間合いに入る寸前のところで、顔の横にあった俺の剣が伸びる。
『ェェェエエエエエエエエエエエエエエ!』
「ォォォオオオオオオオオオオオオオオ!」
男の剣が振り下ろされる。どういうわけか、その一挙手一投足が目で追える。それはまるで世界の時間がゆっくりと流れているかのようで…
「取ったぁぁぁぁぁあああああああああ!」
男の剣が俺に至るより先に、俺の突き出した剣が男の腹部に刺さり、俺の勢いは止まらず、そのまま10mくらい後ろにあった木に衝突する。俺と木に挟まれた男は吐血し、両手で握っていた剣も手放す。
「…は?」
そこで俺はようやく自分がしたことに関して、その全てを思い出す。
『赤い蜥蜴人…これほどか…』
俺は弾けるように男から離れたが、男は俺が刺した剣によって木に釘付けにされていた。その腹からは少しずつ血が流れ始めており、異様に温まった身体があっという間に冷めていく。
「違う。あの、これは…本当に違くて」
俺自身、何が起きたのかわからなかった。とりあえず…
『あらあら、派手にやったわね』
彼女には降参した方が良さそうだ。
『ゴーザンスル…オデ、コンナツモイヤ、ナイ』
果たして、こんな有様で命は助かるのか…少なくとも、彼女…ベアトリーチェ・スーリャはヤバい。
『わかってるわ。そもそも役立たずはいらないもの』
気配が1つもしなかったし、多分、蜥蜴人の本能がめちゃくちゃ警鐘を鳴らしている。
俺はそこら中に転がる傭兵達の中心地に振り返り、目に見える妙なオーラをまとったベアトリーチェに両手を挙げた。
ブックマークや感想等々、お手柔らかに…あると想像以上に嬉しいものですね。うん、まったく。




