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俺の価値

『さぁさぁ本日の目玉商品!オーフィン砂漠で偶然見つかった世にも珍しい赤い蜥蜴人!』


 …あれ、なんか騒がしいんだけど。安眠妨害はやめてもらいたいな。こちとら低血圧なんだから…


『『おぉ!』』


 しかもやけに熱気を感じる。もしかして倉庫じゃないのか?…ん?

「倉庫じゃないのか!」

 俺が謎の熱気に誘われて目を覚ますと、周囲から大歓声が沸き起こる。

「何?何?何?」

 慌てて周囲を確認する。そして俺は…自分の失態に気がついた。


『本当に赤い蜥蜴人だ』

『まだ若い個体だな』

『買うか?』


 場所は倉庫じゃなく、サーカス団を呼べるくらい大きなテントの中で、俺は三方を満員の客席に囲まれた舞台の上に檻に閉じ込められたままいた。

 ここは…間違いなく競りの会場だ。

「呑気に寝てる場合じゃなかった!」

 まさか客の熱気で目を覚ますことになるとは。

 俺は檻の横に立つ魔物商の男に駆け寄る。

『アノ、チョット…マッデ!』


 交渉もしていないというのに…!まだ間に合うか!


 俺は檻の格子を叩いて魔物商の男にアピールすると、笑っていたそいつと目が合う。

『オデ、ニンヘンゴ、ワカル!カシコイ、オデ、カシコイ!』

 だから危険なところには売らないでくれ!

『おぉ…ハハハッ』

 笑った。通じたのか!


『ご覧の通り非常に元気な個体ですよ!どなたでも、ムムール金貨5000枚から!』


 …ダメだ。通じてない。

『マッデクエ!ハナシヲ、ハナシヲキイテウエ!』

 なぜだ!なんでもっと人間語を練習しなかったんだ!くそっくそっくそっくそっ!


『5500!』

『6500!』

『7000!』

『8000だっ!』


 俺が焦れば焦るほど、どんどん俺の値段が上がっていく。当時の俺を含めた平民程度ならムムール金貨などまず見たことがないというのに…それが数千単位で動いてやがる。


『ハナシヲ…!』

 精一杯叫ぼうと腹に力を入れる。しかし次の瞬間、俺が何を叫んだのかわからなくなるほど会場がどよめく。


『2万よ』


 その発端となったのが、妖艶さを服でも着るようにして感じさせた若い女の声だった。彼女の急な値段の吊り上げに、競っていた連中は黙り、傍観者は大歓声を上げる。

『さ…さぁ、ベアトリーチェ・スーリャ様が2万を提示しました!他はおられませんか!』

 さすがに魔物商も、たかが蜥蜴人にムムール金貨2万枚の値がついたのには驚かざるを得なかったらしい。急に2倍以上の金を積まれてしまえばい…もう誰も何も言えまい。

『マッテ…ハナシヲキイテウエ…』

 当然、俺すら黙らざるをえない。

 俺は魔物の相場を知らないが、交渉しようにもムムール金貨2万枚には到底太刀打ちできないことくらいはわかる。今から「俺、もっと価値あるんすけど…」と言ったところで、その価値が金貨2万枚の壁を越えられるはずがないのだ。


『ではムムール金貨2万枚で、ベアトリーチェ・スーリャ様が落札!』


 落ち着け。そのベアトリーチェ・スーリャなる人物が魔物をどう使うか…まだはっきりしたわけじゃない。女だし、血生臭い闘技場なんかには疎遠かもしれない。まだ助かる可能性はある。彼女と確実にコンタクトを取るんだ。


『買ってから言うのもあれだけど、赤い蜥蜴人って、染色されているわけじゃないのよね』


 ベアトリーチェがゆっくりと舞台に上がってくる。

『もちろんでございます。我が商会の鑑定士からも、この蜥蜴人が元々赤いと聞いております』

 身長は180cmくらいで、細身だが、出るとこは出てる銀髪の美女だ。彼女はその長身で腰まで至る長く艶やかな髪を揺らしながら俺に近づいてくる。それを遠巻きに見る男達が口を半開きになるが…どうにも妖艶さだけではない…言葉で言い表せないような異質な雰囲気を持っている。もしかしたら魔女や女狐の類やもしれない、そんな感じだ。

『アノ、オデ、ハナシデキウ!』

 何でもいい。とにかく今は通じろ。

『…今、何か喋った?』

 よしよしよし!

『いえ?魔物も独自の言葉を持つようですからね』

 ノーーーーー!邪魔をするなクソ野郎!

『でもご安心を、隷属の首輪があるので、これらはどれだけ詠唱しても魔法を使うことはできませんよ』

『ふーん、なるほど。だからかしらね』

『はい?』

『いいえ。いい買い物をしたと思っただけよ』


 ここで何を言っても魔物商に邪魔される。ベアトリーチェに買われた以上、もっと適切な場面で口を開こう。それがいい。


 俺は格子から離れ、腰を下ろすと…ひたすらに魔物商を睨みつける。でもこいつらに捕まらなかったら、オーフィン砂漠でのたれ死んでた可能性が高いわけで、何とも複雑な思いだ。いや、複雑なことは考えない方がいいな。


「もう寝ない…絶対寝ない…」


 寝てる間に拉致られて、寝てる間に競りにかけられた。下手に頭を使ってまた寝るわけにはいかない。


『一応、睡眠魔法をかけておきますね。道中、暴れられても困るでしょうから』

『ええそうね。お願いするわ』


 もう同じヘマはしない。しな…あっ…………

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