しかし実際には。
2度目の転生から3日後、気づくと俺は檻の中にいた。
どうして檻の中にいるかって?
経緯は簡単だ。砂漠をひたすら真っ直ぐに走っていたら、日が落ちてしばらくすると、急に脚が動かなくなったのだ。そして砂地に突っ伏した俺は…なぜか突然意識がなくなった。目覚めるとどこか暗い倉庫の中…おまけに檻の中だった。簡単だろう?
思うに……蜥蜴人は変温動物のようだ。だから気温が下がり、体温が下がっていたか…走り過ぎて、体温が上がっていたか…多分、そのせいで脚が動かなくなって、睡魔が襲ってきたのだろう。
今も暗い倉庫の中は涼しいため、めちゃくちゃ眠い。
「おい、起きてるか?」
ちなみに転生から3日後というのは適当な感覚で、実際俺が寝ていた時間はよくわからない。しかし「ここにお前が来て2日も寝てたぞ」と親切に教えてくれた人がいた。そう、隣の檻に入っている…
「どうにかこうにか…」
牛頭人先輩だ。
この牛頭人先輩曰く「蜥蜴人が暴れないように気温の低い暗所で管理しているんだろうさ」とのこと。
猛々しい牛の角を持つ先輩は上半身裸だが、その身は茶色い毛で覆われていて、防寒対策されており…そもそも恒温動物なのか。憎き哺乳類め。
「あの先輩…毛を売ってもらえません?高値で買いますよ?」
「馬鹿野郎、お前一銭も持ってないだろ」
「そこをなんとか…」
「そもそもできねぇだろ。俺達は…来やがった」
倉庫に一瞬光が差す。檻の中から見える景色は積み上げられた木箱に埋め尽くされていて、その時々差す光の正体が何なのか最初はわからなかったが、どうやら人が出入りする時に扉から漏れる光のようだ。
『ようやく出荷だ』
『売れるのか?』
『牛頭人に小鬼、そして蜥蜴人。豊作じゃねぇか』
『だな。赤い蜥蜴人なんていうのはレアだしな』
足音が2つ、こちらへ近づいてくる。
「くそっ…人間風情が調子に乗りやがって」
牛頭人先輩が荒々しく鼻から息を吹き出すと、俺達の前に2人の男が並び立つ。
「あの、俺…どうなるんすかね?」
俺としてはとりあえず交渉しておきたいところなのだが…
『おい、この蜥蜴人、なんか言ってるぜ?』
『どうでもよくね?』
言葉が通じない。
「そんなの俺たちゃ奴隷として売り飛ばされるんだろうさ。人間どもは悪趣味だからな」
代わりに答えてくれたのは牛頭人先輩だ。彼は俺に見向きもせず、俺達の前で談笑する男達を睨みつけていた。蜥蜴人と牛頭人は言葉が通じるらしいが…
『てか、隣の牛頭人、めっさ殺気立ってるワロタ』
『ちょっと黙らせちゃう?やっちゃう?』
人間の言葉がわかるのは俺が人間だったからだろうか。となると…一応、ここは帝国らしい。しかし…
「先輩先輩…あんまし敵意向けてると…」
「あ?…ヌォォォォォォォォオオオオオオ!」
急に先輩が仰け反って絶叫する。
『『ウェーイ』』
俺は無意識に自分の首に手をやる。そこには魔法に精通していなくともわかる禍々しい首輪がつけられていた。
【隷属の首輪】
牛頭人先輩曰く「この首輪のせいで俺達魔物は力を制御されっちまう」とのこと。首輪には力の抑圧機能と懲罰機能が付いているらしく、目の前の男達の気分次第で痛めつけられる。これは大いに問題だ。大問題だ。だってそれって…
「あー、俺、魔物なんやなぁ…」
炭鉱都市アッカリアや帝都ムムルカンドでは気温が低いためか治安がいいためか…蜥蜴人がいなかった。俺はてっきり、蜥蜴人はエルフやドワーフと同じで人間と共存している亜人種だと思っていた。しかし実際には…
『おいおい、この蜥蜴人もなんか言いたげだぜ?』
『お?やっちゃう?』
首を中心に激痛が全身を駆け巡る。
「グァァァァァァァアアアア!」
しかし実際には人間と敵対する魔物だった。
『『ウェーイ』』
…何がウェーイだ馬鹿野郎。




