神々の理
第2章始まりました。
小さな泉には下級悪魔が人間を捕食している映像が映し出される。その泉を囲んで座るは4柱。深緑の肌をした小鬼の神、白銀の毛並みをした人狼の神、真紅の鱗をした蜥蜴人の神、そして漆黒の髪をした人間の神である。
「だから俺は反対だったんだ」
映像の下級悪魔が禍々しく変身を遂げる最中、真っ先に声をあげたのは小鬼の神だった。
「ご覧よ。俺達が何かする前に魔王が誕生してしまったではないか!」
向かいに座る蜥蜴人の神も深く頷いた。
「貴重な転生者をこのようなことに使ってよいのか?やはり判断に誤りがあったのでは?」
すると蜥蜴人の神の左に座る人狼の神は嘲笑うように鼻を鳴らした。
「私としては今回の件、その全てを人間の神に一任しておる。今更外野がとやかく言うこともあるまい」
3柱の視線が人間の神に集まる。
「…魔王誕生ですか。ふふん」
人間の神も上機嫌に鼻を鳴らして笑う。そして両手のひらを上に向け、小さく首を傾げた。
「いやぁ…まさか魔王誕生がこんなに早いとは」
「「「は?」」」
「まったくの想定外ですよー、ははは」
「「「…」」」
それぞれが何か言いたそうにするが、人間の神が片手で制して続ける。
「それも勇者スノリ・ブラウンが糧となって生まれた魔王とは…ふふふ、はははは」
人間の神はただ陽気に笑い始めると、小鬼の神は怒りを露わにし、蜥蜴人の神は溜息をついて空を仰ぎ、人狼の神は目を丸くする。
「だからスノリ・ブラウンには特別な力を与えるべきだったんだ!」
「ま、まぁ…転生適格者は少ないですしな」
「で、人間の神はどうするつもりだ?」
人間の神はしばらく泉に映る魔王を見ると、その口角を不自然なほどに吊り上げる。
「スノリ・ブラウンに能力を授けなかったのは、彼に試練を与え、その過程で与えようと思ったからです。しかし魔界の連中は早々に勇者スノリ・ブラウンを潰してきた。対応があまりに早すぎますね。いやぁ、本当に面白い」
人間の神は右手の人差し指を泉に触れ、映像を1人の少女に切り替える。
「誰だこの小娘は?」
「小鬼の神、これはアメリア・リッカーではなかろうか」
「アッカリアの天才児か」
「ははは、蜥蜴人の神も人狼の神もよく覚えていますね」
人間の神は左手の指を鳴らす。
「彼女に勇者の代役を任せようかと。元々は勇者スノリ・ブラウンを手助けするための力ですが、何、今回の魔王なら、彼女で対処可能かもしれませんから」
人間の神が後ろに左手を出す。すると、ふわりと天使が現れ、天使は人間の神に紙と筆を手渡した。
「アメリア・リッカーにスノリ・ブラウンの死亡を知らせましょう。魔王の仕業であることも含めてね」
人間の神が紙に筆を走らせるので、その左右から小鬼の神と蜥蜴人の神が覗き込む。
「憎しみをアメリア・リッカーに植え付けるつもりか」
「負の感情だけでは魔王に勝てませんぞ?」
「ふふん、本命は彼女じゃないですから」
人間の神は書き終えた紙と筆を天使に返すと、天使は一礼した後に姿を消した。
「本命とは?」
人狼の神の問いに対して、人間の神はまた泉に映る映像を変える。今度は…魔王が立ち去った後の現場だった。そこにはなぎ倒された木々と捕食し終わったことでできた血溜まりがあった。
「やっぱりスノリ・ブラウンの復活こそが望ましい。リベンジマッチ、最高に面白そうだと思いませんか?」
人間の神は目を細めて笑うが、そこで小鬼の神が勢いよく立ち上がった。
「ありえんぞ!死者を蘇らせることは象徴会議にて禁止されたはずだ!」
蜥蜴人の神も深く頷いた。
「転生し直すのも不可能であるぞ」
4柱以外にも多くの神が存在しており、彼らは象徴会議によって様々な世界の理を形成した。それは神々が管理する精霊界にむやみやたらと干渉しないための理である。小鬼の神と蜥蜴人の神の指摘もその理に基づいたものだった。
「転生は能力を発揮しきれなかった者に対して我々が再挑戦を許す行為だ。再挑戦して死んだ者には行えないはずではありませぬか?」
【神々が定めた人間の転生要件】
生前において、何かしらの未練がある者。
重大な悪事に手を染めず、人格者だった者。
人間に転生経験がない者。
蜥蜴人の神の指摘には人狼の神も頷く。しかし、人間の神の笑顔は崩れない。
「転生先を人間にしなければいいだけの話ですよ」
人間の神が1度頭を下げる。
「そこで皆さんに協力していただきたいことがありまして」
人間の神が頭を上げ、その顔を見た3柱は溜息をついた。
「ふふん、そう呆れずに」
人間の神は泉に映る血溜まりを見て、また上機嫌に鼻を鳴らした。
さて、スノリ・ブラウンは…どんな転生を遂げるのでありましょうか。
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