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真相で出会う者達

 旧ムムルカンド大聖堂は帝都にあるムムルカンド大聖堂とほぼ同じ外観をしている。その背景には数百年前に魔物が増え、森に建てられた大聖堂に通っていた信者達が身の危険を訴えたことにより、帝都内に移転されたというものがある。そのため、現在では魔物が住み着いており、新米冒険家達の訓練の場としても度々使われる。

 神聖な大聖堂に悪魔が住み着くとは…いよいよ世界の終わりだな。まぁ…ほぼ遺跡みたいなものだけどさ。


「あれだな」


 俺は箒に乗って帝都の城壁を越え、旧ムムルカンド大聖堂に向かった。意外なことに1人で城壁の外へは行ったことがないので、妙に緊張感がある。念のため、下に広がる森からの襲撃に備えて高度を高く保っているが、いざ戦闘になったら…ほぼ100%、最弱魔物として知られるスライムやゴブリンにも勝てない。


 だって中等教育の段階では魔物との戦闘など経験することができないからだ。戦闘系魔法はもちろん、武器の振るい方すら、ほんの基礎を触れただけだ。確かイレイラは雷魔法【電撃】を早い段階で習得していて、同級生達の中でも優秀と言われているが、俺はまだ【電撃】すら使えない。


 戦闘系魔法未習得、剣も苦手、そんな俺がどうやって悪魔と戦うんだか。否、戦わずとも…ワンチャン、イレイラとリーエ先輩を連れて離脱すればいい。筋肉はあるから、女子の1人や2人抱えて逃げるのは造作ない。


「よし、大丈夫」


 旧ムムルカンド大聖堂の上空に到着する。ざっと100mの高さはありそうな建物で、全体をツタが覆い尽くしていた。地震が滅多に起こらない土地柄のおかげか、数百年前から建物が壊れたりもしていないらしい。尤も、大聖堂の先端には鐘のようなものが吊るされていたようだが、劣化したのか、鐘がなく、ポカリと空間が空いていた。

 俺はその先端を回りながら、上から建物の様子を伺う。

「魔物はなし。そういや、この森で夜行性の魔物って少ないんだっけか」

 月明かりを背にゆっくりと高度を落とす。

 佐藤拓郎的には夜の肝試しとか苦手な方なわけだが、さすがにそうも言っていられない。

「あー、くそ…何も出るなよ…」

 地面に足をつき、俺は箒を構えて、旧ムムルカンド大聖堂の入口に立つ。すると俺はある違和感を覚える。

「なんか扉…新しくね?」

 見上げるほど大きな木製の2枚扉。それで入口を閉じているものの…数百年前に放棄されたとは思えないくらい、扉が風化していなかった。

 俺は一旦、扉を開けた瞬間に発動するブービートラップの存在を警戒しようと思ったが、すぐに諦めて右の扉に全体重をかける。


 ここで死ぬようなら、もう死んでいる。


 扉は相当重く、本気で押して、ようやく少しずつ動き出す。しかし…だった。


 ーーグギギギギギギギギギギィーー


 扉を開ける時にめちゃくちゃデカい音が旧ムムルカンド大聖堂に響き渡る。もはや「来訪者ですよ」と知らしめんばかりに。

「お邪魔しまーす」

 大聖堂の中を覗いても真っ暗で何も見えない。本来ならステンドグラスがあるはずの正面奥も…ツタに光を奪われている。

 魔物が襲ってくる気配はないので、逃走ルート確保のため、押した扉を最後まで開ける。いざという時はこの扉を抜けて、飛行魔法により即時離脱。帝都に帰還する。


 2人の死体を確認した時も…離脱だ。


「いくぞ」

 扉から手を放し、右手で箒を構えて、左手でランタンを持つ。心の準備もOK。さぁ行こうか。地下にいるらしいから、正面奥の祭壇から地下に通じる階段を探そう。

 1歩、2歩、3歩…


 ーーグギギギギ…バタン!ーー


 扉から離れたが最後、扉は勢いよく閉まってしまう。

「は?え…ちょ…くそったれ!」

 俺は慌てて扉に戻り、扉を中から開けようとランタンを地面に置いて扉に触れるが、見事に閉じ込められた。これはRPGの後戻りができないやつ。大抵はボス戦が控えている。

「ボスって…倒せるかよ」

 仕方なく前を向くと、


「クヒヒッ、やぁスノリ・ブラウン」


 大聖堂内が急に青い火で包まれた。何事かと思えば、室内の至る所に青い火がついた蝋燭が立てられていた。そして…50mほど先にある祭壇には誰かが立っている。

「誰ですか?」

 わかってる。多分、件の悪魔だ。

「僕は下級悪魔。名前はない」

 やっぱり。なんかすげぇ演出とすげぇ容姿してるもん。

「ロディ・ムスファに化けてたのはあなたで間違いないか?」

「そうだよ?なんでわかったのかな?」

「本人を殴ってきたからな」

「あぁ、あの小僧ようやく見つかりましたか」


 どうする?マジでどうする?


「イレイラとリーエ先輩は食ったのか?」

 そう、まずこれ聞こう。もし食ったなら、即時撤退の策を考えないと…


「クフクヒッ、まだだよ。ほら?」

 悪魔は両手にそれぞれイレイラとリーエ先輩を持っていた。しかし2人とも気絶しているばかりではなく、酷い出血が確認された。

「生きているのか?」

「まだね」

 逃げられない…!


 いや、何1人助かろうとしてんだ俺。ここにきた段階でお察しの展開じゃないか。


「なぁ?俺は2人を連れ戻しにきたんだが、解放してくれるか?人を食いたいならロディを食えばいいじゃないか?」

 戦ったら絶対死ぬ。それだけはわかる。

「あんな不味い肉よりもっといい肉があるからね。とてもじゃないが小僧では話にならない」

「いい肉?…誰なんだ?」


 悪魔が消えた。


「君さ」


 悪魔が次の瞬間には扉の前にいた俺の目の前に現れた。

「ぬおっ!」

 俺は反射的に殴りかかろうとしたが、悪魔は俺の前にイレイラを突き出してくる。人質を盾にするとはやはり悪魔だな。

「ぬぅ…って、俺?」

 何かの聞き間違いかと思いきや、悪魔はイレイラとリーエ先輩を簡単に後方に投げ捨て、手早く俺の腰を両手で掴み上げてきた。こちらが抵抗する間もない速さだった。


「ちょ…男食うのか?勘弁してくれ」

 何言ってんだ俺?

「あぁ…いい、いいよ。クヒヒクヒッ、最高級な魔力の匂いがする」

 俺を赤ん坊のように天高く持ち上げた悪魔は舌舐めずりをする。本気で食うつもりか。


 じゃあ俺、死ぬのか?


「なぁ悪魔…俺、そんなに美味くないぞ?多分」

「いや、お前は絶対に美味い。不味いわけがない。今日の朝、もう我慢ができそうになかったんだからな」

 あの時、告白した相手のイレイラを見ず、やたらと俺を見て話しかけてきたのはそういうことだったというわけだ。

「俺に目をつけたのは?」

「クヒッ、今朝だよ」

「それまで何人食った?」

「ネネ・ポーシェ、ゼモニア・クルツ、ウェン・アリソン、アルナ・ピア、キリア・ルームシア。5人だな」

 他にも3人いるのかよ。ロディのやろう。

「どれも女だろ?男は口が合わないんじゃないか?」

「大丈夫だ。口直しが必要なら、イレイラ・ブルシェイプとリーエ・アイゼンシュタインも食うことにする」


 これ以上の時間稼ぎは出来ないか。


「クヒッ、命乞いは済んだか?」

「応じてくれる気には?」

「ならんね。僕は魔王になるから」

「意味がわからん」


 が、1つだけ案が浮かんだぞ。おとんは絶対にやるなと言っていたけど、今はその言いつけを破る。


「じゃあ箒、しまっていいか?」

 俺は持ち上げられながらも箒を持っていたので、それをチラつかせると、悪魔は余裕ある笑顔を見せた。

「クヒックヒッ、いいよ」

 俺はゆっくりと箒を空間魔法にしまい、空いた両手を脇腹を掴んでいる悪魔の大きく強靭な手に添える。


 やれるかやれないかの問題ではない。そう、ここからは…

「【掘削!】」

 やるかやらないかの問題だ。

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