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真相で待ち構える者

 血生臭い。静か。ここはどこ?

「うっ…」

 私はリーエ先輩に連れられて…


『あなたがアルナ達を殺したのね…!』

『何の話ですか?一体どうして私が…』

『知らないとは言わせないわ!どうせあの子達の尾行に気づいていたのでしょう!どうして殺す必要があったの!』

『何かの誤解です。そもそも尾行される意味がわからない』

『うるさい。うるさいうるさいうるさい…!』

『リーエさん、イレイラ…そんなところで何をしているんだい?』


 あぁそうだ。ロディ先輩が現れて…それから?


「ん?お目覚めかい?」

「ロディ…先輩?」

 重たい瞼を押し上げると、全面石造りの暗い部屋の中で寝ていたらしい。私は冷たい床を感じつつ、ゆっくりと上体を起こす。すると、部屋の中央に1本の燭台が立っていることに気づく。

 その燭台には…なぜか青い火がついた蝋燭が1本あり、青い光は燭台の隣に置かれた木の椅子とそれに座る…ロディ先輩を不気味に照らした。

「ここはどこですか?門限には帰らないと」


 なんかロディ先輩の雰囲気が違う?


「ここ?ここかい?そうだな…僕の食堂かな」

 ロディ先輩は私を見てニヤリと笑った。やはり、彼は私が知るロディ・ムスファではない。わざわざ変身魔法を使ってまで私に何の用なのか。

「あなた…誰だ?」

 立ち上がり、空間魔法から剣を抜く。しかしそれを見たロディ先輩に扮する者は腹を抱えて笑い…身体が大量の血飛沫を出して爆散する。

「なっ…!」


「クヒッ…僕は下級悪魔。名前はないよ」


 飛び散った血が勢いよく何もなくなった椅子の上に集中すると、ロディ先輩ではなく、そもそも人間ではない何かが姿を現した。

 赤い肌、鋭い牙、鋭い爪…そして背中には背丈と同じくらいの大きさがある羽が生え、尻尾もある人型の怪物。それは名乗っている通り、私が資料で見たことがある下級悪魔の姿だった。

「悪魔…!なぜ帝都に…」

 状況がまったく理解できない。悪魔を呼び出す悪魔契約は禁止されているはずだ。一体誰がこんな真似を?

 剣を構えて周囲を見回すが、暗くてよく見えない。食堂と言っていたため…ここで私を食うということか。


「クヒクヒッ…久しぶりに精霊界に来れたんだ。あんなヘタレ学者の小僧との取引なんていちいち守れるかってんだよなぁ」

「何を言っている?」

「まぁいいさ。それで?クヒヒッ、その剣でどうしようというのさ」


 逃げるにしても、目の前の脅威と戦う必要がある。やるしかないのか。

「ふぅ…イレイラ・ブルシェイプ、参る」

 私は剣の切っ先を下級悪魔に向ける。

「【電撃】!」

 切っ先から出た1本の細い電流が下級悪魔の胸を貫いた。

「クヒヒクヒヒッ、その程度か?」

 下級悪魔は少し焦げた胸を撫でるだけで、焦げた痕も消えてなくなった。


 ダメだ、勝てない。雷魔法【電撃】が私の唯一持つ戦闘系魔法なのに、それが効かないとなると…帝都中央学院に入学する前の私では到底倒せない相手だ。


 でも諦めるわけにはいかない。ここで諦める。それは死に直結するのだから。

「【属性付与】【肉体強化】…」

 絶望で身体が動かなくなる前に。

「はぁぁぁああああ!」

 下級悪魔に向かって突進する。

「クヒヒヒヒッ!そぉら!」

 下級悪魔の尻尾が真っ直ぐ伸びてきたので、それを剣で弾き、さらに…もっと前に…


 ーーザクッーー


「え?」

 力が抜ける。背中が…腹が痛い。まだ、一太刀も浴びせていないというのに、どうして私は倒れていく?

「尻尾が自由に動く、なぁんて思わないかぁ?」

「尻尾?自由…?何を…」

 下級悪魔を目前にうつ伏せで倒れた私は、床に広がる自分の血を見て事態を把握する。


 背中から刺されたのか。いつ、どうやって…弾いた尻尾が私の背後に回ったというのか。そんなの…人間としか手合わせしたことがないのに、どう対応すればいいんだ。


「クヒックヒックヒッ…死ぬなよぉ?お前の魔力も悪くないが、お前はもっと大物を釣るための餌なんだからなぁ」


 尻尾に毒でもあったのか、まったく四肢を動かせない。

「何を言っている…」

 大物?釣る?


「スノリ・ブラウン」

「は…?」

 なぜ彼の名前が下級悪魔の口から出る?


「僕は彼を一目見た時からもう…惚れ惚れしてしまったよ。あんな特上の魔力を持っている人間なんてそう簡単には見つからない。さすがは転生者といったところかな」

「てん…せい…しゃ…?」

 意識が遠のく。下級悪魔の耳障りな笑い声が小さくなっていく。


「転生者を喰らえば、僕が魔王様になれる。あの絶対的な魔力、必ずや僕の物に…!クヒヒクヒヒクヒヒヒヒ!」

「スノリ…逃げ…」


 根拠はないが、彼は絶対に私を助けようと下級悪魔の下まで来てしまうだろう。ああ、それがどれほど嬉しいことか…それがどれほど申し訳ないことか…


 どうか神よ、スノリが私の期待を裏切りますように。

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