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真相に近づく者

「んー!んんん…!」

 ロディ先輩は後ろ手に手錠のようなもので拘束されて、足も縄で縛られていた。そして口は大量の布を詰められた上から縄で縛られて、簡易な口枷が施されていた。俺はまず、その口枷から外す。


「君は誰だい!助けてくれ!」


 ロディ先輩の第一声が涙目ながら発せられる。特別な怪我もなく、心身に異常はなさそうだった。しかし俺が助けたいのは…この人じゃない。というか、この人が犯人だと思っていたのに。

「今朝、中央地区の公園でイレイラの隣にいましたスノリ・ブラウンです」

 俺はロディ先輩と目を合わすことなく、手早く足の縄を解きにかかるが、解き方がわからない。切った方が早そうだった。

「切れる物を持ってきます」

「ままま待ってくれ!」

 待てと言われたら待つ性分のため、立ち上がりつつも、怯えきったロディ先輩を見下ろす。すると彼はとんでもないことを口にした。


「僕は…一昨日からここで拘束されている。君はイレイラに頼まれて僕を探しに来てくれたのかい?」


 …何を言っているんだこいつは?一昨日から拘束されているだと?

「今朝、俺はあんたに会っているぞ。そしてイレイラはリーエ・アイゼンシュタインと共に行方不明だ。あんた…2人の行方不明に関わっていないのか?」

 俺の問いにロディ先輩の顔は真っ青となった。


「まさか…あいつが…嘘だ」


 こいつ、絶対に何か知ってる。

 俺は床に転がっているロディ先輩の髪を掴み、その場で引っ張り上げて座らせる。

「俺が会ったロディ・ムスファは誰だ…!」

 髪を掴んだ左手を放しはしない。手がかりがあるはずだ。絶対に吐かせる。

「痛い痛い…イタイイタイィ!」

「吐け!2人はなぜ消えた!」

「アァ…ク…悪魔…だ!」

 ロディ先輩は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、さらに耳を疑うような単語を口にした。


「僕は悪魔と契約した!きっとあいつは…2人を食べブフェッ!」


 咄嗟に右手でロディ先輩の鼻面を殴ってしまった。彼の金髪は音を立てて引きちぎれる。

「何しとんのや!こんっ…阿呆がっ!」


 悪魔契約、それは召喚魔法の一種だ。しかし、ただ召喚獣を呼び出して使役するだけの一般的な召喚魔法とは違い、悪魔を召喚した場合は使役をすることはできない。だから魂やら何やらを引き換えに、悪魔と取引を行うのだ。その危険性から使用が禁止されている魔法でもある。

 悪魔に魂を売る、まさにそんな感じだ。


「お前…何を得た?何を得て、何をやったんや!」


 俺が怒る理由は禁止されている魔法を使ったからではない。悪魔との取引でこの世界の人間は多くの叡智を獲得してきたのは事実なのだ。使いたい気持ちもわからなくはない。しかし…なぜロディ・ムスファに何も影響がないのだ。

 悪魔契約は何も…自分の魂だけが取引材料とはならない。気まぐれな悪魔次第では…他人の血肉などを捧げることも可能だ。古くは貴族が奴隷を供物に悪魔契約を行なっていたという記録もある。


「僕は…僕は…自分の研究のために…上質な魔力を持っている女の命を…」


 俺はロディに馬乗りとなって拳を何度となく振り下ろす。

 ムムール帝国は奴隷制を廃止した。つまり、悪魔契約を合法的に行える手段はない。だったら自殺覚悟でやるべきなんだ。傷つくのは契約者本人だけでいいのだ。それをこの男は…この男は…


「日和ったかロディ・ムスファ!」


 取引を恐れ、自分じゃない誰かを取引材料とした。そして悪魔に裏切られ…その悪魔は上質な魔力を持つ女を探して食い散らかしている。

 ロディは一昨日から拘束された。ということは…アルナさん、キリアさん両名を殺したのも悪魔の仕業というのか。そして俺はロディに化けた悪魔と会ったのか。もしロディに化けた悪魔がイレイラとリーエ先輩に接触を図ったら…気づきようがない。


「もう…やめ…イタイ…ウァァア…」

「最後に答えぇ。その悪魔の寝床はどこにあるんや」

「帝都の北…ムムリアの森にある旧ムムルカンド大聖堂…廃墟の地下」


 俺は最後に本気で右拳をロディの顔面に振り下ろし、気絶したそのクソ野郎の上から降りる。

「時刻は…22時10分。間に合うんか?」

 間に合ったとして…勝てるのか?悪魔に…


 ーー騎士にしては随分と弱々しいなーー


 どうして俺はここでそれを思い出すかな。

「行くしかないやんか。阿呆が…」


 俺は静かに箒を引っ張り出した。

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