手がかり求めて
リーエ・アイゼンシュタインの屋敷は思いの外簡単に見つかった。なぜなら…
「頭上から失礼します。リーエ先輩はいらっしゃいますか?」
「いたらこんな騒ぎになってない!」
リーエ先輩も行方不明となっていて、屋敷の周りが慌ただしく動いていたのだ。
じゃあ2人とも消えたというのか?一体どこに。
第一、なぜリーエ先輩はイレイラを指名した?
ロディ先輩絡みであることは言うまでもない。しかし、その根本的な理由はなんだろうか。わからない。
わからないが、次に向かうべきところは決まっている。そこがダメなら、俺はお手上げだ。
「君、待ちなさい。学生証は?」
「ここに…!急いでるんで、じゃ!」
「あ、おい…!」
帝都中央学院の敷地内に入るのは入試以来だ。俺は入学式まで効力を持たない新入生用の学生証を何食わぬ顔で警備員に提示して正門を抜け、【研究練】の案内標識を探す。
「あった」
目的地は第7研究室。ロディ・ムスファだ。少なくとも…彼が今回のキーパーソンで間違いないのだから。
俺は案内標識に従って走り、夜中でも明かりがついている研究練に入る。第7研究室は2階だ。
「ハッ…ハッ…ハッ…」
階段を上る足が重い。
正直、ロディ先輩が事件の関係者なら第7研究室にいるとは思っていない。きっとイレイラ達と同じ場所にいる。ただ何でもいい。手がかりを。
2階の廊下を走り、第7研究室の前に到着する。扉の隙間からは明かりが漏れていた。
「ロディ先輩!いませんか!ロディ先輩!」
扉を叩くが反応なし。扉を開けようにも施錠されている。
「くそっ…!」
廊下を確認。人影なし。
扉に両手をつき、頭の中でアッカリアの炭鉱を思い出す。
「【掘削】!」
父が唯一使える魔法【掘削】。石炭を掘り出すのに用いる魔法だが、木の扉に使えば…
ベキベキベキッ!と派手な音を立てて扉に大きな穴ができ、そこから中に入室する。絶対に弁償しようと思うが、今はそれどころじゃないのだ。
「誰かいませんか!」
そう叫んでみるが、小さな部屋の中には書類の山がいくつもあるだけで、人1人いなかった。
ロディ・ムスファは研究の虫と言われるほど熱心な研究者だ。研究室が自宅も同然の生活をしている。まさか…ムスファ伯爵家の屋敷にいるのか?
「おい!何の音だ!」
マズい、誰かが来る。
「何かないのか…何か…」
無理だ。手がかりなんてそんな簡単に見つかるわけがない。ゲームじゃないんだぞ。
「諦めきれるか」
書類の山を崩して、それらが乗っていた机に何かないかを探し、研究書が詰まった本棚に隠し扉のスイッチがないかを探し、床下や空間に魔法で細工が施されていないかを探す。でも素人の俺では何1つ見つけられなかった。
「何もない…」
こうしている間にもイレイラが…いや、もうすでに…
「第7研究室は空振ったか」
次はムスファ伯爵家の屋敷に行くか?でも屋敷の場所は知らない。
しかし手詰まった俺が部屋を出ようとした時、それは不意に聞こえた。
ーーコンッ…コンコン…ーー
小さな音だ。夜の静けさがなければ、まず聞こえないであろう…何かをノックするような音。
「…」
俺は最後にその音源が何かを見つけてから、部屋を出ようと思い、耳に神経を集中させる。
「この壁からか?」
音がするのは隣の空き研究室との間にある壁かららしい。
「誰かいるのか!」
ーーゴンッ!ーー
俺はダメ元で隣の空き研究室の扉もぶち破り、中に踏み込む。すると、そこには…
「んー!んんー!」
人が束縛された状態で床に転がっていた。
「…は?」
その人物が壁を蹴っていたようだが、俺は思わず間抜けな声を出してしまう。
「なんであんたがそこにいるんだ…!」
俺はその束縛された人物…ロディ・ムスファの胸ぐらを掴み上げた。




