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結局俺は繰り返す

 前世の経験を踏まえ、俺は「やっぱり勉強しよう」と思った。そこからは佐藤拓郎が後悔したことを前提に生きてきた。例えば、いい友達を持つこと、異性にも積極的になること、もっと周りを見ることなどなど。前世では出来なかったことを今に活かそうとしているわけなのだが…それでも俺は夜になって後悔をする。


 なぜ、俺はあの時、ナグルの話を聞いた後、イレイラの元に向かわなかったのだろうかと。


「おーい、スノリいる?」

「寝てるぜ?なんだ?」

「…ナグルか。客が来てる。起こしてくんね?」

「女か?」

「あ?お前には関係ねぇだろ?」

 ちょうど腹が減り、外も暗くなった頃、俺を呼ぶ声で目を覚ます。

「どうした?」

 完璧な昼寝に成功していた俺は、扉の前にいたナグルを押し退けて、俺を呼びに来たアレンの前に出る。

「箒の君ってお前のことだろう?なんか女子3人が泣きながらお呼びだぞ。何やったんだ?」

「ホウキノキミ?」

「あれじゃないか。飛行魔法の」

「あー、で、俺、なんかしたのかな」

「さぁ?ロビーにいるから行ってこいよ」

「おー、サンキューな」


 アレンを見送り、俺は新聞配達で稼いで買ったコートを着て部屋を出る。時刻は21時26分。


「おいスノリ、いつから箒の君になった?」

「知りませんて」


「俺達も呼んだ方がいいか?」

「やめてください」


「箒の君、女を泣かせるのはいかんぞ」

「わかってますよ。ただ、心当たりがないんです。とりあえず事情を聞いてみます」


 階段を降りて、ロビーに向かう。すると寮母マルメさんが困った顔で待っていた。

「マルメさん!」

「イレイラちゃんのお友達だってさ。外で待ってるわ。はい、よくわからないけど…外出は許可してあげるわ」


 あ、絶対にヤバいやつだ。


「ありがとうございます」

 俺は昨日に引き続き、マルメさんから木札をもらって外に走る。

「あ、出てきた!」

 出てすぐ、3人の女子が俺を囲む。2人は今も泣いていたが、唯一落ち着いていた1人が口を開く。

「箒の君、あの…」

「スノリだ。それでどうしたんですか?」

「スノリさん、イレイラとはいつお会いに?」

 よせ。やめてくれ。

「朝方に会ったのが最後ですが…」

「あら…どうしましょう」

 やめろ。冗談だろ?


「イレイラが門限になっても帰ってこないのです。外出許可ももらってなくて…」


 自分の血の気が引いていることがわかる。

「どうして…何があったんですか?」

 ヤバい。どうしていいかわからない。

「リーエ先輩がイレイラを連れ出したのが最後で…」

「え?」


 ーーリーエ・アイゼンシュタインはロディ・ムスファの元恋人だろ?ーー


 ダメだ。マズい。これは絶対に最悪な状態だ。

「いつ…いつ出ましたか!」

「じゅ、15時くらいだったかと…」

「どこに行ったかは?」

「わからないのです。だからスノリさんなら何か知っているのではと」

 どうして俺なら知っていると思ったのか、いや、今はそれどころじゃないな。

 俺は箒を取り出し、すぐに跨る。


「帝都警察に連絡を。俺は探しにいく。君達はすぐに帰るんだ。大丈夫、必ず見つける」

「わかり、ましたわ。お願いします」


 俺は勢いよく地面を蹴って飛行魔法で浮き上がる。

 しかし、ゲームと違ってノーヒントだ。イレイラがいる場所に心当たりはない。ましてや、リーエ・アイゼンシュタインは情報不足。帝都中を探せというのか。

「いや、落ち着け」

 イレイラの居場所に心当たりがない以上、候補を1つずつ潰していくしかない。まず疑うべきは…

「リーエ・アイゼンシュタイン」

 俺は寮を飛び越えて裏に降りると、3階のとある窓を強めに叩く。

「なになになにって…スノリ?」

 窓を開けたのはナグル。俺は彼の肩を強く掴んだ。

「ちょ…え?」

「リーエ・アイゼンシュタインの家はどこだ?」

「は?え?どうした?」

「言え!早くしろ!」

 時間が惜しい。

「に、西地区にあるムムルカンド大聖堂の近くだ」

「詳しく言え!頼むから!」

「大聖堂通りのどこ…どこかだ!赤薔薇の家紋が飾られた屋敷!」

「すまん」

 俺はナグルを突き飛ばし急上昇すると、進路を西に取って、自分が出せる最高速度で飛ぶ。

「西地区は貴族の屋敷が多すぎる。くそっ…赤薔薇…赤薔薇…赤薔薇…」


 あぁくそ…イレイラ、どうして俺は…!

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