恋とは
スノリ・ブラウンは私に出来た最初の友人だった。スラム街に生まれ、近くの売春宿で下働きをしていた私にとって、あいつの真っ直ぐな目はまだ照れ臭く感じる。
ーー俺のイレイラに手を出そうとした…ーー
「イレイラ?」
「どうかしたの?」
「元気ないわ」
「大変ね」
「元気分けてあげる!」
「ほら口開けて、あーん」
「「「きゃー食べた!可愛い!」」」
きっとあの発言に他意はない。わかっている。あいつは妙に大人ぶって、いつも余裕のある態度を見せているから…ああいう発言に恥じらいもないのだ。でも、私はあいつのその余裕に何度も助けられた。だから…だから、ロディ・ムスファという子男からの告白など眼中になかったというのに…!
「大変!イレイラの眉間に皺が!」
「あら、クッキーじゃないのね?」
「チョコ、チョコならあるわよ」
「なら急いで。イレイラの顔がオーガも殺せそうなほど怖くなってるわ」
「そうよね。甘いもの食べれば元に戻るはずよ」
「さささ、あーんして」
「「「あぁ!可愛い!」」」
いや、そもそも私はスノリのことが好きなのか?初めて出来た友人だから特別意識しているだけじゃないか?
「あれ?でも皺が取れてない」
「あらあら…」
「誰かホワイトチョコ持ってない?」
「はい!ここにあるわ!」
「あるなら早くしなさいな」
「はいはい、あーん」
「「「あぁん、可愛い!」」」
いやでも…他の男子より…
「なぁ?かっこいい、付き合いたいと思う男子って誰だ?」
「「「え?」」」
「いや、やっぱりいい」
他人の意見など参考にもならない。要は私があいつをどう思っているかだ。
「え?恋話?え?」
「あらあらあら、どうしましょう」
「私達のイレイラが恋をしているだなんて」
「大変ね。誰かしら?」
「それはほら…箒の君なのではなくて?」
「ああ!きっとそうだわ。はい、あーん」
「「「あぁ可愛いすぎるぅ!」」」
どうって…見てくれは確かに筋肉質で私よりずっと大きくて…その、いいとは思うが…喧嘩はめっぽう弱く、見てくれだけの男で頼りない。でも勉強だけはよくしているし、周りもよく見ていて、困っている時はいつも助けてくれる。
「もうイレイラはどうしてこんなに愛らしいの?」
「あらあらあらあら、それはイレイラだからに決まっているでしょう?」
「あぁ…好き。考え事してるイレイラ、いいわ」
「「…あぁ、いい」」
逆にスノリは私をどう思っているのか…
「イレイラの顔が怖くなった」
「あらあらあらあらあら、ホワイトチョコは?」
「まだあるわ。ほら、あんして、あーん」
「「「はわわわぁ…」」」
今日だって、私がずっと睨んでたことだろう。脛だって蹴ったし…印象は酷いのではないだろうか。いや、それだったらどうして会ってくれるんだ?
あ!私からしか食事に誘っていない。まさか無理矢理付き合ってくれているだけでは…
「イレイラ?」
「あらあらあらあらあらあら、今度は何?」
「…真っ青だわ」
「きっと箒の君と何かあったんだわ」
「そうね、きっとそうよ」
「呼ぶ?箒の君を」
「「まぁ!」」
だとしたら、私…最低だな。好きとか嫌いとか言ってる場合じゃなかったんだ。
「ねぇここにイレイラ・ブルシェイプっている?」
む、誰かが私を呼んでいる。今、考え事をしている最中だというのに…いったい誰が。
「私がイレイラですが」
「ロビーにお客様。リーエ・アイゼンシュタインさんが待ってるわ」
リーエ先輩?
「わかりました。すぐに向かいます」
何の用だろうか?同室のピフィじゃなくて私にとは…
「「「あぁんイレイラぁ」」」
「すまん。また後でな」
「「「そんなぁ」」」
そういえば、帝都中央学院の入学式が始まるまで、もう会う口実がないんだった。今日の帰り道…予定を聞いておけばよかった。




