陰と鬱が彼女を覆う
どこまでも哀しい背中を漂わせるメイドのお姉さんことショコラさん。
「私は嘘をついてない…ついてないの…。」と小さく呟く姿は涙を誘う。
全面的に俺が悪いので彼女の汚名を晴らす為に拳を握る。
思いっきり大地を揺らしたことで騎士達に動揺が見られる。こんな子供の一発が重いとは思わなかった?
「い、今のは君が…。」
「そうですよ。それよりも早く王様の居場所を教えなさい。じゃないと、少し痛い目に遭うことになりますよ。」
ニコリと笑って悪役感を醸し出す。
「じょ、冗談もそれくらいにしとかないと我々は君を捕まえなきゃいけなくなるよ。」
と言いつつ武器を構え始めて警戒を露わにする。
「冗談ではなく本気です。そこのメイドさんより貴方達の誰かの方が王様の居場所詳しそうですから教えて下さい。じゃないと、私はあなた方を殴らなきゃいけなくなりますよ。」
同じ様な言い方でお返しする。
シルフィードって人との睨み合いはやがて終焉を迎えた。
「なら捕まえさせてもらう!!」
もう優しい口調ではなく罪人に対するような言い方。
チッチッチ、そんな雑な女性の扱い方しているとモテないよ。
シルフィードは腰に携えていた長剣を鞘のまま抜き振り上げてきた。
鞘を抜かない脅しと手加減なんてお優しい。でも、それは戦士に対して侮辱だ。これがセイル様だったら容赦なく剣を抜いて斬りかかってくる。アルフだったら剣を鞘ごと目の前に投げ捨てて土下座していた。
あまり甘く見るなよ、帝国の騎士様よ。
俺目掛けて振り下ろされるそれは寸前で止めるつもりなのか力が弱い。
俺は右腕に身体強化を施して迫る優しさへ思いっきり殴りつけた。
他の騎士様より装飾豪華なところを見るにお高いのでしょう。
でも残念、もうその剣は鞘ごとお亡くなりになりました。
拳を叩きつけた部分を起点に見事綺麗に折れました。
理解が追い付かないシルフィードは時間にしたらほんの数秒呆気にとられてしまう。
しかし、その数秒をアリスは見逃さない。
「戦いにおいて甘さを見せるな。」
助言と一緒に鎧に包まれたお腹へもう一度右拳を叩き込む。
そんなに優しさを見せたいなら完膚なきまでに殴った後にしようね。
鎧越しであるにも関わらず内部へ伝わる重く響く一撃。
彼の意識はとうに離れて吹っ飛ばされて行く。
それが偶々ショコラさんの辺りに飛んだのは本当に偶然………本当だよ。
「さて残りの騎士様方、王様の元まで案内して下さいますか?それとも戦いますか?」
挑発的に手でおいでおいでしながら聞いてみる。
それがカチンと頭にきたようで威勢良く皆さん襲って来た。シルフィードを見た後だからもう手加減無しで殺す気で来てくれる。
そうそれ、戦いはこうでなくっちゃ。
騎士様方の全滅はそう時間が掛からなかった。最初の動揺が尾を引いて居たのだろう。
でも、これで困った。
案内役が居ない。
そういえばと思い、チラっとショコラお姉さんを見る。
そこに居たのは陰鬱とした陰りを纏わせて気絶したシルフィードの腹を蹴るメイドの姿でした。
鎧着ているから蹴ったら逆に痛いはずなのに彼女は全力で蹴っている。それも呪詛のようにブツブツ呟きながら、凄い怖い。
「私を信じなかったからこうなるんですよ。私はあんなに訴えたのに。どうして信じてくれないの?ねぇ、どうしてシルフィード様。ねぇ、返事をしてくださいよ。」
「…………。」
案内をお願いしたいけど近寄りがたい。
でも、早く王様に聞かなくちゃ。
「大体他の騎士共も普段私にナンパしたりカッコつけてくる癖に幼子一人にボッコボコって笑わせてくれますね。ふ、フフ、ふふふふふ。」
「あ、あのー…。」
グリンと首だけがこっちを向く。
ちょっと瞳孔を目一杯開いて見ないでもらえますか怖いので。
「………なんでしょうか?」
「王様の所まで今度はちゃんと案内してもらえますか?」
「………………私がこんな怖い思いしたのは王様が元凶でしょうか?」
「え、あ、う、うん。」
元凶かどうか分からないから聞きに行くんだけどとても怖いから同意する。
「………是非案内致しましょう。皇帝陛下にはしっかり私の味わった哀しみの代償を受けてもらわないといけません。」
「う、うん…そだね。」
ユラリと身体を揺らしながら俺の傍までやって来た。
普通のメイドなのに纏う覇気は殺戮と破壊に染まっている。
…………大人しくついていこう。




