あの日あの時あのメイド
不思議なお兄さんと別れた後、俺は早速城内に入る為周囲を探る。
何処から入ろうかな。
ここはやっぱり手頃に開いてる窓を見つけてそこから入るに限るか。
巡回する兵士に気を付けながら開いている窓が無いか虱潰しに探して行く。なんかやっている事が泥棒の下調べみたい。
どんどん聖女から離れていく自分に寂しさを感じるもようやく開いている窓を発見。
通路の窓の一つ、歩く気配もあるけど距離的には少し遠い。気配は感じても内部の構造まで分からないからどの位置に居るか把握出来ない。
元々見つかって上等の殴り込み覚悟だから最悪交戦も仕方がない。
でも、可能なら無駄な争いは避けたい。
俺は意を決して開いた窓からぬるりと侵入。
侵入したらまず確認するのは周囲の確認、右見て左見…あ。
箒を持ったメイドさん。
突然窓からやって来た泥棒聖女に口を間抜けなほどポカンと開けてこちらを見つめる。
目と目はバッチリ合っている。
言い逃れも何も出来ない。
もう片方の手に持っていた塵取りをポトリと落としてついにメイドが放心から覚醒する。
「あ、貴女はいつぞやの旦那。なんでこ、ここに!?」
このメイドさん何故か俺の事を知っている。
え、誰?
「え、ちょっとその顔忘れてる顔をしてますね。ほら、貴女が豚野郎の屋敷に殴り込んで来て怯える私を脅して案内させたじゃないですか。覚えていませんか、この手を擦り合わせてへらへら揉み手をしていた私を!」
親切な説明。
確か豚司教に殴打を捧げるって話の時……こほん、豚司教に殴打を捧げるって誓った時に出会った面白いメイドだ思い出した。
でも、なんであの時のメイドが?
「ふっふっふ、どうして私がここに居るかと思っているようですね。それは………あの後そこの屋敷でのお勤めを解雇されまして…はは。その後勤め先がフリード殿下の身の回りの世話になったかと思えば出勤初日に解雇ですよ……へへ。どうしたんです?笑って下さいよ、この私をはは。」
口では笑っているのに両目から涙を流すメイドさん。
釣られてもらい泣きしそう。
多分、俺もお姉さんのこれまでの経歴に関係あるっちゃあるよね。
罪悪感が波のように訪れる。
「なんか、その…ごめんなさい。」
「謝らないで下さい。こんな時は笑えば良いですよ。」
笑えない。
笑えないよ。
「ズビビビ、それで貴女は今度は何の御用でしょうか?見たところ明らかな不法侵入に見受けられますが…。」
垂れてた鼻水を啜ってこちらに用件を伺って来た。
このメイドさんたくましい。
もう切り替えて侵入者に向ける目で箒を構えている。
「私はちょっと探し物を探しに来ました。」
「探し物?」
「はい。それでお姉さんにお願いがあります。」
「嫌!!」
用件も言えずにすぐ断られた酷い。
でも、酷い事している自覚があるので何も言えない。
言えないからごめん。
以前と同様にお姉さんの首に手刀を添えるため近付く。
今回は箒を抜き取らず手刀で千切りにしてみた。
呆然とするお姉さんの首筋へそっと労るように手を添える。
「お姉さん、ごめんなさい。また案内お願い出来ますか?」
「………………。」
返事が無い。
ただの屍のようだ。
ちょっと力を込める。
「はい、喜んで!!」
メイドさんの元気いっぱいのお返事を頂きました。
本当にごめん。




