その日突然裏切りを
帝国との争いが始まる共和国を離れ始めて約二日。
まだまだシェアローズまでは遠い。
皆の表情は相変わらずどこか暗い。特に共和国のお姫様達は食事があまり進まないくらいの酷さ。夜、誰かの噛み殺したように泣く声も聴こえる。
いずれ明るい時が来るんだろうか。
なんて言ってたら早速時は来た。
されどそれは決して明るくはなさそうだ。
王国目指して三日目に突入。今日も憂鬱な馬車生活かぁ、なんて思った矢先に訪れてしまった。
俺達の乗る馬車が急に停まる。
何事か馬車の窓から顔を出すと、先頭を行くフォルクスさんの更に先に立ち並ぶ見慣れない兵士達。
共和国でも教国でもない、当然王国の兵士でもない。
「あれはギルムンド帝国…。」
一緒に確認したスゥ様が呟く。
現在、絶賛敵対関係のお相手じゃないか。数は百人を超えているかな。
「どうしてここに?」
俺の零れた呟きに答えるかのように帝国兵の代表らしき人物が声を上げる。
「貴様達に告げる!直ちに全員馬車から降りよ!さもなくば、この場で全員皆殺しに処す。」
やけに通る声から出たのは脅迫。
従う他無い。
俺はともかくトワレ様やノルン様が危険だ。
スゥ様達?
多分一応おそらく、スゥ様達も危険だ………と思う可能性は無いとは限らないはず。
出された命令に俺達は大人しく従い、馬車から降りる。
降りた俺達を出迎えるように先程を声を上げたであろう男とそれに付き従うように帝国兵達もやって来る。
「ようこそお待ちしておりましたよ、トワレ殿とノルン殿。おぉ、それとシェアローズ王国の皆様。私はギルムンド帝国軍将軍が一人、ガナッシュと申す。以後、お見知りおきを。」
甲冑越しでも分かる筋骨隆々な体格。他の帝国兵よりも強そうではある。
「さて挨拶はこれくらいにさせて頂いて用件を言いましょうか。トワレ殿、そしてノルン殿、大人しく我々に捕まって頂きましょうか。」
反抗させない為か、帝国兵は綺麗な隊列をそのままに槍や弓、そして剣をこちらに構える。
「帝国め、誰が貴方達に従うか!私はそう易易と捕まるつもりはございませんわ!!」
負けじとトワレ様が怒鳴る。
しかし、それを嘲笑うかのようにガナッシュは不敵に笑う。
「はぁ、愚かな姫君だ。どうして我々がこの場に居ると思う?」
「え?」
「我々は貴様達がここを通るのを分かっていたからだよ、協力者によってね。」
「え?」
「なぁ、協力者殿。」
そう言ってトワレ様の喉元に長剣が添えられた。
俺は添えた人物に目を見開いてしまう程に驚く。
フォルクスさん。
「どうして…貴方が?」
俺の疑問に連動するようなトワレ様も問いかける。
「いやいや、私としては共和国に何の興味も無いのですがね。ただ私の目的の為に協力したまでですよ。」
淡々と何の感情も乗っていないその言葉はどこまでも冷たい。
「目的?」
「えぇ、私の目的は………お前だ、不愉快な平民よ。」
冷徹な言葉は冷たい視線と共に俺へ向けられる。
俺が目的?
「どうした、驚いたか?そうお前が目的だ。忌々しい平民め、出会った時から貴様が不快であったよ。」
そうか…。
フォルクスさんはあれだ、貴族至上主義の人だったのか。全然気付かなかったや。
「幾度も死ぬ機会を与えてやったというのに浅ましくも生き残りおって。まぁあの珍獣共が不甲斐ないのもあったがな。ふ、だがもう貴様は終わりだ穢れし聖女よ。」
何度も殺そうとした?
珍獣達ってあの元王子とか勇者達のこと?
仕向けていたのは貴方だったの?
「ふふ、怖いか?まあ安心するとよい。私からせめてもの慈悲だ、親しい友と共に死なせてやる。」
フォルクスの視線は俺から後ろのスゥ様達へ向けられる。
「まさか…姫様まで殺すつもりですか!」
「当たり前だ、のこのこ生かしておく理由があるまい。」
どうして?
どうしてどうして?
どうしたらいいの?




