悪役は令嬢だけとは限らない
遡ること少し。
大体聖女アリスが共和国を目指した数日後くらい。
今回の悪役の総本山はこちらのお城。
築100年以上を越え、数多くの歴史に携わった由緒あるバンドラ城(190歳)。
そんな彼?の中で悪さを企む奴らがお話をしている。
一人はやや褐色な肌に貼り付けたような笑みを浮かべている男。
「ではでは、これにて私はお暇させて頂きます。」
「あぁ、ご苦労だった。貴様の寄越した品々上手く活用させてもらおう。」
ギルムンド帝国皇帝グラジェフは満足そうに顎を擦る。
「はい、私共はギルムンド帝国の栄光なる躍進を遠くより見守っております。また何かご注文がございましたらご連絡下さいませ。」
「うむ、そうさせてもらう。貴様の助力には感謝している、アーランド共和国を支配した暁には何か褒美をやろう。」
「これはこれはありがとうございます。………でしたら、是非とも共和国の聖女なる者を頂けないでしょうか?」
「あんな年増を欲しがるか。貴様は奇特な趣味を持つようだな。」
「グラジェフ様は酷うございます。私も人です、変な事は一つや二つございますよ。」
「ハッハッハそうかそうか、まぁ良かろう。支配の後に聖女をやろう。」
「ありがとうございます。では、わたしはこれで失礼致します。」
「うむ。」
そして、軽い挨拶を交わして褐色の男はその場を去る。
皇帝は後ろ姿を見送る。
「あの狐目は何を考えているのか。だが構うまい、利用するだけ利用させてもらおう。」
皇帝が信ずるものは己のみ。
例え肉親であろうと利用する。だから、あの狐目の商人もまた利用してやる。
そして、最終目標は帝国による大陸支配。
実現可能な戦力は整いつつある。完全に準備が終わり次第、共和国そしてシェアローズ王国や教国その他の小国全てを武力制圧していく。
傍らに置いていたワインを口にしほくそ笑む。
己が全ての頂点に立つ光景を思い浮かべたら可笑しくて仕方がない。
そんな皇帝の元へ、新たな来訪者が。
息子のバロン、第一皇子だ。
「父上、これから戦争を始めるのですか?」
「そうだ、どうした今更怖じ気づいたのか?」
「いえ、その…戦争にあたって父上へ進言したいことがあります。」
「この私にか?」
父であっても皇帝。
そんな存在に進言。
しかし、バロンの目は覚悟と皇帝に対してではない怯えが垣間見える。
「はい。父上はゆくゆく共和国を統治した後、シェアローズ王国にも戦争を仕掛けるのでしょう?」
「当然だ。」
「でしたら、あそこの聖女には十分な警戒が必要です!あの女は危険です!」
思わず声が荒くなってしまう。
「落ち着け。確かシェアローズの聖女はまだ子供ではなかったか?」
「はい、ですが子供であって子供ではない。あれは一種の化け物です。」
「化け物?」
「そう化け物です。教国の交流会で目の当たりにしたあの女の起こした惨劇、あれがもし帝国に向けばかなりの脅威になると思います!」
「そうか分かった。お前の忠告はしかと聞き届けた。十分に注意しようではないか。」
「父上…。」
父親の声音に真剣さが無い。それを感じ取り落胆する。あの日見たおぞましい光景を父親にも見せれたらどれだけ良いか。
こうして、父への忠告が無駄に終わったと悟るバロンは諦めて出ていく。
父親はそんな息子を日和るなんて愚かなと冷たく蔑むのだった。
「くそっ、こうなったら自分の周りを強固にしておくしかない。シェアローズと戦争となればあの女が動かない訳がない。冒険者を雇うか、それとも…。」
「これはこれはバロン様。悩ましげにどうなされましたか?」
「ん?貴様は確か父上のお抱え商人だったか?」
「はい、そうでございます。それでバロン様はどうなされたのですか?」
相変わらず瞳の色を覗えない狐目に作った笑み。
けれど、声音は心配そうに問いかける。
「あぁ、実は…。」
シェアローズに居る聖女の恐ろしさを商人に伝える。
「なるほどシェアローズの聖女ですか…。ならバロン様、私が最高の戦力をご融資致しましょう。」
「なに?」
「グラジェフ様にはいつもご贔屓頂いているので、そのご子息様にもお力になりたいのです。」
「おぉっ!!そうか、ありがとう!では、頼むぞ。」
「えぇ、お任せ下さい。最高品質の戦力をご用意致します。」
褐色商人の口は三日月のようにニンマリと歪む。
その不気味さは誰にも気づかれることは無かった。




