壁を背にドンされた話
もしかしたら爺ちゃん勇者説が浮上してしまった。
でも、俺は違うと思いたい。
だって、あの爺ちゃんが元勇者なんて一欠片も思えない。1に戦闘2に戦闘、食事を挟んで4と5でも戦闘を。
そんな爺ちゃんだ。
最後に見た日も「ちょっくらドラゴンと戦ってくる」と言って出て行ったんだ。
そんなちょこっと戦闘好きの普通の村人が勇者だった訳がない。
だから違うと思う。
そう考える俺は現在、辺境伯家の人目の少ない通路でアルフに迫られていた。
アルフの両腕が壁を突いてるために、俺は壁を背にする形で動けない。
あ、アルフ……気持ちは嬉しいけどごめん。俺、ドラゴンを素手で殴り倒せる人が好きだから…。
可哀想な目で見られた、なんだよ。
「さてさっき会食の時、様子がおかしかったな。何か隠しているだろ?」
な、どうして!?
隠し事がバレるには些か早過ぎる。
「いや、あんだけコロコロと表情を変えまくってるのを見てたら誰でも分かるだろう。今も何故って驚いた顔をしているし。まぁ、そういう素直なところがその…なんだ、可愛いと思ぅ…。」
アルフが何か呟いているが、俺は自分の顔をペタペタ触り落胆していた。
「こほん、で何を隠している?勇者の事で悩む事でもあるのか?大方、どうにか戦えないかとか悩んでいるんだろう。本当に喧嘩っ早いなぁ。駄目だからな、外交問題とかに発展させたくないからな。」
アルフが俺をどう思っているかよーく分かった。
どうもすぐに手を出すお転婆だと思っているみたい。
凄く心外。
そりゃあ、ほんの少しいやまあそこそこには戦えたらなぁって気持ちはある。
だからってすぐに殴り掛かるような真似はしない。
ちゃんと許可を取る。
「いや、許可を取っても駄目だから。」
「ぶー。」
アルフも頭が堅い。そうか、ノートンの頭でっかち具合は主に似たのか可哀想に。
後ろで控えるノートンに憐れみの視線を捧げる。
「とても理不尽な視線を感じたのですが…。」
プイッと目を逸らす。
ふーでもどうやら悩んでいる事まで察せられてないようだ。
これはこのままこれで押し通そう。
「分かったよ。俺から勇者様に遊びのお誘いはしません。」
俺はしっかりと宣誓。
まだじっと疑うように見ているけど、しばらく見つめ合った後に解放された。
まったく、幼気な乙女を壁へと追い詰めるなんて紳士としてどうかと思うよ。
そう言うと鼻で笑うからお腹を殴った。
蹲る王族といつか慣れますと励ますノートンを残し、今日俺の就寝用に案内されていた部屋へと帰る。
あとは寝るだけ。
この町を出るのは明後日。
明日は一日中治療に専念したいし、本日はもうお休みとするか。
さてベッドの下に隠れていた変態が率いる侵入者三人を鉄鎖でしっかりと捕縛して廊下にポイ。
『私達は寝込みを襲おうとしました』の立て札も置いておく。
これでメイドさん方も理解して運んでいってくれるでしょう。
おっと、布も噛ませとかないとね。唸ってやかましいから。
それじゃあ、お休みなさい。
明日からの聖女活動頑張ります。




